「星を書く人」ricoさんが綴る“あなたの小さな物語”とは
こんにちは、文字だけの本は小説しか読まないライターの西川です。
ライターという肩書で仕事をしていると、たまに「小説でも書いてみたら」と言われることがあります。しかし、筆者の場合それは多分無理。小説家になったことがないので分かりませんが、同じ文章を生業にしているといっても、ライターと小説家は少々思考回路が違うような気がするのです。それは職人と作家、所謂クリエイターとアーティストの違いなのではないかと思います。
そんな“ライター”な筆者には、物語を思いついたり紡ぎ出したりする過程が不思議でたまりませんが、ここ石川県にはなんとイベントの小1時間で物語を作ってしまう強者がいるというのです。
福岡県出身のricoさんは、2年前金沢に移住してきたばかり。移住する少し前から始めた「星を書く人」では、人と対話をして、その内容を元にその人だけの物語を綴るという活動をしています。
通常はオンラインで行いますが、イベントなどで直接会って行う場面では、対話から物語を渡すまで1時間ほどでできてしまうのだとか。
この記事の導入部分に頭を悩ませてすでに2時間が経過した筆者にとっては、理解できないスピード。しかも、「その人だけの物語」って何なのでしょう?公式サイトのトップにはこのように記されています。
「少しだけ質問をさせていただき、わたしが感じたその人の中にある光るものを小さな物語にさせていただきます。光るものを星と命名しています。暗闇に光る星です。」
捉え方はあなた次第。自分だけの特別な物語
まずはricoさんにお話しを聞く前に、実際「星を書く人」というものがどんな活動なのか、筆者の“星”を書いてもらうことに。
今回、対話はzoom上で行いました。zoomでお顔を拝見したricoさんは、素朴で可愛らしい女の子。そして相手を緊張させない余白のある話し方をする方だなという印象でした。
直接お会いした場合は、10分ほど簡単な質問をして残りの50分で物語を書くことに集中するそうですが、zoomでは実際本人を目の前にするよりもその人の纏う空気が分かりづらいため、つい対話が長くなってしまうのだとか。
この日私がされた質問はこんな感じ。
・名前の漢字
・好きな色
・山派か、海派か
・家族構成
・生まれ育った場所は田舎か、都会か
・小さい頃になりたかった職業
・今までの職歴
・海外に行ったことがあるか
・好きな花
・朝ごはんはパン派か、ご飯派か
・料理はよく作るか
・両親、兄弟について
・母親の料理で一番好きなもの
これ以外にも細かい問いがあったり、会話のキャッチボールがあったりしました。質問項目は決まっているわけではなく、その人に合わせて変えるのだといいます。
正直、筆者はおしゃべり人間なので自分語りをだらだらとしてしまったのですが、後から話しを伺うと相手の話を「聞きすぎない」ことも大事なのだとか。半分聞いて、半分ricoさんの頭の中で掘り下げるくらいがちょうどいいとのことなので、おしゃべりが苦手な方もご安心ください。
最後に、物語を書いた紙を留める糸の色と天然石を選んでこの日の対話は終了。
そして後日出来上がった物語を受け取りました。
物語は、紙箱ブランド「イロイロコハコ」に依頼したという名刺サイズの箱に入っています。筒状に巻かれた小さな紙を開くと、文字がびっしり。約1000字の小さな物語が綴られていました。
“桜の季節が終わるというのに、”という言葉から始まる今回の物語は、一人の女性が、どこかを巡ったり見渡したり潜ったりと様々な行動をする中で、何かを壊しながらも新たに何かを構築し、成長していく様子が描かれていました。
物語を読み終えた時の感情は、一言でいうと自分が大切にしていることを肯定してもらったような感覚。実は読みながら、あまりにもグッときてしまった筆者。取材中にここまで感情が高ぶったのは初めてのことかもしれません。誰しもが悩みながら「自分にとって何が大切なのか」を選択して生きているものだと思いますが、この物語の中には自分のそれがギュッとつまっているように感じたんです。
近しい人ではない、深い話をしたわけではない第三者にそれを知ってもらえているという感覚も、嬉しいような、救われたような不思議な気持ちにさせてくれました。このように書くと占いやスピリチュアルなどと似たように感じてしまうかもしれませんが、それとはまったく異なります。ricoさんの書く物語は、未来を言い当てたり何かを促したり諭したりするようなものではなく、今現在のその人のそのままを、ricoさんの解釈で表現した「状態」のようなものなのかなと思いました。
読み手は基本その人本人ですが、物語という表現方法だからこそ、どう捉えるのも自由。断定的ではない余白のある言葉選びも読み手の想像をかき立て、物語への没入感を加速させてくれたように感じます。
人に対して敏感な自分だからこそできる物語の書き方
ここからは、ricoさんにこの活動についてを伺いたいと思います。
ricoさんが経営していた「縁側」の当時の様子
書店であり、人が集う場所だったんですね。
ricoさん
はい。だからこの活動も最初は物々交換から始めた気軽なものだったんですよ。SNSで「あなたの物語を書くので、何かと物々交換しましょう」と告知して。
へぇ~おもしろいですね。「星を書く人」の“星”とは、ricoさんの中ではどういう風に解釈されているんですか?
ricoさん
HPには「光るもの」と書いたのですが、その人が本来持っている原石のようなものだと思っています。生まれ持ったものや、今までの経験で培ったもの、今は発揮されていないけれど磨いたら光るはずのものなどもあるのかもしれません。
こういうのを聞くって野暮だなと思うんですけど…今回書いていただいた物語では「彼女」という主人公が出てくるじゃないですか。スバリ聞くとこれって私なんですか?
ricoさん
あ、そうです(笑)。“私”や“僕”が一人称のときもありますし、客観的に自分をみているなと感じる人の物語は“彼女”や“彼”が主語のことが多いかもしれません。一度だけ主語を他人にして、お話しした相手を見ているような物語を書いたこともありますね。 ただ、お話しした相手だけが登場人物というわけではないです。誰か分からない第三者的な人がいたり、その人が大事にしているであろう動物だったり、登場人物は色々ですね。
物語を書く上で“星”を見つけることがとても重要に感じますが、簡単な質問の中でどうやってそれを見つけているんですか?
ricoさん
うーん、自分で言うのもあれなんですが、私は人に対してすごく繊細なタイプなんです。相手がどんな人なのか、どういう風に感じているのか、人よりも少し分かる方なんだと思います。これはその自分の特性を最大限に活かしている活動なんですよ。
あまり深く質問し過ぎないように気を付けているというのも、その自分の感覚を大事にしているということでしょうか。
ricoさん
そうですね。自分がその相手に対して感じていることが、もしその相手も同じく感じていることだとしたら、口で発した言葉よりももっとその人の中で大きなものなんじゃないかと思うんです。
自分が人に対して繊細だなと気付いたのはいつ頃ですか?
ricoさん
かなり小さい頃からです。ただ、それによって自分自身がセンシティブになるということはなくて、人に対して敏感だからこそ身の振り方を上手くしてきたタイプだったと思います。なので自分では無意識ですが、もしかしたら本当の自分は抑えているような感じなのかもしれません。こういう物語を書くのが好きとかは、地元では周りに絶対言わなかったですし。どんな反応をされるか分かってしまうので。
熟考して長い物語を書くというやり方もあったかと思いますが、現在のようなスタイルにしたのはなぜですか?
ricoさん
私、基本怠け者なんですよ(笑)。だから長い物語にしてしまうと、だらだらと書かずにいてしまいそうで、それが嫌だったんです。短い時間で自分の全細胞を集中させて、相手のことを吸収して、すべてを物語に凝縮させる。そのために1時間というリミットを自分に課しました。直接お会いして行う場合なので、絶対に終わらせなきゃいけないですしね。
今まで“星”を書いた相手で印象に残っている人はいますか?
ricoさん
今まで150人ほどの人たちの物語を書いてきたのですが、みなさんそれぞれに印象的なところがあって面白いです。その中でも書いた物語自体をすごく気に入っているものがほんの数本だけあるんです。そういうものは何度も読み返したくなりますし、心臓がキューンってするんですよ。
ものづくりをしている人であっても、自分が作った作品に対して「上手くできた」ではなく「キューン」と心を震わせられる経験というのはそう多くないのではないでしょうか。それは、物語を書いている時の彼女が、周囲には見せない“本当の自分”だからなのかもしれないですね。
今回書いてもらった文章は、筆者にとっても時折読み返したくなるほど大事な物語になりました。落ち込んだ時や嬉しいことがあった時、何かをやり切った時など、その時の自分の状況に寄り添って、背中をポンと押してくれるような気がします。
気になる方はぜひオンラインにてアクセスしてみてください。
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星を書く人
公式HP:https://room.hoshiwokakuhito.com/
Instagram:@ ohanashi_of_
※こちらの情報は取材時点のものです。
(撮影/林 賢一郎)
この活動はなぜ始められたんですか?
ricoさん
元々、人についての物語を書きたいなってずっと思っていたんです。でも書ける自信が無くて。福岡でブックカフェのような場所を経営していたんですが、ある日お客さんが誰も来ない時にぼーっとしていたら「あ、今なら書けそう!」という気持ちになったんです。ある人を想像して書いてみたら思うように書けたので、続けてみようと。
最初はそのブックカフェで行っていた活動だったんですか?
ricoさん
そうですね。「縁側」という名前の場所だったんですけど、最初はじいちゃんとばあちゃんの家の縁側でやっていたお店屋さんごっこみたいなことが始まりだったんです。本を置いて、それを読みながらご近所さんが来たらコーヒーやジュースを選んでもらって出す、遊びようなものでした。それがひょんなことからお店をしてみないかという提案を受けたので、その縁側をそっくりそのまま色んな人が出入りできるお店としてつくったんです。