石川音盤探訪 #04|ビーチパーティ(稲垣雄志)
次世代に残したい名盤を求めて、北陸の小さなレコード店やディスクショップを巡る【石川音盤探訪】。第4回目となる今回は、金沢柿木畠の『レコード・ビーチパーティ』を訪ねました。
イカした提灯が目印。
レコードは過去と現代をつなぐメディア
――はじめまして!早速なんですけど、なんでバイオリンが飾ってあるんですか?
それ売り物なんですよ。表にあったクラシックギターも売ってますよ。
――あ、そうでしたか。ということはメインはクラシック系のレコードですか?
うーん。そういうわけではないんですけど、クラシック音楽とロックはちょっと多めですかね。とはいえジャズから歌謡曲、クラブミュージックまで、わりと幅広いジャンルの音楽を取り揃えている方だと思いますよ。
あらゆるジャンルのレコードが所狭しと並ぶ。
バイオリンなどの楽器もちょっとだけ販売。
――稲垣さんがレコードショップを開業したのはいつ頃ですか?
1997年だったかな?26歳のときに開業しました。当時、片町にフルボリューム・ラボラトリーというクラブがあったんですけど、そこのオーナーさんが知り合いで「昼間は空いてるからレコードを売ってみない?」って誘われたのが始まりでした。
――なぜ、レコードショップを開こうと思ったんですか?
バンドをしたり、絵を描いたり、お芝居をしたり、色々とやっていくうちに、街でお店をやるのも同じだと思ったんですよね。だからお店もバンドをやる感覚で、軽い気持ちで始めちゃった。レコードをたくさん持ってたというのもあるんですけどね。
アートにも詳しい稲垣さん。
――レコードやCD以外にも、VHSやレーザーディスクも取り扱ってるんですよね。
はい。音楽に関係するものはなんでも取り扱うようにしてるんです。雑誌もそうだけど、その方がなんか楽しいじゃないですか。
――ずばりレコードの魅力ってなんだと思いますか?
たとえば百年前に録音されたレコードでも、状態の良いものは圧倒的な音圧で立ち上がってくる。大切に保管さえしていればアナログレコードは本当に優秀なメディアなんですよね。しかもその時代の雰囲気をリアルに伝えてくれるし、何十年前のレコードも最近出たばかりのレコードも並列に聞ける。僕自身、レコードは時代を超越して現代とつながるメディアだと思ってます。
積み重なったVHSに懐かしさを感じる。
地獄の黙示録がきっかけで…。
――続いては、稲垣さんの音楽遍歴を聞いてみたいと思います。子供の頃はどんな音楽を聞いていたんですか?
音楽に興味を持ったきっかけとしてパッと思い浮かぶのは「スター・ウォーズ」のサントラ。あのオーケストラの爆音には衝撃を受けましたね。映画少年でもあったので、レコードを買うにしてもほとんどがサントラ版でした。最初に買ったのはたしか「地獄の黙示録」だったかな。ワーグナーのワルキューレの騎行はもちろん「バタバタバタ」というヘリコプターのローター音に、すごく興奮したのを覚えてます。
――サントラとはなかなか渋いですね。しかも地獄の黙示録って…。小学生からコッポラとか難易度高すぎっす。
それから中学生の時にギターを初めて、スケール(音階)の練習をするために色々なジャンルの音楽を聴くようになりましたね。最初の頃は「世界中の音楽を制覇してやる」なんて意気込んでいたけど、自分の知らない音楽を開拓していくうちに、色々な年代、地域、民族ごとにたくさんの音楽があるんだということに気づかされて。完全になめてました。
気が済むまでディグしたい。
CDの品揃えもなかなか。
――最近はどんなジャンルの曲をよく聴いてますか?
クラシックが多いかなぁ。クラシックと聞くと難しい印象を受ける人もいると思うけど、映画やテレビでも一番多く使われている音楽だし、馴染みのある曲も結構多いんですよ。好きな理由は、全人類が共感できるような圧倒的悲しみだったり圧倒的怒りだったり「なにか凄いものを聴かされてる!」という気持ちになるから。ほかにもクラシックに限らず、芸術性の高い音楽には惹かれてしまいますね。
――ありがとうございます!それでは、そんな稲垣さんがおすすめする「日曜の朝に聴きたい音楽」にいってみましょう。
稲垣さんが選ぶ「日曜の朝に聴きたい」音楽3選
Villa Lobos/Bachianas Brasileiras
Paco de Lucia/Fuente Y Caudal
稲垣さん
名盤中の名盤!パコ・デ・ルシアといえばフラメンコやジャズの分野で活躍したギタリストとして有名ですが、このアルバムではボンゴやルンバなど様々な楽器やリズムが取り入れられています。1970年代の作品ですが、伝統的なフラメンコを超越した「凄み」のようなものをいまだに感じてしまいますね。ウキウキと心が躍る日曜を過ごしたい方へ。
Psychic TV/Just Drifting
稲垣さん
サイキックTVはイギリスのロックバンド。先日、主宰のジェネシス・P・オリッジが亡くなってしまいましたが、名盤色あせずといった感じで、いつ聴いても心に響きます。曲調も落ち着いているので、ゆったりとした一日が送れそう。ちなみにこの曲はジェネシスが「人類が滅亡する最後の日に聴く曲」をテーマに作ったそうです(笑)。
以上、稲垣さんが選ぶ「日曜の朝に聴きたい」音楽でした。
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レコード・ビーチパーティ
石川県金沢市柿木畠4-12広坂中央ビル3F
TEL.076-261-6516
営業時間/13:00~20:00
定休日/水曜日
駐車場/近隣にコインパーキングあり
※こちらの情報は取材時点のものです。
(取材・文/吉岡大輔、撮影/林 賢一郎)
稲垣さん
ヴィラ・ロボスはクラシックとブラジル音楽をミックスした作風で知られる、ラテンアメリカを代表する作曲家です。このブラジル風バッハという組曲は「もしもバッハがブラジルの民族音楽を作曲したら」というテーマで作られていて、独特な雰囲気がありますね。ビクトリア・デ・ロス・アンヘレスのボーカリーズ(歌詞を伴わずに母音のみで歌うこと)も素晴らしい。朝の目覚めにぴったりです。