老舗ライブ喫茶「メロメロポッチ」が今、考えること。
2020年3月。近江町市場の地下にあった老舗ライブ喫茶『メロメロポッチ』が、金沢市古府町に場所を移し、新たなスタートをきった。
国道拡幅工事によって閉店を余儀なくされてから約半年。世の中がコロナ禍にあえぐ中での明るいニュース。青春時代に何度も足を運んだ筆者にとっても、その喜びはひとしおだった。
あれからさらに半年。アーティストの表現の場として、数多くの表現者を紡いできたメロポチは今、どうなっているのか。マスターの熊野盛夫さんに会いにいった。
お店を訪れたのは平日の午前中。まだ、お客さんは1組しかいない。
うっすらと流れるジャズと同程度のボリューム控えめな笑い声。カウンター越しにマスターと談笑しながら、美味しそうにカレーを食べている。どうやら常連さんのようだ。
しばらくソファでくつろいでいると、用事を終えた熊野さんがこっちに来てくれた。
演劇の脚本家や市議会議員としても活動する熊野さん。いつも元気で若々しい。
表現できることが増えたのかも
木の温かさに包まれた店内。業務用の空気清浄機を設置するなど、コロナ対策も万全。
創業からの名物「生搾りジュース」。果物のフレッシュな味わいがたまらない。
リニューアルして、変わったことはありますか?
熊野さん
店が広くなって、表現できることが増えました。ギャラリーとして作品を展示したり、映画の試写会をしたり。これまでもやってきたけど、より大きな規模でできるのかなと。音楽や劇に限らず、これからも様々なアーティストの表現の場として、この場所を開放していきたいですね。
再始動したのが3月ということで、コロナの影響も大きかったんじゃないですか?
熊野さん
たしかに再開のタイミングで世の中がえらいことになりました。ただ、不幸中の幸いというか、地下にあった近江町の店と比べてここは天井も高くて、倍以上の広さがあるし。郊外で人の流れも少ないから、感染対策はしやすいんです。
取材当日は書道家の麻田浩氏による竹筆書道展が開催されていた。
2階は音響設備が充実したライブハウス。音楽や劇など、お客さん同士がソーシャルディスタンスを保ちながら観賞できる。
自粛期間中はなにをされてたんですか?
熊野さん
とある劇団員の方たちと協力して、店の外に野外劇用の階段を作りました。
階段ですか!
熊野さん
今年は音楽や劇などのライブがほとんどできなかったけど、決してマイナスなことだけではなかった。コロナ禍でなければ、こんな大掛かりなことできませんでしたからね。これからもコロナと上手く付き合いながら、この状況を前向きに捉えていきたいです。
マスターの手作りで築かれた野外劇用の階段。表現や芸術にかける思いが伝わってくる。
階段の下で熊野さんのお友達を発見。名前はシャム田にゃんさん。クール系女子だそう。
2歳児の感情が込められた7文字
そういえば「メロメロポッチ」ってどういう意味なんですか?
熊野さん
よく聞かれるやつですね!メロメロは人の感情をあらわす極大、ポッチはこれっぽっちのポッチで極少。つまりメロメロポッチの中に人間の感情のすべてが入ってるということなんです。表現の場として大切なことですよね。
なるほどー。深いですね。
熊野さん
ごめんなさい。じつはこれ、後付けで考えました。
えっ!笑
熊野さん
本当は娘が2歳のとき、欲しいものを指差して「メロメロポッチちょーだい」というのが口グセで。それを採用しただけなんです。だから僕も本当の意味はわからないんです。
あやうく騙されそうになりましたよ。
熊野さん
先輩には「そんな名前じゃ長く続かんぞ」なんて言われたりしたけど、なんとかこれで20年以上やってこれました。
昔から変わった店名だと思ってはいたけど、そんな由来があったとは。
これまでメロポチで開催されたライブは数しれず。本サイトでコラムを連載する金沢出身のアーティストkan sano氏も、この店から世界へと羽ばたいた。
「これからの時代ますます機械化が進んで、世の中は便利になっていく。そのなかで人間こそがクリエイティブに面白いものを生み出していかないといけない。そんな挑戦をするアーティストたちを徹底的にサポートしていきたい」と熊野さん。
アーティストの表現の場として、数多くの表現者を紡いできた老舗ライブ喫茶。
メロポチ第2章はまだ始まったばかりだ。
メロメロポッチ
石川県金沢市古府町西113
TEL. 076-266-0775
営業時間/13:00~19:00
定休日/不定休
席数/25席
駐車場/あり
※こちらの情報は取材時点のものです。
(取材・文/吉岡大輔、撮影/林 賢一郎)
おひさしぶりです。調子はどうですか?
熊野さん
どうもどうも。半年も店を閉めていたから不安だったけど、最近ぽつぽつお客さんも増えてきて。これからって感じですね。
じつは近江町とか武蔵あたりに移転するのかなぁと思ってたんですけど、どうしてこの場所を選んだんですか?
熊野さん
ここはもともと「カフェビート」というライブカラオケ喫茶で、マスターとはお互いの店を行き来する仲だったんです。そのマスターが「高齢になったから店をたたむ」ということになって、僕が受け継がせてもらいました。
そうだったんですか。
熊野さん
音響設備も整っているし、ウッディーな雰囲気も前の店と似ている。移転先としてはもってこいだったんですよ。