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Kan Sanoの音楽的ライフ【観ずる日々】第71回:九州ツアーを終えて

金沢市出身のキーボーディスト/プロデューサー・Kan Sanoが綴るエッセイ。新世代のトラックメーカーとして支持されるアーティストの音楽的ライフを覗いてみよう!

 

7月に九州に行ってきた。ツアーらしいツアーはかなり久々だった。ツアーの1週間前に風邪をひいてしまい内心結構焦った。頭痛がずっと続いていて喉も痛かったけど悪化しなかったから助かった。ライブ前の体調管理って本当に難しい。最近も知り合いのシンガーソングライターとそんな話をした。みんなどうやってるんだろう。体調を壊す時はいつも喉とお腹から始まる。とにかく喉が弱い。

 

家にいるのは好きだけど、引きこもりの日々が続き過ぎるとメンタルが窮屈になりがち。適度に外に出て人と会う時間はやっぱり大事だ。自分にとってライブは人と会って同じ時間を共有する最高の機会。ライブ会場は緊張する場所でありながら、気分転換できる場所でもある。自宅での制作と外でのライブ活動を良いバランスで行ったり来たりできている状態が身体にもメンタルにも一番良い。

 

ライブはやっぱり楽しいし、充実感で満たされた3日間だった。前回のライブから1ヶ月以上空いていたので、このコラムで度々書いてきた「ライブの筋肉」がすぐ戻るか心配だったけれど、1日目福岡の後半にはすっかり戻った感じがした。

 

家で練習してると1時間半歌い続けるなんてしんどくて無理だけど、ライブだとできてしまう不思議。人の視線や気配というのは演奏に対して緊張の糸を張らせる。ライブにはその緊張感が必要不可欠だし、同じ空間に人がいることの大きさを改めて実感した。

 

3日間ライブが続くのはいつぶりだろう。3年ぶりとかだろうか。体力と喉が保つか不安だったけど、これもやってみたら全然大丈夫だった。正確に言うと、2日目長崎の後は疲れがちょっと出ていた。打ち上げはビール1杯までにして、ホテルでしっかり休んだのが正解だった。3日目熊本はまた集中力を取り戻せたし、風邪もほぼ完治していたから調子が良かった。3日間でステージに慣れてきたこともあり、最終日が一番リラックスして演奏できた。2日目のホテルのエアコンは最適温度に調整するのが難しく、夜中も度々リモコンのオンオフを繰り返していた気がする。体調管理、難しい。

 

今回の裏テーマは「生ピ縛りツアー」だったので、福岡、長崎ではグランドピアノ、熊本ではアップライトピアノを弾いた。音響機材は最小限のやり方で最大限の効果を狙うべく、感度の高いコンデンサーマイク一本のみを立てて収音した。これがとにかく楽しかった。細かい音のバランス調整を人力でするしかないので、普段はほとんど使うことのないソフトペダルをかなり駆使しつつ、マイクとの距離や声量、歌い方を本番中にいろいろ試しながらやっていた。凄くクリエイティブな3日間だった。

 

左足でソフトペダルを、右足でサスティンペダルを、左手でベースを、右手でメロディやコードを。それらのことを同時にこなしながら眼でiPadの歌詞を追いつつ喉を鳴らす。日常生活では二つ以上のことを同時にこなすのが苦手な性分なのに、ライブの時だけは器用になれていることに驚く。

 

それにしても福岡の360°ステージは恥ずかしかった。全方向から丸見えだし、更に小さな音まで丸聞こえの音環境。極限的に繊細な空間の真ん中で演奏するのはなかなか貴重な体験だった。ライブでグランドピアノの蓋を取り外したのは初めてだった。全方向に広がっていくピアノの音が空間を包み込んでいて心地良かった。

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