【観ずる日々】第2回:森とニョロニョロと下水湯
自分の文章が一向に好きになれないが、とにかく書かないことには何も始まらない。先週の台湾公演について書こうとだけ決め、iPhoneのメモに打ち始めている。
4月の韓国公演以来、日増しに海外に興味を持ち始めている。初めての韓国は異様な盛り上がりを見せ、大きな手応えを僕もスタッフも感じたからだ。最近のアジアの勢いは周りのミュージシャンからも頻繁に話を聞く。台湾ももちろんそう。僕の前日にはTENDREさん、翌週には七尾旅人さんが演奏したらしい。まるで日本と地続きのような距離感だ。
バンドメンバーは森川くん(bass)と菅野ソウくん(drums)、そしてorigamiの最年少スタッフ富山くんが同行。今回共演するTHREE1989の面々と成田で合流し、海外ツアーに付き物の軽い手続きミスや楽器の重量問題を乗り越え、公演前夜の台北に無事到着。4時間のフライトは少々長く感じたが、気になっていた映画「シェイプオブウォーター」を思いがけず鑑賞でき、移動時間を有効活用できた満足感があった。機内食は昔から苦手で、今回もほぼ手はつけられなかった。
ホテルに到着する頃には森くんの台湾料理への期待はピークに達し、一人だけ深夜のクラブイベントのテンションになっている。ソウくんはニョロニョロ的な得体の知れぬ不気味さで通常営業しつつ、内心は初めて訪れる異国の空気を楽しんでいるようだ。一見無愛想に受け取られかねない若干22歳のソウくんを見ていると、つい昔の自分と重ねてしまう。富山くんは人生初の海外にさっそく浮き立っている様子で、デフォルトで既にほぐれ気味の顔がいつもにも増してほぐれている。僕はというと、この2ヶ月ほど腸の調子が悪く憂鬱な日々をすごしていたが、どうにかコンディションを整え台湾入りできたことに静かな喜びを感じていた。
まずは現地スタッフの方々やTHREE1989と共に上品な中華料理店へ。美味!全員納得の美味さだ。みな笑顔が絶えない。しかしお金を出せば日本でもほぼ同等のものが食べられる感は否めない。それほど日本の中華はレベルが高いのだろう。台湾一日目の夜をここで終わらせるわけにはいかない。僕と森くんは食の好みが近いので、こういう時は何も言わずともお互いの思惑が分かる。この以心伝心具合がステージでも発揮できたら僕らは最強のバンドになるのに。よりストリートな二軒目を求めチームorigamiは別行動を開始。無計画な探索の末、夜市に潜入。ここで食べた雑炊がとにかく絶品だった。
間違いなく日本では味わえない、この土地に根付いた料理。周りは地元の人々で賑わっている。台湾の日常がそこにあった。ナイスグルーヴ。僕らが探していたのはTower of PowerではなくJames Brownだった。
ちょうどその頃日本では僕が出演した関ジャムが放送中。何気なくエゴサすると大量のツイートが出てきた。テレビの影響力を実感したと同時に少し怖くもなったが、否定的な反応がなかったことに安堵した。
翌日は昼前に起床。昨夜の市場へ再び森くんと。更なるゲットーな食を求め「下水湯」に挑戦。鳥のモツスープらしい。意外とあっさり味で飲みやすかったが「下水」という名にメンタルが引っ張られ胃もたれした。「病は気から」その通りだと思う。食後はお洒落なカフェでお洒落なドリンクを大急ぎで飲み干し、いよいよライブ会場へ。
会場のThe Wallは台北の音楽の歴史を感じる古いライブハウス。思っていたよりも広い。楽屋がステージとフロアを見渡せる場所にあるのが有り難い。日本にはあまりない構造だ。お客さんが3人しか来なかったらどうしよう…。ライブ前は毎度そんな不安に駆られる。実際過去には0人だった経験もある。Facebookのフレンドに一人一人告知メールを送っていた日々。音楽活動を続ける限りあの頃のことは決して忘れないだろう。
オンタイムで開演。ステージから満員のフロアを見渡した時安堵した。本当によかった。イベンターの努力には頭が下がる。台湾の人はみなとても穏やかな表情をしている。日本でいう長野あたりに近い空気感。メガネ率が高いのは自分の音楽のジャンル的にオタクが多いからなのか。日本語でMCをしたらかなり通じて驚いた。調子に乗っていつも通り森くんをイジったらしっかりウケてしまい、思いがけず韓国とは違う種の手応えを得た。
それにしても音楽は国境を優に超える。海外での人種、宗教、言葉の違いを超えた時間の共有は、なんだか少し前向きな気持ちにさせてくれた。人はどうしてこうも分かり合えないのだろうか。分かり合うことを諦めない気持ち。僕の手持ち分はもう残り僅かだ。
異国の文化に理解を深めるならその国の音楽を聴くのが一番良い。そう思い立ち、今更ながらSunset Rollercoasterを聴いている。
ツアーに出る際は暇を持て余した時のために必ず本を1、2冊持参するが開くことはまずない。この「たけし吼える!」 も案の定一度も開かずに持ち帰り、ようやく今読み始めている。
11月は再び韓国へ。待っててね、ナイスグルーヴ。
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執筆者プロフィール
Kan Sano
石川県金沢市生まれ。キーボーディスト/トラックメーカー/プロデューサー。バークリー音楽大学ピアノ専攻ジャズ作曲科卒業。国内外のアーティストのライブやレコーディング、コンピレーションに多数参加するほか、自身名義の最新アルバム「Ghost Notes」が好評発売中。
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