
Kan Sanoの音楽的ライフ【観ずる日々】第67回:YAMAHA P155
金沢市出身のキーボーディスト/プロデューサー・Kan Sanoが綴るエッセイ。新世代のトラックメーカーとして支持されるアーティストの音楽的ライフを覗いてみよう!
長年愛用してきたキーボードを手放すことにした。YAMAHAのP155というスピーカー内蔵型の電子ピアノで、使い始めて13年ほど経つ。最近はもっぱら自宅での練習と制作専用になっているけれど、以前はライブの現場にも度々持ち込んでいた。特に下北沢leteでソロライブをやる時は必ずP155だった。
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通常のライブ現場では会場のスピーカーから音を出すことが殆どなので、スピーカー内蔵型のキーボードが必要になる場面は滅多に無い。P155は一般家庭で使用することを前提に作られているので、ドラムや管楽器など他の楽器に比べるとスピーカーの音量は遥かに小さい。しかし、leteはマイクを使わない生歌のパフォーマンスが可能な特殊な空間だから(確かキャパは25人前後だと思う)通常の音響機材は使わなくていい。むしろP155のような控えめな音量の楽器が活き活きと良さを発揮できる珍しい現場だった。
P155をレコーディングで使う機会はあまり無かったけど、僕の作品の中で残っているのが「2.0.1.1.」収録の「Endless River」という曲。この時は当時leteでやっていた完全即興のスタイルで制作したくてP155を使ったのだと記憶している。
同時期に全曲プロデュースする形で関わった小杉奈緒のアルバム「余白」のピアノもすべてP155を使っている。
どちらも11年前、2014年の制作だ。leteで毎月定期ライブをやっていたのが2012〜2013年頃。この時期は現場でのP155の使用頻度が特に高かった。自宅では長年練習や作曲などに使っていた。作曲にはかなり役立っていたし、今年リリースした「神様のメロディ」や「森の住人」も含め「ピアノ作品集」収録のほとんどの曲はP155から産まれた。
最近ではぷにぷに電機さんと作った「真夜中はチャイナ・ブルー」、Shing02さんと作った「WHATAWON」、ODDRAWさんと作った「照らす」などの制作過程で、MIDI鍵盤としてP155を使用している。鍵盤の重さやタッチがリアルなグランドピアノに近いし、しっかり弾きごたえがあるのが気に入っていた。ボディがブラウンなのも好みだった。
買った時はずっと使い続けるつもりだったし、10年以上ほぼ毎日弾いているから愛着もある。手放すのは正直寂しい気持ちもあるけれど、鍵盤の調子が一部悪くなってきているし、制作で使う際に別途インターフェイスが必要なのがちょっと手間に感じている。何より一番の理由は、もっと良い鍵盤で練習したいと思い始めていることだ。もっとピアノが上手くなりたい。自分にまだ残っている向上心を優先してみようと思う。近年のYAMAHA Pシリーズには更にリアルなタッチの上位機種があるので、そちらに買い替えることに決めた。
幸いP155は友人が貰ってくれることになった。新しい場所でまだまだ活躍してくれることだろう。まだ自宅にあるから手放す実感が無いけど、ここに書いて少しすっきりした気がする。
P155、今まで本当にありがとう!