Kan Sanoの音楽的ライフ【観ずる日々】第21回:考えることについて
新世代のトラックメーカーとして注目を集める金沢市出身アーティストKan Sanoの音楽的ライフをちょっと覗き見。
気がついたらもう6月。今年に入ってから月日が過ぎるのが異様に早い。本当に早すぎる。昨年も早かったが、今年はさらにスピードが増しているし、何もできないままただただ時間だけが過ぎていく気がして焦る。実際には何もできていないわけではない。むしろ昨年は例年に比べ仕事がかなり忙しかったし今年もそうだ。仕事は充実しているのに日々の暮らしに充実感が足りないのは、恐らく外出して遊んだり、人と会う機会が減っているからなのだろう。このまま来年も再来年もコロナの日々が続き、数年後満席のライブハウスで演奏する頃には僕もお客さんもみんな老け込んでいるのだろうか。ちょっと笑えない。
僕の場合、「何かしなければ!」という焦りは曲作りに向かっていると思う。実際に昨年は自分の活動もプロデュースもリリースが多かった。
20代の頃より30代の今の方が圧倒的に仕事が楽しい。音楽制作が楽しい。音楽を生み出す過程で苦悩はもちろんあるが、今はいくらでも曲が書ける気分だし、良い状態がずっと続いている自覚がある。この状態がいつまで続くのか分からないが、どこかで一度落ち着くのは間違いないだろう。その時の自分をどう受け入れればよいのだろう。かなり落ち込むような気はする。今はまだ先のことが考えられないし、できるだけ考えたくない。上手に歳を取れたらいいが、なかなか難しいなあと思う。42歳の厄年が今はちょっと怖い。
80歳まで音楽を続けることをなんとなくの目標にしているが、そもそも80歳まで生きているかも分からないし、明日死ぬかもしれない。先のことなんて考えても分からないし、考えた通りにはならないし、考えない方がいいんだろうなとは思う。それでもまた考えてしまう。こういう面倒臭い思考の繰り返しが80歳までずっと続くのだろうか。どこかの時点で吹っ切れて以後は楽になるのだろうか。今のところその兆しはまったく見えないし、覚悟しておいた方が良さそうだ。考えることは生きている証とも言える。人が生きるってそういうことなのだろう。そう思った方が多少は気持ちが楽だ。
◯Kan Sanoの音楽的ライフコラム【観ずる日々】
執筆者プロフィール
Kan Sano
石川県金沢市生まれ。キーボーディスト/トラックメイカー/プロデューサー 。バークリー音楽大学ピアノ専攻ジャズ作曲科卒業。FUJI ROCK FESTIVAL、RISING SUN ROCK FESTIVAL、ジャイルス・ピーターソン主催 World Wide Festival(フランス)など世界中の大型フェスに出演。 2019年アルバム『Ghost Notes』をリリース。テレビ朝日「関ジャム 完全燃SHOW」への出演でも注目を集めている。