
老いる前のとても大切なこと|裕子の艶言葉 #81
酒が入れば心も開く。金沢屈指の名門クラブに在籍し、現在は木倉町でワインバーを経営する裕子さんの酸いも甘いも知り尽くした人生談義。酒席で老若男女の心の声に耳を傾けてきた夜の蝶ならではの言葉は、まるで美酒のごとく身体の奥まで沁みわたります。
先日、ある有名な小説家のお二人がテレビ番組に出演されていました。
その中で印象的だったのが、こんな言葉です。
年齢を重ねると、周りがみんな後輩や歳下の編集者ばかりになって、もう誰も注意してくれなくなる。芸人さんは羨ましい。なぜなら舞台があるから。その舞台の現場では「スベる」と言う経験ができる。小説家にはそれが無い。駄作だとしても人前に出て恥をかくことは無い。
なるほどと思いました。
大人になればなるほど、誰も何も教えてくれなくなります。だからこそ、自分の失敗や恥に気づかないまま過ごしてしまうことが多いのです。
年齢を重ねるごとに「謙虚に」「慎重に」生きることが大切なのだと思います。「誰かを不快にさせていないか」「不用意に傷つけていないか」——そう自問しながら暮らすこと。そして、たまに大きな失敗をして落ち込んだり、口の中がカラカラになるほど緊張する。そんな経験こそが、生きる上でとても大切なことなんです。
あたしたちも、お客様のご来店がぱったり止まる日には、まるで世の中から忘れ去られたような気持ちになることがあります。
「何か大切なことを見落としていないか」「誰かを傷つけてしまったのではないか」「もしかして料金設定が高いのでは?」「もう自分の価値なんてないのかも」「自分みたいな能力も無い者がなぜお店なんて始めたんだ…」まで考え込むこともあります(情緒不安定かて笑)。
けれど幸いなことに、あたしたちは二人でこのお店をやっている。だから、そんな気持ちを分かち合えるのはとてもありがたいことです。ときには優しいバイトちゃんたちに励まされることもあります。
以前、連日満席でキャンセル待ちが数百人というお店の経営者がこう話していました。
「時おり、不安になることがある」と。
そう、大人になっても不安を感じたり、失敗を重ねることはとても大切なんです。「うちは商売繁盛! わっはっはー!」とあぐらをかいている経営者は、あたしの知る限り一人もいません。
尊敬する経営者たちはみんな、たくさんの失敗をし、恥をかき、迷いながらも前に進んできた人ばかり。だからこそ、少しでも売上が下がったり、お客様の足が遠のく気配を感じると、「何がいけなかったのだろう」「どうすればもっと良くできるだろう」と、すぐに振り返ることができるのです。
威張らず、求められてもいない場所で経営論を語らず、いつも謙虚で心優しい人たちばかりです。
きっと、そうした気づきを持てずに傲慢に年を重ねてしまった人たちが、「老害」と呼ばれる振る舞いをしてしまうのかもしれません。「自分は偉い」「自分はモテる」「金ならある」「あいつらは貧乏だ」「だから見た目も悪い」——そんな風に周囲を見下し、威張り散らす人たち。
でもあたしは、そういう方たちを見ていると「きっと頼れる人がいなかったんだろうな」「寂しく過ごしてきたんだろうな」と、少し同情の気持ちさえ湧きます。
……まあ、その話はまた今度。
何かにチャレンジする人を、心から尊敬し、応援したいです。
かつてこう言われたことがあります。
「経営において、現状維持は衰退への道」。
穏やかに生きたいけれど、同じお客様がずっと同じ日に来てくださるわけではない。だからこそ、あたしたちも柔軟に変化をつけながら、緊張感を持ってお店を続けていきたいと思います。これは、きっと経営に限った話ではありません。
「何かを維持している人」「チャレンジしている人」「何かを守っている人」——すべての人に通じることだと思います。
みんな、頑張ってる。
行動して、実践している人には、必ず美しい何かが巡ってきます。
それに気づけるかどうかは、あなたの心次第です。
艶小噺
先日、4年ぶりに試験というものを受けてまいりました。ワインエキスパート二次試験。テイスティングの基礎を問われる試験です。
4年前のソムリエ試験のときは、ただがむしゃらにテクニックばかりを詰め込むばかりでした。でも、今回はもっと深掘りして基礎を学ぶべく、香りや味わい、テイスティングマインドを自分なりに見つめ直す学びの時間に。その過程で気づけたことがたくさんあり、もし万が一落ちていたとしても、自分にとっては大きな実りのある挑戦になりました。
このコラムが公開される頃には、合否が出ていると思います。
結果はInstagramでお知らせしますので、ぜひフォローして見守ってくださいね。