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和文化根付く東山でモンゴル料理?!この夏移転した「AnnChai」で妄想モンゴル旅

この夏の大ヒットドラマ「VIVANT」に登場し、ロケ地としても話題となったモンゴル。ドラマで広大な砂漠や草原の風景は映ったけれど、実際どういう国なのか正直よく知らないという人も多いはず。そんな方に朗報です!実はひがし茶屋街から少し歩いた場所に、今夏モンゴル料理のお店がオープンしました。モンゴルまで行くのはなかなか大変ですが、妄想旅ならお手軽ですね。和文化が根付く東山で、いざ脳内モンゴルの旅へ!

モンゴル料理は数えたら眠くなるほど羊がたっぷり?!

 

観光客で賑わうひがし茶屋街のもっと奥。蓮昌寺や慈雲寺などの寺院が軒を連ねる山手のエリアに、車で通るのは難しいほど細くて閑静な「心の道」と呼ばれる通りがあります。そんな路地裏でこの夏ひっそりと移転オープンしたのがモンゴル料理店『AnnChai』です。

 

 

扉を開けると鮮やかなアートが描かれた扉がもう一枚。表にはモンゴルの伝統的な文様が、裏には白馬が描かれていました。モンゴルで馬は移動手段や牧畜の管理などに用いられる一方、日常的でありながら神聖な生き物でもあるそうで、食用の家畜とは一線を画す存在だといいます。

 

 

古民家を改装した店内はモンゴルから輸入したインテリアやそれを再現してつくった家具が目を引く空間で、和と東アジアが調和していました。

 

 

もてなしの一杯として出してくれたのは「自家製カルピス」。飲んでみるとカルピスというよりヨーグルトに近いような味わいで、甘みより爽やかな酸味を感じました。

 

乳酸菌飲料“カルピス”の生みの親・三島海雲は、モンゴル滞在時に乳を乳酸菌で発酵させてできた酸乳と出合い、後にカルピス生産の起源となったのだとか。誰もが知るカルピスがモンゴルからきたものだとは驚きですよね。

 

まだまだ知られざる食文化がありそうなモンゴル。今日は代表的なモンゴル料理を3品用意していただきました!

 

ボーズ 3個600円~

 

こちらがモンゴルの国民的料理「ボーズ」。モンゴルの蒸しギョーザのことだそうです。中国の包子(バオズ bāozi)に由来すると言われていますが、中華料理で包子というと中華まんのこと。このボーズはどちらかというと小籠包のように皮で具を包んだ料理です。

 

中身はほとんどが羊肉。少しの薬味とモンゴル岩塩を混ぜただけのシンプルな味付けは、モンゴル料理全体に共通する要素だといいます。皮は自家製でもちもち感がたまりません。

 

羊の肉は臭みやクセがあると思われがちですが、鮮度管理や処理の仕方をしっかりしたものであれば全く臭みはありません。今回いただいた3品は全て羊肉を使用していましたが、どの料理もとても食べやすく、お子さんや高齢の方でも楽しめそうな味わいでした。

 

ツォイヴァン 900円

 

次に出てきたのはモンゴルの蒸し焼きそば「ツォイヴァン」。羊肉などの具材と共に軽く炒めたあと、蒸して作られる料理です。麺は日本の焼きそばよりも平たく、そして短く切られて提供されます。短いので麺料理というよりは、そばめしに似た感覚の料理かもしれません。

 

 

全体の味付けはやはり塩味のさっぱりしたものですが、味変として「AnnChai」では草原のニラ「フムル」を使った漬物が添えられています。酸味と塩味があり、味のアクセントとしてたまりません!栄養価が高く、中国では高級食材として扱われているそうです。

 

チャンスンマフ 2~3人前3,800円~

 

最後の料理は迫力満点のこちら!羊肉の塩ゆで「チャンスンマフ」。骨付きの羊肉をモンゴル岩塩で塩ゆでしただけのシンプルな料理ですが、肉本来の味わいが感じられる野性的な一皿です。「AnnChai」では伝統的な解体方法にこだわり、手で捌かれた肉のみを仕入れています。様々な部位を使用するため、どの部位が提供されるかはその時のお楽しみ。ちなみに今回はすね肉を頂きましたが、弾力のある食感がクセになる部位でした!

 

モンゴル料理の味付けは基本岩塩のみ。南アジアのようにスパイスを使う料理はほぼなく、味の変化はネギなどの薬味によってつけるものだといいます。同店ではお客さんからのリクエストで「羊肉カレー」やクミンで炒めた「羊丼」も用意していますが、まず最初は本場の味をいただくのがおすすめです。

 

また、肉を多く食べるイメージがありますが、現地では肉よりも乳製品を多くとるそう。なんとお茶にもミルクと岩塩を入れて飲むというので驚いていたところ、試飲させていただけることに。お茶とミルクと塩、と言われると少し敬遠しそうになりますが、飲んでみるとあっさりとしたミルクスープのようでした。食後にほっと一息というよりは、食中に他の料理と一緒にいただく方が合いそうです。

快活で知性溢れる店主。掲げた夢と故郷モンゴルへの想い

 

この「AnnChai」を営むのはモンゴル人の中谷アンギルマさん。中学時代から日本語を学び、その語学力を生かして日本の様々な大手企業でPRの仕事をしていたというアンギルマさんですが、結婚を機にご主人の出身地である金沢へやってきたといいます。現在、翻訳の仕事をしながらモンゴルの文化をより多くの人へ伝えたいとこの店を立ち上げました。

 

 

店名の意味は「アンギルマのお茶」。元々石引にあった店舗は、友人がギャラリーをするために借りた場所の一部をオフィスとして使わないかと提案されたところで、気軽に人が立ち寄ってモンゴル茶が飲めるようにした簡易的なスペースだったそう。

アンギルマさん

私の出身地である内モンゴルでは徐々にモンゴル語が失われてきています。今、モンゴル人は民族としての自信を失ってきているんです。でもモンゴルには素晴らしい文化がたくさんある。より多くの方にモンゴルの文化を知ってもらえるように、今の場所に移転をして本格的なお店にすることを決心しました。

草原の香りがするお香 500円

 

店内ではモンゴルの小物も販売しています。伝統的な文様を刺繍であしらったヘアゴムや、牛糞を利用したお香。ドラマ「VIVANT」のメイキングで女優の二階堂ふみさんが馬糞をいい香りだと話したことを、アンギルマさんはとても喜んでいました。

アンギルマさん

モンゴルでは馬も牛も大草原の草をたくさん食べて生きているので糞も植物のいい香りがするんです。モンゴルの生活はこの現代でも自然ととても密接。自然と動物と人が心地よく共存し、循環しています。例えば遊牧民の暮らしに欠かせない移動式住居・ゲルも羊の抜け落ちた羊毛で作られているエシカルな住居なんですよ。

モンゴルでは相撲、弓射、競馬が「男三芸」と呼ばれ、家庭に鞍があるのは一般的。特に競馬は男児のもので、3歳の子どもでも馬を乗りこなすとか!

 

空間の至るところに飾られたインテリアは、モンゴルの伝統文化に通じるものや、モンゴル人アーティストの絵画など。日本で生まれ育った筆者にはどれも独特の世界観をまとっているように感じたのですが、なぜかそれがこの日本らしい建築と和の文化が強く残る地域にぴったりとフィットしていて、とても不思議な感覚でした。

 

2階のスペースからは東山の景色が見える。窓から馬の形をした馬場小学校の校舎を見られることがお気に入りだそう。

 

アンギルマさんにとって「AnnChai」はモンゴルの文化を伝えるための手段の一つ。今後店舗は飲食店としてだけでなくモンゴルのアーティストが活躍できるアートギャラリー「ENNA」として利用することも考えているそうです。

アンギルマさん

「AnnChai」はもちろん今後もモンゴル料理のお店として力を入れて頑張りたいと思っていますが、「ENNA」はモンゴルを研究し表現するブランドとして育てていきたいんです。その中での今の大きな夢は牧場を作ること。そこでモンゴルの自然や動物と共存する形を表現したいと考えています。

多角的な視点でモンゴル文化を捉えより広く伝えていく。アンギルマさんは自身がそのモデルになることでモンゴルの人々にも自分たちの文化について自信を持ってほしいと話します。

 

現在でもモンゴル文化や彼女の魅力を知った多くのファンが東山の路地裏へ足繁く通っていますが、アンギルマさんの活動は留まることを知りません。生まれ育ったモンゴル文化を伝えていくだけでなく、さらに歴史を紐解き、深く研究を続けることで、ソースのある情報として広めていきたいと意志を持った瞳で話してくれました。

 

気軽にモンゴル料理を楽しみたいという方も、モンゴルのことをもっと深く知りたいという方も、ぜひ一度訪れてみてください。新たな扉が開けるかもしれません。

 


 

AnnChai(アンチャイ)

住所:石川県金沢市東山2-9-14 [地図]
TEL:076-225-7971
営業時間:12:00~15:00、18:00~21:00 ※土日祝は通し営業
定休日:火曜、水曜
駐車場:無し
HP:https://annchai.azine.jp/

 

撮影:林 賢一郎

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