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極地ランナー・赤坂剛史さんがマラソンから得た人生の美学

サハラ砂漠や南極大陸など、食糧や水を背負いながら7日間で250キロの距離を走りぬく極地マラソンのランナーとして、自身の能力の限界に挑み続けてきた赤坂剛史さん。現在は金沢工業大学で講師を務めながら、ロングトレイルをここ北陸に広めるため白山麓を舞台としたジオトレイルを開催している。

 

なぜ、そこまで走ることに魅了されるのか。その理由を聞いてみた。

 

赤坂剛史(あかさか・たけし)
1972年生まれ。神奈川県出身。「白山ジオトレイル」実行委員長。2008年のサハラマラソンを皮切りに、世界各地の極地マラソンを走破。現在は金沢工業大学で教鞭を執り、工学博士としての顔も持つ。

 

 

 

ゴールすることだけが目的ではない。

いつ頃からマラソンを始めたんですか?

 

始めたのは28歳。大学時代の友人に誘われて、富士山麓の河口湖で開催されたフルマラソンに参加しました。4時間2分という初参加にしては上々のタイムで完走できたもののとにかくキツくて。完走後は二度と走るまいと思いました。でも、一緒に走った仲間たちといる時間が楽しくて。いつのまにかマラソンにのめり込んでいました。

 

それから100キロ近くの距離を走るウルトラマラソンに舞台を移すことになります。

初めて参加したのが、地球上でもっとも過酷といわれるサハラマラソン。初マラソンから8年後の2008年に出場しました。砂漠という地も250キロという距離も未知の世界。極限の状況で自分の感情はどうなるのか。ワクワクする気持ちを抑えながら参加したのを覚えています。

 

印象的だった出来事はありますか?

絶景が広がる山道をひたすら走っていたある夕方、日が暮れて道に迷うのが嫌だったので少しばかり焦りながら歩を進めていました。そんなときに一人のドイツ人ランナーから「こんな素晴らしい景色が目の前にあるのに、君はなぜそんなに慌てているんだ?」という言葉をかけられました。それまでのマラソン経験の中で「ゴールすることよりも道中を楽しむことが大事」。そう心に言い聞かせてきた自分にとって、最もショックを受けた瞬間でもありました。

 

250キロもの距離を走りながら景色を楽しむ。なかなかハードですね…。

自分にはまだその余裕が無かったんだと。それをきっかけに「道に迷うことすら楽しんでしまえ」と思うようになりました。途中の過程を楽しみながら諦めずにやり続ければ、かならずゴールまで辿り着ける。もし、失敗をしてもそのときの仲間と一緒に、新しい道を切り拓けばいい。これはマラソンを通じて、僕自身が学んだ人生の教訓でもあります。

 

世界一過酷なサハラマラソン。コースとなるのはモロッコ南部のサハラ砂漠。参加者は食料と水を担ぎ、ロードブックとコンパスだけを頼りに歩を進める。(撮影:赤坂剛史)

 

これがそのロードブック。まるで宝の地図のよう。

 

河口湖で開催された大会でフルマラソンに初挑戦した赤坂さん。4時間2分の好タイムで完走した。

 

気がついたら出る杭になっていた。

それから数年かけてアタカマ砂漠、ゴビ砂漠、南極などの極地マラソンに出場し、一度その活動に区切りを付けることになります。

こう見えて若い頃はシャイで、大勢の前で発言するのが苦手なタイプでした。とにかく出る杭にはなりたくなかった。でも、会社を2週間も休んで砂漠を走りに行く人間なんて普通はいませんから、気がついたら自然と出る杭になっていました。で、いざ出る杭になると、周りの目を気にせず自分の意思で動けるようになっている。挑戦をし続けたことによって、すべての物事がポジティブに考えられるようになりました。新しい研究がしたいという理由で、長年勤めていた会社を辞めて石川県に移住したのもこの頃です。

 

アタカマ砂漠マラソン。食料や寝袋などが入ったリュックを背負い、気温差40度、高度3000メートルの過酷なアタカマ砂漠250キロを走る。(撮影:赤坂剛史)

 

ゴビ砂漠マラソン。世界で最も暑いとされる中国のゴビ砂漠を走る250キロのステージレース。少数民族の文化と生活を感じることもできる。(撮影:赤坂剛史)

 

極寒の南極大陸で開催される250キロのマラソンレース。サハラ、アタカマ、ゴビの内2つを完走した者にだけ参加資格が与えられる。(撮影:赤坂剛史)

 

挑戦することで新しい自分に出会えた気がする。

赤坂さんが次のステージに選んだのは、白山で極地マラソンを開催することでした。

人は挑戦を節目に、自分に自信がつき、新たな自分に出会い、そして新しい生き方ができるようになる。僕自身、南極マラソンに参加するときは多くの人たちの支えによって、その夢を実現することができました。今度はその恩返しとして、たくさんの人が挑戦できる機会を作りたい。そんな思いで2013年に白山を舞台にしたロングトレイルレースを開催しました。

 

赤坂さんも参加する予定だそうですね。

そうなんです。数年ぶりに来年の白山ジオトレイルに挑戦しようと思っていて、トレーニングを始めているところなんです。今年の開催は8月25日から31日。体力に自信のある方はぜひ挑戦してみてください。

 

毎年8月に開催される「白山ジオトレイル」。食料自給の7日間250キロ。アップダウンが激しいことからサハラマラソンより過酷との声もある。(撮影:赤坂剛史)

 

※こちらの記事は、2019年1月末発行の『BonNo』vol.89を再編集したものです。

 

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