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【観ずる日々】第7回:自粛ビヨンド

Kan Sanoの音楽的ライフ【観ずる日々】
新世代のトラックメーカーとして注目を集める金沢市出身アーティストKan Sanoの音楽的ライフをちょっと覗き見。

 

その後ライブのキャンセルがいくつも続き、さすがにしんどくなってきた。インスタに飛んでくるフォロワーのコメントからみんな日に日に膿が溜まってるのを感じる。自分はなんとか正気を保っているが、この数ヶ月で「自粛」という言葉が心底嫌いになった。自粛要請という表現にも違和感、歯切れの悪さ、虚しさを覚える。前後ろ逆に着たTシャツのような息苦しさだ。

 

3/28に開催するはずだったライブは半年以上前から準備してきた新しい自主企画。かなり意気込んでリハーサルも始めていたので延期には落ち込んだ。東京で音楽活動を始めて10年以上経つが、ライブの集客がうまくいき出したのはここ1、2年のこと。満を辞しての企画だった。人生はなかなか思い通りにいかない。何を始めるにもどうしても時間がかかってしまう。占いは信じない方だが上京した頃知人に言われた「大器晩成」がずっと頭の片隅に残っている。

3月上旬の時点では開催できると思っていた。今思えば考えが甘かったのかもしれない。同じ頃UAさんとメールした際の「コロナは人間関係まで汚染しそうで恐い」という言葉が忘れられない。本当にその通りになってきている。自分も含め皆大小様々な選択を日々迫られては心を乱されてる。

 

ライブの予定はすっかり無くなってしまったが楽曲制作は一応継続できている。もともと自宅作業が仕事の主なので引きこもるのは苦でないが、一人きりの時間が長期間続くと思考が止まらなくなりネガティブ沼に沈みがちだ。インドアな自分にとってライブはフィジカルに社会と関われる貴重な場。空気がこもりがちなメンタルの換気の役割を果たしていたように思う。今後数ヶ月をどう乗り切っていくか。自分の場合は身体の健康よりも精神衛生面のセルフケアが鍵になりそうだ。

 

芸能人やアーティストの訃報をTwitterで知るようになって久しいが、2月に亡くなったライルメイズのことは少し遅れて知った。自分の人生を決定付けた重要な音楽体験のひとつにパットメセニーグループがある。名盤「Speaking Of Now」をリアルタイムで聴いたのは18の頃。時を経た今でも同じ曲に同じ感情の高ぶりを伴って感動できることに生きてる喜びと音楽の素晴らしさを実感する。
音楽を聴く時、聴き手の心境やコンディション、年齢やタイミングもその音楽を形成する重要な要素だ。楽器を鳴らした時点では何の意味も価値も持たないただの音。音は人に伝わった瞬間初めて音楽になる。

 

 

このアルバムがリリースされた2002年の夏、ボストンの音大に留学した。当時はYouTubeもSNSもまだ無かったから情報源はYahooニュースだけだった。海外に出るとそれまでの自分の生き方や考え方を客観視できる。自国の政治や文化、教育について視界がパッと開けたように良い部分、悪い部分がクリアになるのは留学の醍醐味だと思う。日本のテレビ番組の独自性とその面白さを再認識する過程で「8時だよ全員集合」に出会った。8時だよの志村けんは活力に満ちていて最高にかっこ良くて眩しかった。毎週生バンドの演奏をバックにゲストや観客を巻き込み、大掛かりなコントを全国のお茶の間に目撃させるそのライブ感は演者やスタッフにとってかなりスリリングだったに違いない。リアルタイムに体験できた世代が羨ましい。心よりご冥福をお祈りします。

 

時代を経てテレビのドキドキ感やライブ感はすっかりSNSに移行したように思うが、「さんまのお笑い向上委員会」などを観てると昔ながらのテレビのグルーヴがまだ残っていて嬉しくなる。「ナイトスクープ」や「タモリ倶楽部」はテレビ界のレアグルーヴと言えるかもしれない。

 

今月から毎月プレイリストを作ることにした。今聴いている曲、聴き込みたい曲を集めた趣味要素の強いもの。こんな時だからこそ音楽を分かち合う機会を大切にしたい。

 

 

 

◯Kan Sanoの音楽的ライフコラム【観ずる日々】

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執筆者プロフィール

Kan Sano

石川県金沢市生まれ。キーボーディスト/トラックメーカー/プロデューサー。バークリー音楽大学ピアノ専攻ジャズ作曲科卒業。国内外のアーティストのライブやレコーディング、コンピレーションに多数参加するほか、自身名義の最新アルバム「Ghost Notes」が好評発売中。

HP:Kan Sano公式
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フェイスブック:@kansanomusic

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