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Kan Sanoの音楽的ライフ【観ずる日々】第74回:D’AngeloとJack DeJohnette

金沢市出身のキーボーディスト/プロデューサー・Kan Sanoが綴るエッセイ。新世代のトラックメーカーとして支持されるアーティストの音楽的ライフを覗いてみよう!

 

10月にD’AngeloとドラマーのJack DeJohnetteが続けて亡くなり、なんだか力が抜けてしまった。青春が終わってしまった虚無感と言えばいいのだろうか。D’Angeloについて語りたいことが山ほどあった気がするが、彼に関するネット記事やSNSの動画やテキストを2週間大量に浴び続けて11月に入った今、改めてこのコラムで何か書こうという気がなんとなく失せてしまった。

 

SNS社会の情報の消費スピードが速くて怖い。速すぎる。人の死さえも猛スピードで消費して、あっという間に過去の出来事にしてしまう。このコラムを書いている時点でD’Angeloの死去からまだ半月だが、既に半年くらい経っているような感覚だ。SNSの情報消費スピードに危機感と嫌悪感を覚えながらも、自分もまた消費する側の一人にすぎないことを実感する。R.I.P. D’Angelo

 

そんなこんなで、よく分からない憂鬱を感じていた10月末にJack DeJohnetteが亡くなったが、D’Angeloに比べるとJack DeJohnetteについてSNSで語る人は少ないように感じる。僕が10代の頃から影響を受け続けてきたMiles Davis、Keith Jarrett、Herbie Hancock、Bill Evans、この4人のアーティストの作品に共通して登場するドラマーがJack DeJohnetteだ。

 

Jack DeJohnetteは超大物のレジェンドドラマーでありながら、プレイスタイルはかなり異端でクセが強い。王道の中に紛れているアウトサイダーだと僕は思っている。未だに謎なのが彼独特のよれたリズム感と力の抜けた叩き方だ。そのプレイスタイルがあまりに独特過ぎて、正直上手いのか下手なのか、判断不能なときもある。

 

アメリカに留学していた2000年代前半に、Jack DeJohnetteのライブを2回見た(Herbie Hancock TrioとKeith Jarrett Trio)が、リズムの捉え方があまりに自由すぎて正直よく分からなかった。

 

ドラマーの個性や特徴が1番出るのはドラムフィルだ。Jack DeJohnetteのドラムフィルは拍や小節を大きくまたぐことが多いし、フィルの終わるタイミングも変わっている。それでいて他のプレイヤーの邪魔はしていないし、むしろ寄り添っていて音楽的だ。ドラムはリズムが最重要の楽器なのに、掴みどころのないリズム感で水みたいな演奏をする。リズムの捉え方がとにかく大きい。大き過ぎるので、側から見ると時にざっくりし過ぎてる=適当に叩いてるように見えるのかもしれない。

 

Norah Jonesが客演したHerbie Hancockの「Court and Spark」でのJack DeJohnetteのフワフワしたリズム感には本当に驚かされた。何拍子なのか分からなくなってしまう演奏だけど、音楽はスムーズに流れているしロマンチックだ。ドラマーのエゴや作為的なものを一切感じさせずに、浮遊するような時間の流れを自然体で作り出せる人はなかなか他にいない気がする。

 

かと思えば、Meshell Ndegeocelloのジャズアルバム収録曲「Luqman」では終始正確に十六分音符を刻んでいて、これはこれでまた衝撃だった。「正確に叩くこともできるんだ、この人って…!」と二十代の僕は偉そうにも思っていた。Miles Davis のバンドに在籍していた1969年〜1971年頃のJack DeJohnetteは力強く叩きまくっていて、この頃のドラムの疾走感、ライブ感には未だに強い憧れがある。これからも永遠の憧れであり続けると思う。R.I.P. Jack DeJohnette

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