煩悩バンザイ!石川県がもっと
楽しくなるウェブマガジン「ボンノ」

街に愛された『れもん湯』を次世代につなぐ。3代目夫婦のホットな挑戦

金沢市有松にある『れもん湯』が、最近サウナーの間で密かに注目を集めています。その陰には一昨年に代替わりした番頭夫婦の姿あり。古くから親しまれている街の湯を一体どのようにアップデートしていったのか、話を聞きました。

 

1986年創業の『れもん湯』。店名は創業者(3代目の祖父)が「レモン館」という喫茶店を経営していたことに由来する。

 

こんにちは、ライターのヨシヲカです。みなさん銭湯、キメてますか?

 

寒暖差の激しい今の季節こそ、しっかりキメて体調を整えておきたいですよね。

 

さて、有松にある『れもん湯』といえば、コーヒー色をした天然モール泉でおなじみ。その昔は夜遅くまでやっている銭湯として、働くオトナたちに重宝されていました。今でこそ深夜まで営業するスーパー銭湯は珍しくありませんが、当時は夜遅くまで営業している銭湯はそう多くなかったと記憶します。

 

筆者も学生の頃はよく足を運んでいましたが、なんというかアットホームな雰囲気なんですよね。サンパリオにもよく行ったけど、あっちは鉄火場な雰囲気でピリピリしてましたから。嗚呼、懐かしい。

新型コロナの影響で利用客が激減

『れもん湯』3代目の角慎太郎さんと奥様の恵里さん。2022年に2代目の父・進さんからバトンを受け継いだ。

おはようございます。今日も朝から盛り上がってますね〜。

慎太郎さん

ありがとうございます。うちは年配の常連さんが多くて、とくに朝がにぎやかなんですよ。

恵里さん

代替わりしたタイミングで朝の営業時間を早めたのに、それでも並ばれる方がいらっしゃいます。

じいちゃんばあちゃんって、朝風呂好きですもんね。

慎太郎さん

毎朝の風呂磨きは大変だけど、こうして待っていてくれるお客さんがいるのはうれしいですね。

浴槽の掃除が慎太郎さんの日課。常連客からは「ここはいつもキレイだから気持ち良く風呂に入れるんや」という声も多く聞かれる。

代替わりしてそろそろ2年が経ちますけど、やっぱりコロナ禍は大変でしたか。

慎太郎さん

そうですね。目に見えて利用者が減ったし、経営的にもかなり厳しい状況に追い込まれました。

高齢者の感染リスクも叫ばれていましたもんね。

慎太郎さん

それまで銭湯を支えてくれた年配の常連さんが減ってしまったのが悔しかったですね。

ちょうどその時期に代替わりをしたと思うんですけど、不安とか無かったんですか?

恵里さん

不安しかなかったです(笑)。建物も設備も目に見えて老朽化しているし、それを直すお金もない。常連さんを取り戻すにしても、まずはそっちをなんとかしないといけないなって。

その状況で銭湯を受け継ぐって、かなり勇気いりますよね。

恵里さん

私は正直反対でした。今の時代は昔と違ってどの家庭にもお風呂があるし、実際に銭湯はどんどん潰れていっている。子どもも養っていかないといけないし、リスクが高すぎるって思ったんです。

どうやって説得したんですか?

慎太郎さん

やっぱり昔からの常連さんのことを考えたら簡単にはやめられないなって。コロナ禍の厳しい時期を支えてくれたのも常連さんだし、僕はそういう人たちを大切にしてきた親父の背中を見て育ってきたんで。経営を立て直すまでは大変だけど、付いてきてくれって感じですね。

復活の秘密はサウナにあった?

コロナが第五類になって1年。調子はどうですか?

慎太郎さん

ぼちぼちですね。じわじわと客足も戻って、今年は例年並みの客入り。

恵里さん

いや、それ以上かも。コロナ前よりも増えているんじゃない?

それはすごいですね。なにがあったんですか?

慎太郎さん

サウナに力を入れ始めたのが大きいと思います。

恵里さん

前まではいわゆる昔ながらのサウナだったけど、全国的に人気のあるサウナも参考にしたりして。少しずつアップデートしていきました。

じつは僕の周りのサウナー仲間も「最近、れもん湯のサウナが熱い」と言っていて、気になっていました。

慎太郎さん

ありがとうございます。うちのサウナは文字通り「熱い」ので、高温熱波系のサウナが好きな方には合うかもしれませんね。

何度ですか?僕的には90℃を超えると熱いな〜というイメージなんですけど。

恵里さん

120〜130℃です。

えっ!かなり攻めてますね。パンクな設定だ。

慎太郎さん

サウナの温度に関しては試行錯誤していて、一度試しに120℃にしてみたら思いのほか好評で。

恵里さん

他の施設では味わえないようなサウナにしたかったんです。

 

外気に合わせて温度が変化(13℃19℃)する露天プール。常連客が愛する“ととのい”の場である。

ロウリュもあるんですよね。

慎太郎さん

はい。120℃のサウナ室でロウリュすると一瞬で滝のような汗が噴き出ます。

たまらないっすね。

恵里さん

高温だけど湿度が高いので、思ったよりも辛くないという声が多いですね。

カラカラの状態で120℃もあったら干からびちゃいそう。

恵里さん

そうそう。だから湿度と温度のバランスにはすごくこだわりました。

慎太郎さん

短い時間でブワーッと汗をかいて、水風呂で一気に整えるみたいな。そういった楽しみ方をしている人が多い印象です。

1セットでととのうのはタイパも良くて最高ですね。

恵里さん

ちなみに女性の方は100℃前後。男女では熱さの感じ方も違うので、そのへんはお客さんの意見を聞きながら臨機応変にやっていきたいと思っています。

これだけサウナに力を入れるってことは、もしかして慎太郎さんもサウナーなんですか?

慎太郎さん

じつは「サウナを充実させよう」というのは妻のアイデアなんです。温度管理やロウリュなどもサウナのことはすべて妻がプロデュースしているんですよ。

そうなんですか。

恵里さん

サウナ好きなんです。ただ、サウナ室を新調するのは予算的にも厳しいので、自分たちで壁板を張り替えたり、ロウリュを取り入れたり、ヴィヒタを吊り下げたり、できるだけサウナの本場であるフィンランドの雰囲気を出せるように心がけました。

ヴィヒタってあの葉っぱを束ねたやつですよね。いい匂いするんだよな〜。

恵里さん

白樺の若い枝葉を束ねたものがヴィヒタ。サウナ室にいながら森林浴しているような気分になるんですよね。

ロウリュのアロマはどんなものを使っているんですか?

恵里さん

週替わりで季節感を意識しながら選んでいます。一番人気はオーガニックの能登紫蘇を蒸留したアロマ。すごくいい香りがするんです。

慎太郎さん

とくに女性は乾燥したサウナが苦手な人が多いので、ロウリュを取り入れたのは正解でしたね。

植物由来のモール泉で肌ツルツル!

サウナ以外にこだわっていることはありますか?

慎太郎さん

やっぱり『れもん湯』の原点でもある泉質ですね。地下800mから湧き出た、どこよりも真っ黒なモール泉。このお湯には思い入れもあるし、もっともっとアピールしていきたい。

モール泉ってどんな特徴があるんですか?

慎太郎さん

モール泉というのは地下に堆積している植物の層を通って湧き出てくる温泉のことで、植物由来の保湿成分や有機物を豊富に含んでいます。

恵里さん

お肌にも優しくて美人の湯とも言われているんですよ。

それは女性にとってうれしい情報ですね。

慎太郎さん

保温力があるので湯冷めもしにくいのもポイントですね。

とろとろで茶褐色のモール泉。温泉として神経痛や腰痛などの体の不調を癒やすだけでなく、肌のターンオーバーを促す効果があるとも言われている。

ちなみに代替わりするにあたって、目標みたいなものはあったんですか?

慎太郎さん

今の常連さんを大切にしながら、若い人たちにも銭湯の魅力を知ってもらって、ずっと通ってもらえるような店を目指していこうと思いました。

大胆な若返りを図るというよりは、これまで築いてきたものに磨きをかけるって感じですかね。

恵里さん

そうですね。あとは金城温泉みたいにサウナで銭湯を盛り上げたいなって。客層こそ違うけど、見習う所は見習いたい。イベントにも招待していただいて、ご夫婦にはいつも可愛がってもらっているんです。

銭湯ファンとしては、ぜひ一緒に盛り上げていって欲しいです。

慎太郎さん

もちろんです。自分たちの店だけじゃなく、銭湯の文化自体を盛り上げていかないとこの先どんどん銭湯がなくなっていってしまう。そういった意識は常に持っていたいですね。

貸し切りの家族風呂が充実しているのも『れもん湯』ならでは。なんとサウナが付いている部屋もある。

 

決して潤沢な資金があるわけではなく、老朽化する施設を少しずつ手直ししながら、知恵と熱意で『れもん湯』を守り続けている3代目夫婦。慎太郎さんが「年配の常連客を大切にする親父の背中を見て育った」と語っていた姿を見て、一時のサウナブームに絆されることのない信念のようなものを感じました。

 

レモンの果実の花言葉は「熱意」。パンクなサウナの温度に負けない二人の熱い思いが、金沢の銭湯文化を盛り上げてくれることを期待しています。

 

【パートナー募集】一緒におもろい記事、作りませんか?

 

 


 

れもん湯

住所:石川県金沢市有松3-11-6 [地図]
TEL:076-243-0626
営業時間:9:00〜23:00
定休日:月曜日
駐車場:あり
Instagram:@le.mo.nn.1986

 

撮影:林 賢一郎

RECOMMEND ARTICLEおすすめの記事

WHAT’S NEW新着記事