伝統工芸とストリートカルチャーの融合。「九九谷」ってなに?
みなさんは九谷焼というと、どんなものを想像しますか?
大皿、小皿?
徳利、おちょこ?
大なり小なり形に違いはあれど、ほとんどの人が色鮮やかに絵付けされた食器を、想像したのではないでしょうか。
ひがし茶屋街の玄関口に位置する「HATCHi」。4月1日より営業を再開した。
伝統工芸と異文化をかけ算する。
ところ変わって、こちらは橋場町の「HATCHi」。北陸の魅力をユニークな視点で切り取り、発信している人気のシェアホテルです。
なんでもこちらに、スケートボードやスピーカーといった想像の斜め上をいく作品を展開する、九谷ブランド『九九谷』のポップアップストアが誕生したと聞いて、さっそく行ってみました。
九九谷とは?
江戸前期に生まれた古九谷、脈々と継承される再興九谷、現代九谷の土壌の中で、その表現の幅を活かし新しい要素を取り込んだ九谷焼です。
歴史ある九谷焼を軸に、様々な旬のモノと掛け算することで、過去から脈々と繋がっている九谷焼の歴史とロマンを感じられるような構成となっています。産地、小松より掛け算する九谷焼の数々を、ぜひご高覧ください。(リーフレットより抜粋)
こちらは仕掛け人の吉田良晴さん。
東京のストリートを拠点に、スケートボーダーやミュージシャン(OPSB)として活躍したクリエイターで、2019年に小松市にある「CERABO KUTANI」のクリエイティブディレクターに就任しました。
【関連記事】九谷焼の産地まで、自分好みのごはん茶碗を作りに行った話。
それではいろいろと質問してみましょう。
美しさだけが九谷焼の魅力じゃない。
スピーカーやロゴのデザインを手がけるのは、東京浅草を拠点に活動する絵師の「絵僧」氏。九谷焼が発祥した江戸時代の雰囲気とポップさを漂わせる氏の作風が、吉田さんの考える「九九谷」のテーマと重なったそう。
酒器やマグカップなどのテーブルウェアも展開。和のテイストを盛り込んだポップな絵柄が印象的だ。2,178円〜。
地元青森から上京後、東京を拠点に活動していた吉田さんが、小松市に移住したのは2019年。地域おこし協力隊に応募したのがきっかけでした。
吉田さん
2017年にバンド(OPSB)が解散したあと、移住を視野に入れながら家族と地方を旅していた時期があるんですよ。これからなにをしようかって。
新しいインスピレーションを求めてたわけですね。
吉田さん
そうそう。そんなときに珠洲市にある「いかなてて」というお店からライブ出演のお誘いを受けて。そこで地域おこし協力隊のことを知ったんです。
ちなみにどうして、小松を選んだんですか?
吉田さん
全国の募集を調べたときに出てきたのが、隈研吾氏が設計した「CERABO KUTANI」の建物完成予想図。パッとみたときに「なにかが始まりそうな」ワクワクした気持ちになって、すぐ応募したんです。
もともと日本の伝統文化の発信にも興味があったんですよね。
吉田さん
自分の経験が活きるのはクリエイティブな分野の仕事だと思っていたし、なにより自分自身が日本のことをもっと知りたかったんですよね。
と、いいますと?
吉田さん
ストリートカルチャーの影響をもろに受けていた自分が、どれだけ日本のことを理解しているのか疑問に感じていた時期でもあるんです。だから、できるだけ文化の深い地方に住みたかった。
【関連記事】『LIBRARY RECORDS/いかなてて』の糸矢章人さんがセレクトする音楽
吉田さんが普段、働いている「CERABO KUTANI」。九谷焼のギャラリーや体験工房、製土工場などを併設している。
「CERABO KUTANI」の館内音楽用に、吉田さんが制作したアンビエントアルバム。全編即興演奏で構成されている。
見た目と実用性を両立させたスケボー皿。
実際に作品はどうやって、作られているんですか?
吉田さん
「CERABO KUTANI」に常駐する作家さんと相談しながら、少しずつ完成させていきました。
でも、そう簡単にはいきませんよね?
吉田さん
そうですね。細かいボードのディテールは僕が直接手を加えたり、ベテラン絵付け作家の浮田健剛さんからアドバイスが入ったりもしました。
どんなアドバイスが入るんですか?
吉田さん
ここの部分はもっとビシッと作って、緊張感をもたせて!みたいな感じで。
職人さんらしい表現ですね(笑)。
吉田さん
たとえばスケボーなんかは、粘土板を一枚ずつ貼り合わせる「タタラ」という技法を使うんですが、設備が整っている浮田さんの工房で徹夜で作業をしたり、先生のおかげでクオリティはかなり上がったと思います。
こちらは実際に器として使えるんですよね?
吉田さん
もちろんです!お寿司や天ぷら、お刺身を盛るために、実用的なスペックで仕上げています。実際のスケートボードのシェイプを採用することで、多少の汁漏れも心配せずに使えるんですよ。
九谷焼の産地で用いられる「タタラ」と「鋳込み」のふたつの技法によって制作されたスケートボード皿。絵付けは作家の浮田健剛氏が手がけている。330,000円。
パーツは全て磁器。ひとつひとつが職人の丁寧な手作業によって構成されている。花咲陶石から作られた粘土を使用。
「実用的なスケートボードの皿も欲しい」という声によって誕生したミニスケボー皿。27,500円。
ストリートカルチャーと伝統工芸「九谷焼」との融合によって生まれた「九九谷」。
産地と異文化のかけ算によって、どんな作品が生まれていくのか。今後の展開が楽しみです!
九九谷の新情報はInstagram(@kukutani_japan)をチェック!
ポップアップストアは6月30日まで開催(予定)。「絵僧」氏がデザインしたグッズなども販売している。
HATCHi 金沢
石川県金沢市橋場町3-18
TEL.076-256-1100
営業時間/12:00~22:00(ポップアップストア)
駐車場/近隣にコインパーキングあり
※こちらの情報は取材時点のものです。
(取材・文/ヨシヲカダイスケ、撮影/林 賢一郎)
九九谷の「九九」って、かけ算からきてるんですよね?
吉田さん
そうですね。プロジェクト自体が、かけ算の九九からインスピレーションを得ていて。これまで九谷焼とあまり縁がなかったテーマと掛け合わせて、新しいものを産み出そうという試みなんです。
スピーカーにスケートボード。たしかに新しい、というか新しすぎます。
吉田さん
僕がこれまで歩んできたストリートカルチャーと九谷焼を融合させたら、おもしろくなるんじゃないかと。このブランドが入り口になって、若い世代の人たちが九谷焼に興味をもってくれたら最高ですね。
ちなみに吉田さんは、九谷焼のどんなところに興味をひかれたんですか?
吉田さん
ひとことで言うと多様性。素朴な民芸品から豪華絢爛な美術品まで、本当に幅が広いんですよね。
作家さんや窯元によって、いろんな個性がありますもんね。
吉田さん
それと、九谷焼というと色彩豊かな絵付けばかりがフィーチャーされますが、ろくろ師のように素地をつくる職人さんの仕事ぶりも見事なんです。
スペシャリストの技が光るのも、分業化が進んでいる九谷焼ならではですよね。
吉田さん
これからは、そういった職人さんたちにもスポットを当てられたらなぁ、とも思っています。