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リスナーのいない大ヒット曲〜酒造り唄〜|MOcA Diary カレーってからいですか #11

残り1ヶ月ですが、2024年9/21(土)から12/8(日)までの期間は「金沢21世紀美術館」と「発酵ツーリズム金沢実行委員会」が協業し、「発酵」をテーマに、アートと発酵文化、そしてまち歩きが結びついた新しい「文化芸術祭」を開催しています。題して『発酵文化芸術祭・金沢〜見えないものを感じる旅へ』。

 

 

金沢21世紀美術館を拠点に、市内各地域の発酵スポットを舞台にして、アーティストたちが目にみえない「発酵」をテーマに作品をつくりあげ展示中しています。チケットを購入したら期間中は「どこでも、何度でも」入場できますので、お時間と御興味ある方はぜひ。電子チケットは公式サイトにて販売、紙チケットは21世紀美術館のプロジェクト工房にて販売しています。購入した方は美術館で公式ガイドブックが贈呈されるので、それを手にしてから各スポットを回るとモアベター。

 

発酵文化芸術祭・金沢〜見えないものを感じる旅へのチケットを購入する

 

総合プロデューサーは「発酵デパートメント」代表、「発酵ツーリズム」でお馴染みの小倉ヒラクさん。共同キュレーターは「発酵メディア研究」主宰のドミニク・チェンさんです。

 

キュレーター紹介

メイン会場/アーティスト

 

で、今回のプロジェクトでは福正宗の「福光屋」がある石引も発酵=日本酒ということで発酵スポットとしてフィーチャリングされていて、僕らが運営する石引「じょーの箱」ではミュージシャンで映像作家のVIDEOTAPEMUSICさんの作品が展示中です。

 

VIDEOTAPEMUSICさんが「発酵」をテーマに音楽と映像を使ってどんな作品を創り上げるのか想像もつきませんでしたが、石引といえば「福光屋」、福光屋といえば日本酒、日本酒(発酵)の音楽といえば「酒造り唄」ということで、じょーの箱の空間を全部使って酒造り唄と金沢・石引の映像&音楽のインスタレーションをしています。

 

 

以下、VIDEOTAPEMUSICが2024年6月に発売した5作目のアルバム「Revist」より

「酒造り唄」とは、酒蔵で日本酒を作る職人=杜氏(とうじ)・蔵人たちが、かつて酒造りの工程で歌ってきた唄で、坂田美枝著「定本・日本の酒造り唄」には『杜氏としての技能集団は江戸時代から本格的な白米で仕込む寒造りが登場した頃から、酒造り唄が始まった。作業工程の時計代わりに唄われ、精米・洗米・酛摺(もとすり)・醪(もろみ)仕込み等厳しい作業の中で、真夜中の眠気覚ましや蔵人の連帯感の高揚と、故郷を離れた淋しさや寒さ、つらさを慰めるものが目的であった。蔵男には欠かせない労働歌として、さらに蔵元の祝い唄として昭和二十年代まで歌われたが、しかし復興期の三十年代より酒造業界の機械化と合理化により、急速にその必要性もなくなってきた。また歌う人も少なくなり忘れ去られて時間がたった。』

 

集団作業の調子やリズムを合わせるため、時計もタイマーもない江戸時代には歌う長さによって時間を測るため、夜通しの作業で眠たい時、過酷な体力仕事でしんどい時、真冬の寒さで体が凍える時などに職人たちの士気向上のため、また酒蔵は女人禁制だったので(女性がいると刺激が強く酒造りどころじゃなくなるから)、出稼ぎで100日以上も男ばかりで過ごして溜まってるストレスを発散させるため…などなど多くの役割がある仕事上必要不可欠で重要な歌だったことが分かります。「踊るため」でもでも「披露するため」でも「成功するため」でもなく、娯楽でも芸術でもない真のワークソング。

 

 

VIDEOTAPEMUSICさんの作品は、そんな「酒造り唄」を蔵人ではなく女性シンガーソングライターの「浮(ぶい)」こと米山ミサさんが逆に子守唄のように歌い、パーカッション奏者の宮坂遼太郎さんが雑踏のような、作業音のような不定期な音を加え実際の映像の環境音に混ぜて、VIDEOTAPEMUSICさんが撮影した誰もが寝静まっている真夜中の石引や金沢市の映像に溶け込ませています。作品を見ていたら、石引から一歩も動かずに来年で創業400周年を迎える「福光屋」でも、かつて屈強な職人たちが集まって真夜中の石引で歌ってたんだろうな…と想像ができて、江戸から明治、大正、昭和、平成、令和と時空を超えて石引の歴史を感じる作品になっています。ああ、この魅力を文章で説明するのがもどかしいから直接見にきてください!

 

浮「街(Live ver.)」

 

VIDEOTAPEMUSICさんがチョイスして浮さんが歌ったのは丹波流酒造り唄の中の「酛掻き唄(もとかきうた)」の中の一部分で、歌詞はこちら。※()の訳は僕が勝手に作ったもので正確かは不明です。

 

【酛かき唄】

『夜中起きして 酛かくときは 親のうちでの 事おもう
(徹夜して酛かいてたら、子どもの頃を思い出す。)

親のうちでの 朝寝のばちで 今は初夜起き 夜中起き
(子どもの頃に寝坊ばっかりしてたバチが当たって、今では夕方から朝まで仕事・・・)

ねむいねむたい こうねむとては 永の冬中が つとまりょか
(とにかく眠たい…眠すぎ。こんなに眠かったら極寒の冬に働けるのか?!)

とろりとろりと ねむたいときは 馬に千駄の 金もいや
(眠くてウトウトしてる状態だと、馬や大金さえもいらなくなる。)

馬に千駄の 金さえあれば わしもこのよに 身はすてぬ』
(もっとも、馬も大金も持ってたらこんな仕事してないけどね!)

 

…どーですか。ほぼ不平不満に愚痴、自虐。調べたら、酒造り唄はこういった労働者・ワーキングクラスの心の叫び、悲哀やユーモアや言葉遊びを用いた歌詞が少なからずあります。ブルースですね。

 

ちなみに酛とは…
日本酒の製法用語の一つで、現存する酒造りの技法の中でもっとも伝統的な造り方である。たいへんな労働を必要とするため、しだいに工程を省略する手法が探究され、明治時代に山廃酛(やまはいもと)が、ついで速醸酛(そくじょうもと)が考案された。一時期、生酛造りはほとんど行なわれなくなったが、近年の伝統再評価の流れの中でふたたび脚光を浴びつつある。(Wikipediaより)

 

【仕舞唄】
お日がくれたら 明りをつけて 親の名づけの 妻を待つ
(日が暮れたら部屋を明るくしてお嫁さんがやってくるのを待っている)

親のなづけの 妻さえあれば わしもこのよに 身はすてぬ
(ああ、嫁さんがいればこんな仕事してないのになぁ・・・)

 

【秋洗い唄】
明日は黒日で 日が悪かろと  いとまやる身ぢゃ かまやせぬ
(明日は黒日(一年で1番大凶の日)だし違う日にした方がいいけど、どうせ離婚する日だし関係ないか。)

いとまやるとて 拳骨くれた  これが暇か いとござる
(別れてやる!とぶん殴られたが、一人になったら心が痛い。)

いとまもろたら 他人ぢゃけれど  人がわる言うや 腹が立つ
(もう別れたし他人だけど、誰かがあいつの悪口を言ってるといまだにムカついてしまう自分がいる。)

腹の立つときゃ もんつで酒を  のんで暫く ねるがよい
(ムカムカしたら茶碗で酒をがぶ飲みして寝るのがいちばん。)

まだも立つときゃ この子をお抱き  仲のよいとき 出来た子ぢゃ
(それでも腹の虫が収まらない時は、まだラブラブだった頃にできたこの子を抱っこするの。)

かまやせぬとは 人前ばかり  昼はおもかげ 夜は夢
(もうどうでもいいなんて実はウソで、昼はあいつの面影を追って、夜にはあいつが夢に出てくる・・・)

 

【酛すり唄】
色で身をうる 西瓜でさえも  中に苦労の 種がある
(カラフルが売りのスイカでも、中身に苦労の(=黒の)タネがある。)

色でまよわせ 味では泣かせ  ほんにお前は 唐辛子
(セクシーな色気で誘ったり振り回して泣かしたり、お前は七味唐辛子のようだ)

色は白ても うどんやはいやぢゃ  わたしゃあなたの そばがよい
(いくら色白といえども「(白い)うどん」じゃ嫌だ、私はあなたの「そば(蕎麦=側)」がいい。)

 


 

「酒造り唄」に関しては阪田美枝先生(1938-2021/享年83歳)が、1996年から99年にかけて、絶滅の危機で消えゆく酒造り唄を全国を回って収集し、1999年に100曲を1冊の本にまとめた著作「定本・日本の酒造り唄」が唯一無二の決定版。以下のサイトでは阪田さんが収集した一部の音源が聴けます。私も今回の展示をきっかけに古本サイトで購入しました。

 

酒造り唄 國酒デジタルミュージアム

 

 

昔は酒造りの職人たちは酒だけでなく、夏は農業、林業、漁業などをしてる男たちが、シーズンオフの冬季に各地から出稼ぎで集まって働いていたので、おそらく各地方・各業種の労動歌がハイブリッドされ、楽譜も歌詞カードも音源もないので現場で伝言ゲームのようにちょっとずつ歌詞やメロディやリズムが変化していったり、独自にアレンジしたりして完成していったのでしょう。そんな詠み人知らずの唄の中でも職人たちが歌ってて元気の出るキャッチーなメロディーや、気持ちを代弁して共感できるような歌詞の酒造り唄が激バズって、じわじわと各地に広まって大ヒットチューンになり現在まで残っていったんだろうなと。リスナーのいない大ヒット曲として。

 

 

そんなわけで、VIDEOTAPEMUSICさんの酒造り歌の展示は「While I was asleep (私が寝てる間に)」として、じょーの箱で展示をしています。そしてさらにじょーの箱で蘇ったジュークボックスで浮さんの歌う「酛かき唄」も聴けます!機械に20円を投入してBの①ばんを選択してください。マッチ売りの少女の幻覚のように歌が表れます。

 

最終日にはクロージングライブで浮さんの生歌も!

 

【発酵文化芸術祭金沢 VIDEOTAPEMUSICインスタレーション “While I was asleep”  Closing Party】

日時:12月8日(日)開場18:00 開始18:30

場所:じょーの箱(金沢市石引1-10-8 医学部正面)

LIVE / 浮&宮坂遼太郎
+「While I was asleep」生演奏付き上映 with VIDEOTAPEMUSIC

¥3000(+1ドリンク500円)

予約 / Instagram @jo_no_hacoへDM
もしくはJO-HOUSE石引 TEL076-222-5960

 

金沢21世紀美術館と発酵ツーリズム金沢実行委員会が協業し、「発酵」をテーマにアートと発酵文化、まち歩きが結びついた新たな芸術祭として金沢各所で開催中の「発酵文化芸術祭 金沢」。VIDEOTAPEMUSICが酒造り唄をテーマに制作したインスタレーション作品「While I was asleep」を展示中のじょーの箱にて、展示最終日にクロージングパーティーを開催します。「While I was asleep」の作品内で酒造り唄を歌唱しているシンガーソングライターの浮と、同じく作品内でパーカッションを演奏している宮坂遼太郎によるデュオのスペシャルなライブ。そしてVIDEOTAPEMUSICを加えた3人による「While I was asleep」生演奏付き上映を行います。

 

浮(ぶい)
米山ミサのソロプロジェクト

2018年頃より、ガットギターの弾き語りで活動を開始。 2020年、1stAlbum”三度見る”をリリース。 2021年、コントラバス奏者の服部将典、ドラマー藤巻鉄郎とトリオ”浮と港”を結成。同メンバーにゲストを迎え、2022年に2ndAlbum”あかるいくらい”を SweetDreamsPressよりリリース。以後、全国各地を巡り歌っている。

 

宮坂遼太郎

1995年まれ。長野県諏訪市出身、東京都東部在住。
主に打楽器と一緒に演奏する。日々様々な音楽プロジェクトに参加し、ソロ演奏や即興演奏も頻繁に行う。安部勇磨、遠藤ふみ、大石晴子、大林亮三、折坂悠太、黒岡まさひろ、xiangyu、田上碧、perfect young lady、蓮沼執太、浮、本日休演、増田義基らと協働。

 

VIDEOTAPEMUSIC
ミュージシャンであり、映像ディレクター。失われつつある映像メディアともいえるVHSテープを各地で収集し、それを素材にして音楽や映像の作品を作ることが多い。VHSの映像とピアニカを使ってライブをするほか、映像ディレクターとして数々のミュージシャンのMVやVJなども手掛ける。近年では日本国内の様々な土地でフィールドワークを行いながらの作品制作も行っていて、日本各地での滞在制作の記録をカセットテープと160Pの書籍にまとめたカセットブック作品『Revisit』を2024年6月にリリースした。

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