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元祖”会いに行けるアイドル”。日本古来のポップカルチャー「大衆演劇」の魅力とは?

笑いあり涙ありの人情芝居に、ド派手な衣装に身を包んだ舞踏ショー。役者たちが所狭しと会場を駆け回り観客を盛り上げる「大衆演劇」の魅力とは?北陸唯一の芝居小屋『金沢おぐら座』にて、話を聞きました。

観るものを魅了する、圧倒的なライブ感

 

森本商店街の一角、JR森本駅から徒歩30秒という超絶バリアフリーな場所に『金沢おぐら座』はあります。見たところかつてはショッピングモールだったらしく、地方の芝居小屋としてはなかなかの大箱です。

 

 

中に入ると数ヶ月先の公演までポスターがずらり。スーパー銭湯でも大衆演劇のポスターを貼っているのはよく見かけますが、さすが芝居小屋だけあって一枚一枚がしっかりと作り込まれています。

 

 

せっかく来たのでまずは芝居を見ていくことに。料金はどの公演も1,900円(前売りは1,600円)。ちなみにチケットを渡してくれているのが代表の鷹箸直樹さん。のちほどガッツリお話をうかがいましょう。

 

 

お芝居を見る前に、ちょっとだけおさらい。

 

芝居小屋とは?
大衆演劇専用の劇場のこと。大衆演劇は歌舞伎から派生した一般大衆向けの時代芝居演劇のことで、江戸時代から庶民の娯楽として親しまれてきた歴史を持つ。現在は150近くの劇団が存在し、全国を転々としながら公演を行っている。全国的な知名度を誇る大衆演劇のスターとしては、梅沢富美男や大川良太郎などが挙げられる。

 

といった感じで、400年以上にわたって脈々と受け継がれている、日本の伝統芸能でありポップカルチャーなのです。

 

 

♪〜♪♪〜♪♪〜

 

 

おっと、そろそろ演目が始まりそうです。

 

お芝居の様子(画像提供:金沢おぐら座)

 

いや〜、面白いッ!

 

ケレン味のある派手な演出に、人間の喜怒哀楽が凝縮された筋。話の内容もシンプルで、庶民の娯楽というだけあって「何を言ってるのかよく分からない」みたいな難しさは感じなかったです。著作権の関係で実際に観た芝居の様子をお伝えできないのが残念ですが、約1時間半の公演があっという間でした。

 

そしてビックリしたのが、思ったよりも若い人たちが多かったこと。学割(600円)の影響もあるのか、高校生くらいの年齢の子もチラホラみかけました。

 

 

芝居が終わった後は、舞踏ショーが始まるまで30分ほど休憩が入ります。

 

というわけで、腹ごしらえに名物となっている寿司桶入りのたこ焼きを注文。これがまたキャベツやニンジン、玉ねぎ、長芋などの野菜の旨味がたっぷり!サイズも大きめで食べ応え十分でした。劇を見ながら食べることも出来るそうですよ。

 

 

ショーが再開するまで大衆演劇の雑誌をチェック。なんでも近くにいたマダムによると、この「演劇グラフ」はもう休刊してしまったそうで。ファンたちは代わりに「KANGEKI」というサイトで情報収集をしているのだとか。どうやら大衆演劇の世界にもデジタル化の波は押し寄せているようです。

 

 

 

そうこうしているうちに舞踏ショーが開始。「男と女〜♪」みたいな渋い曲が流れるかと思いきや、これがなんと最新のK-POPをバックに踊りが始まって意表を突かれます。それにしても所作の美しいこと。男性よりも女性のファンが多いのもうなずけます。踊りの合間におひねりを渡しに行くマダムもいました。

 

 

好きな役者さんとの記念撮影やおしゃべりができる「お見送り」は、大衆演劇ならではの風習。お客さんにとって役者さんと交流が持てる貴重な時間です。アイドルの握手会のような和気藹々とした雰囲気。ちなみに剥がしはいませんでした。

 

開演から約3時間、みなさん満足げな表情で帰路につきます。

『金沢おぐら座』代表の鷹箸さんにインタビュー!

鷹箸直樹さん。群馬県伊勢崎市出身。新潟大学を中退後、金沢に移住しライブハウスのドラマーとして活動。創作舞踊の家元が運営する芝居小屋を手伝い始め、大衆演劇に魅了されていく。現在は「金沢おぐら座」の代表として、森本商店街の盛り上がりに一役買っている。

面白かった〜。役者さんと観客が一緒になって盛り上がっていて、独特な雰囲気でした。

鷹箸さん

大衆演劇は“会いに行けるアイドル”の元祖とも言われてますからね。舞台と客席の距離が近いから役者さんと交流しながら演目を楽しめるんです。

たしかに臨場感は凄かったですね。役者さんの息遣いとか匂いとかもリアルに伝わってきて、想像以上に引き込まれました。

鷹箸さん

じつは以前、中学生が職業体験に来たことがあって。その中の一人の生徒が芝居に感動して、中学校を辞めて劇団に入ったことがあるんですよ。大衆演劇にはそれくらい人を引き込む魅力があると思っています。

それはすごいですね。

鷹箸さん

まぁ、次の年から生徒に辞められたら困るということで、職業体験の依頼は来なくなってしまったんですけどね…。

少年が魅了されるのも納得のライブ感(画像提供:金沢おぐら座)

どうして芝居小屋をやろうと思ったんですか?

鷹箸さん

こっちに来て結婚した時に、創作舞踏の家元と親戚になったんですよ。で、家元が金沢に芝居小屋を作るから手伝ってくれって。そこではもぎりをやったり、たこ焼きを作ったりしてましたね。

そうなんですか。

鷹箸さん

結局、採算が合わなくて畳むことになるんですけど、ライブハウスでドラムを演奏していた僕にとって、お客さん同士が感動を共有する芝居小屋は特別な存在でもあって。自分が引き継ぐことにしたんです。

ジャンルは違えども共通する部分はあったと。

鷹箸さん

そうですね。ちょうど三十路になる手前で、このままドラム一本でやっていこうか迷ってて。社長になるのも憧れだったし、タイミングが良かったんですね。

とはいってもいきなりの社長業。結構大変だったんじゃないですか?

鷹箸さん

そうですね。とにかく貯金がなくて、引き継ぐにしろまずは運営資金をどうしようかと。なにしろ手元にあるのは600円だけでしたから…。

そ、それは(笑)

鷹箸さん

これじゃマズイというので、公演の合間に「新しい小屋を作るんで恵んでください」って募金箱を抱えて回ったら結構な金額が集まりまして。なんとか今の場所に小屋を作ることができました。当時のファンの方々には本当に感謝ですね。

芝居小屋は多くのファンによって支えられている(画像提供:金沢おぐら座)

劇団のブッキングも鷹箸さんが行っているんですか?

鷹箸さん

いえ、ブッキングはすべて興行師にお任せしています。大衆演劇には複数の専任興行師がいて、公演場所を分担しながらどこにどの劇団を入れるか決めているんですよ。

そうなんですか。

鷹箸さん

今思えば、興行師や劇団にも迷惑をかけました。小屋には舞台幕もなければ道具も何もない状態。「こんな所でできるか!」って、座長さんから何度叱られたことか。それが悔しくて悔しくて、舞台道具を手作りしながら少しずつ整えていったんです。お金を貯めてようやく幕を買えた時は、本当にうれしかったですね。

2013年には森本商店街の一座も旗揚げしてますよね。

鷹箸さん

はい。じつは昔はこの辺りに120軒近いお店があって、そこそこ盛り上がっていたらしいんですよ。でも今は40店舗しかなくて人通りも減っている。どうにか商店街を盛り上げようというので、商店街の店主を一座にした劇団を旗揚げしたんです。やっぱり個人店が大型店に負けないためには、人の魅力が大事じゃないですか。

たしかに。会いたい人がいるかいないかで、お店に顔を出すペースはだいぶ変わりますね。

鷹箸さん

森本商店街一座では、店主さんの人となりを知ってもらうために、プロの劇団とコラボして年に2〜3回公演を行っているんです。今年で10周年になりますけど、皆さんだいぶ上手になりましたね。うちとしても普段観に来ない方たちに大衆演劇の面白さをアピールする良い機会になっています。

森本商店街一座の公演の様子(画像提供:金沢おぐら座)

お芝居や舞踏ショーを観る時のマナーってあるんですか?

鷹箸さん

そんなに厳密なものはないんですけど、常連さんになってくると「ハンチョウ」をかけたりするので、そこらへんに注目するのも面白いかもしれませんね。

ハンチョウですか。

鷹箸さん

歌舞伎でいう所の「大向こう」ですね。

「成田屋!」とかですか?

鷹箸さん

そうそう。大衆演劇では「座長!」とか「待ってました」みたいな声をかけるのが多いかな。これにもタイミングがあって、また一段上の楽しみ方になるんですよ。

奥が深いですね〜。

鷹箸さん

それと初めての方は、二部制というのを覚えておいた方がいいですね。たまにお芝居が終わって帰っちゃう人もいるので。

ちなみに多い人だと1ヶ月の公演でどれくらい観に来るんですか?

鷹箸さん

毎日来られる方もいますよ。

えっ!毎日ですか?

鷹箸さん

日替わり公演なので、飽きずに楽しめるんですよね。役者さんとも交流を重ねることで仲良くなれる。そこらへんも大衆演劇の魅力だと思います。

観ていて元気になるし、とくにお年寄りにとっては最高のエンタメですよね。

鷹箸さん

うちに来るまでは身体がしんどくても、芝居を見たら気分が上がるんでしょうね。とにかく杖の忘れ物が多いんですよ。老人ホームから団体のお客さんもよく来られるんですけど、皆さんキラキラした笑顔で帰って行きますからね。やっぱり大衆演劇には、人を元気にする魔法の力があるんだと思います。

 

コロナ禍にようやく終息の兆しが見え、少しずつ客足が戻ることが期待される芝居小屋。老いも若きも一緒になって盛り上がる。大衆演劇の持つバイタリティこそが、これからの時代には必要なのかもしれません。

 

 

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金沢おぐら座
住所/石川県金沢市弥勒町ロ68
TEL.076-255-1455
開演時間/昼の部12:30〜、夜の部17:30〜
定休日/不定休
料金/当日1,900円(前売1,6000)65歳以上1,700円、学生(高校生以下)600円
駐車場/あり(ショッピングセンター「マイモール」内)
※こちらの情報は取材時点のものです。

 

 

(撮影/林 賢一郎)

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