Kan Sanoの音楽的ライフ【観ずる日々】第56回:Searching for the perfect 眼鏡
金沢市出身のキーボーディスト/プロデューサー・Kan Sanoが綴るエッセイ。新世代のトラックメーカーとして支持されるアーティストの音楽的ライフを覗いてみよう!
今の美容室に通い始めてもう9年経つが、完璧なヘアスタイルに出会ったことがない。美容師の腕に問題があるわけでは決してなく、僕の心変わりと言うか、無いものねだりしてしまう性分に原因があるのだと思われる。過去には「これは完璧だ!ずっと探し求めていたヘアスタイルがようやく見つかった。これからはずっとこれでいこう。」と思ったことも何度かあった。が、少し経つと、気になる点が見つかり、何となく気分が変わり、また違うヘアスタイルを試してみたくなる。そんなことを繰り返して、結局二年くらい前のヘアスタイルに戻る、みたいなこともある。
同じことが眼鏡にも言える。あーでもない、こーでもない、と言いながら毎年眼鏡を買い替え、なんだかんだでまた元のに戻る。そんなことをもう何年も繰り返している。
考えてみれば、自分が使っている物、たとえば音楽機材とか家具とか服とか、あらゆる物に関しても同じ感覚が少しある。自分にとってそれは完璧ではなくて、他にもっと良い物があるのかもしれないと思いつつ、かと言って現時点では他に見当たらないし、仕方なく、とりあえず使っているという少し消極的な状態。お気に入りの眼鏡や服もあるにはあるが、実際のところ思い入れの強い物はそんなに多くない。
DJのGilles PetersonのXのプロフィールには今でも「Searching for the perfect beat」と書いてある。カッコよく言うとつまりそういうことなのだろう。僕もミュージシャンとして、最高の一曲を作りたいし、最高のライブをやりたいと常日頃思っているが、結局それを実現できたとしても翌日にはもう次のことを考え始めているし、また振り出しに戻っている。人生とはperfect beatを見つけることではなくて、見つけるために進み続けることなのだろう。目的や結果よりもプロセスが大事なのだ。
そんなことを考えながら、次のヘアスタイルをどうしようかまた悩んでいる。