雨だれのジュークボックス|MOcA Diary カレーってからいですか #01
目次
2011年9月に、北陸三県を対象に食・人・カルチャー・ファッションなどさまざまなジャンルにスポットを当てたフリーペーパー「BonNo」が創刊して以来、紙媒体から“石川県がもっと楽しくなるウェブマガジン”「ボンノ」に移行した現在まで僕だけ(?)約11年間も連載を続けさせてもらっていますが、果たして僕で大丈夫なんでしょうか。ニーズがあるならこのままタウン誌界の「コボちゃん」を目指して頑張ります。
さて、この11年間で書いてる内容は大して変わらないんですが、連載コラムのタイトルは「和ラダイスガラージ」「歌謡バック・トゥ・ザ・フューチャー」「爆裂地方都市」と変えてきました。ウェブマガジンになってから「爆裂地方都市」で連載20回やってキリがいいので今回からまた気分転換でタイトルを「MOcA Diary〜カレーってからいですか」にしましたのでよろしくお願いします。
ここから本題。「JO-HOUSEの店主はレコードを集めている」という情報が浸透すると人から人へと伝わって押し入れに眠っているレコードをいただいたり終活・断捨離・遺品整理などでいらなくなったレコードを引き取ったりとありがたいことが起きますが、先日石引商店街の某老舗店主と会話してたら「うちにジュークボックスがずっと放置されてて動くかわからないけど欲しいならあげるよ」というものすごい話が・・・!ほ、欲しい!
でも引き取ってみて修理不可能なら単なるインテリア、もしくはでっかい有料粗大ゴミ。
取り敢えず現物は見てみたいのでお邪魔してきました。聞くところによると、その老舗のビルの地下に昔スナックがあって、そこで使ってたジュークボックスを店を辞めるときに置いていってしまったんじゃないかという話。
おお!これが石引ジュークボックス!高度成長期の昭和の夜のパワーの余熱を感じるかわいいくもアクの強いデザイン!検索したらポスター発見しました。この機種はコロンビア発売された「JB-650」という機種で発売年は分からなかったけど販売価格が当時で65万円。てことは今なら260万円相当!超高級品だけどスナックのママがどうやって購入したんでしょうか。
察するにポスターに「SAPPORO」と書いてあるので、酒造メーカーが飲み屋に酒の取扱いを条件にジュークボックスを貸し出していたという線もありそう。
昔はビールサーバーが無かったので飲み屋で冷えた瓶ビールを提供するためにビール会社が冷蔵庫を寄贈してくれたりしてました。今でも店の看板に酒造メーカーの社名を入れる代わりに看板代を出してくれたりとかあるからそうかもしれない。
コンセントを差したら通電して照明がまばゆく点灯!1曲20円で100円で6曲聞ける。お金を入れたら反応して「SELECT」という選曲ランプも点灯!しかし残念ながらそれ以上は作動しませんでした。中を開けてみたら7インチレコードが放射線状にセットされたまま。いつ頃から入れっぱなし何だろうか・・・現時点では聞けないけど、ジュークボックスに入ってるレコードを全部チェックしてみました。
A1 アンドレ・ルノー・オーケストラ / パリは霧にぬれ
A2 アンドレ・ルノー・オーケストラ / 恋
A3 映画「鉄道員」サウンドトラックより
A4 アース・アンド・ファイアー / シーズン
A5 トム・ジョーンズ / 思い出のグリーン・グラス
A6 トム・ジョーンズ / イフ・アイ・ハド・ユー
A7 ペレス・プラード / 花火
A8 ペレス・ プラード / ある恋の物語
A9 クイーン / キラー・クイーン
A0 クイーン / フリック・オブ・ザ・ギフト
B1 サンタナ / ホープ・ユア・フィーリング・ベター
B2 サンタナ/ ブラック・マジック・ウーマン
B3 ダニエル・センタクルツ・アンサンブル / 哀しみのソレアード
B4 ダニエル・センタクルツ・アンサンブル/ エリーゼのために
B5 アルフレッド・ハウゼ / 碧空
B6 アルフレッド・ハウゼ / ジェラシー
B7 映画「エクソシスト」/ チューブラー・ベルズ(エクソシストのテーマ)
B8 映画「エクソシスト」 / イラクの遺跡
B9 ザ・ビージーズ / メロディ・フェア(小さな恋のメロディ)
B0 ザ・ビージーズ / 若葉のころ
C1 ナルシソ・イエペス / 禁じられた遊び
C2 ナルシソ・イエペス / 禁じられた遊び・第二部
C3 ホットバター / ポップコーン
C4 ホットバター / アット・ザ・ムービーズ
C5 ビリー・ヴォーン/ 峠の幌馬車
C6 ビリー・ヴォーン/ 浪路はるかに
C7 グランド・ファンク・レイルロード/ ハートブレイカー
C8 スクリーン・ランド・オーケストラ / 皆殺しの歌(リオ・ブラボー)
C9 映画「 ロミオとジュリエット」より/ ロミオとジュリエット
C0 映画「ロミオとジュリエット」より / プロローグ
D1 フランシス・レイ楽団 / 映画「流れ者」のテーマ
D2 フランシス・レイ楽団 / 雨の訪問者
D3 ニニ・ロッソ/ タワーリング・インフェルノ・愛のテーマ
D4 ニニ・ロッソ/ゴッドファーザーⅡ・愛のテーマ
D5 内藤清五指揮・東京消防庁音楽隊 / 軍艦マーチ
D6 内藤清五指揮・東京消防庁音楽隊 / 敵は幾万
D7 リカルド・サントス楽団 / オレ・グァッパ
D8 リカルド・サントス楽団 / 真珠採り
D9 シルヴァリー・ストリングス / 映画「太陽がいっぱい」より
D0 コレット・テンピア楽団 / 映画「太陽はひとりぼっち」より
E1 サム“ザ・マン”テイラー / 夕陽に赤い帆
E2 サム“ザ・マン”テイラー / ハーレム・ノクターン
E3 フランシス・レイ楽団 / 愛と死と
E4 フランシス・レイ楽団 / ある愛の詩
E5 サム“ザ・マン”テイラー / スターダスト
E6 サム“ザ・マン”テイラー / ダニー・ボーイ
E7 ベルト・ケンプフェルト楽団 / 星空のブルース
E8 ベルト・ケンプフェルト楽団 / 純愛のブルース
E9 モウリーン・マクガヴァン / 映画「タワーリング・インフェルノ」愛のテーマ
E0 モウリーン・マクガヴァン / あなたに寄せる詩
F1 ニニ・ロッソ/ 夕焼けの戦場
F2 ニニ・ロッソ/ 夕焼けのトランペット
F3 フランシス・レイ楽団 / 白い恋人たち
F4 フランシス・レイ楽団 / 脱走山脈のテーマ
F5 森進一 / 二人のいのち
F6 川辺妙子 / 雨に咲く花
F7 ペレス・プラード楽団 / べサメ・ムーチョ
F8 ペレス・プラード楽団 / タブー
F9 ジョン・ウィリアムス指揮 / 映画「大地震」のテーマ
F0 ジョン・ウィリアムス指揮 / 映画「大地震」愛のテーマ
全60曲。こうして見るとほぼすべてシングルレコードの裏表、A面とB面が聞ける配置になってますね。
そして圧倒的にいわゆるスクリーン・ミュージック、イージー・リスニング、ムード・ミュージックが多い!今なら中古レコード屋さんで100円でも買われないような「誰が聞くんだ系」レコードが当時の夜の現場で、庶民の間では圧倒的主役だったということが分かります。
フランシス・レイFrancis Lai/ある愛の詩 LOVE STORY
一番人気のフランシス・レイ楽団は6曲エントリー。確かにこんな曲を聞きながら酒場でブランデーとか飲んでたら気分だけでもラグジュアリーになれそうです。
Harlem Nocturne
日本全国どこの実家の押し入れにもあるサム“ザ・マン”テイラー先生のレコードも4曲収録。この曲よく色っぽいシーンのBGMで使われるけど改めて聞くと夜の匂いがすごい!スナックで聞いたらママとどうにかなってしまいそうです。ノクターンが夜想曲(夜の情緒を表現した曲)という意味なので表現度100点のナンバー。
軍艦行進曲
D5「軍艦マーチ」、D6「敵は幾万」という戦意高揚軍歌があるのも時代かしら。当時はまだ戦争体験者がバリバリ現役で働いていたので終戦後の右肩上がりの高度成長に置いていかれたような人たちが軍歌をリクエストして戦友と肩組んで歌ってたのかなぁ(想像)。
二人のいのち
日本の歌謡曲は意外と少なくてF5森進一とF6川辺妙子のみ。どちらも1971年リリースの情念ナンバー。ママの好みでしょうか(想像)
Taboo
出ましたF8タブー!当時大人気番組だったドリフターズ「8時だョ!全員集合」で加藤茶がこの曲に合わせてストリップ嬢のステージのマネをして「ちょっとだけよ〜あんたも好きねぇ」というギャグが全国の子どもたちの間で大流行してたのを親や教育委員会が問題視してた裏で、お父さんたちは夜な夜なスナックで酔っ払ってこれをBGMにストリップしてたりして(想像)
Queen – Killer Queen
若者向けロックもありました。1971年に後楽園球場で雷雨の中でのコンサートが伝説となっていたC7のグランド・ファンク・レイルロード、1973年に日本武道館コンサートをしたB1サンタナ、そして日本でアイドル的人気でブレイクしていたA9クイーン。キラークイーンが1974年発売でおそらくこれがこのジュークボックスの中でいちばん新しいレコードなので、ママがジュークボックスの選曲を最後にしたのはズバリ1974年だ!48年前で時が止まっとる・・・。
でもB7映画「エクソシスト」の公開が1973年、D3「タワーリング・インフェルノ」、D4「ゴッドファーザーⅡ」、F9「大地震」公開が1974年なのでそのサウンドトラックがジュークボックスに入ってるしクイーンの最新ヒットもあるし、割と最先端の選曲。ママって流行に敏感だったりして。で、客のニーズにも応えてムード音楽や軍歌もあると。なんだかジュークボックスを通じでママと交信しているような気になってきます。ママはご存命だろうか。ママって中年をイメージしてしまうけど当時20代だったかも。
後日、生まれも育ちの石引のおっちゃん(70代)がJO-HOUSEに呑みにきたときに、ジュークボックスの写真を見せたら「これスナック『雨だれ』のやつじゃなかったっけ?」という超貴重な情報が!雨だれ!石引の某ビルの地下には小さな飲み屋が何件かあって、どの店も満席になると酸素が薄くなりライターの火が点かなくなったり酸欠で倒れたりしてたそうです。今その地下は消防法的に飲食店NGとのこと。
いや〜お店の屋号に「雨だれ」って付けるセンスも素晴らしい。雨だれ、軒先から滴り落ちる雨水。雨の多い金沢にピッタリです。というわけで、ジュークボックスは友人の電気工事屋さんが仕事抜きのご厚意で診てくれることになったので僕が引き取ることにしました。どうにか修復して再び動いてほしい!
その際は「雨だれ」復活します!いや、このジュークボックスの名前を「雨だれ」と命名します!もう先走ってジュークボックス用のレコードを買い出している僕・・・次はママを探そう!
あ、連載タイトル「MOcA Diary」の元ネタはTXTです。
Tomorrow X Together / MOA Diary (Dubaddu Wari Wari)