ファクトリーショップに生まれ変わった「benlly’s & job」の新たな挑戦。
普段使いの雑貨から大切な人への贈り物まで、センスあふれる品揃えに定評のある『benlly’s & job』が、最近大幅なリニューアルを果たしました。
新竪町商店街に店を構えて28年。多くの人たちに愛され続ける老舗セレクトショップに何が起こったのか。店主の田中義英さんを訪ねました。
「便利」で「丈夫」なものを作りたい。
心地よく流れるBGMと合わせるように、カタカタと小気味好いミシンの音が鳴り響く店内。リニューアル前と比べると売り場がギュッと縮小された印象。店の奥には工房らしき空間で作業に没頭する田中さんの姿が見えます。
2年越しのリニューアル。少しずつ街に活気が戻ってきたとはいえ、まだちょっと不安な面はありますよね。今のタイミングでリニューアルに踏み切ったのは、なぜですか?
田中さん
僕も今年で60歳。還暦といえば節目の年で、同級生と集まれば「会社を定年退職してこれからどうするか」なんて話にもなります。コロナが終息するまでどれくらい待てばいいかも分からないし、この節目に「本当にやりたかったこと」を始めようと思ったんです。
本当にやりたかったこと、ですか。
田中さん
ものづくりですね。この店を始めるまではデザイン会社のクラフト部門で販売の仕事をしていて、そこで知り合った作家さん達のスタイルや生活に対する憧れがあったんです。
ふむふむ。
田中さん
決して儲かっているようには見えないけど、すごく楽しそうに仕事をしている。それで「自分も作る側の人間になりたい」と思って、当時始めたのがレザークラフトでした。
なぜ、レザークラフトだったんですか?
田中さん
若い世代に使ってもらえる素材で、自分ができるものはなにかと考えて、辿り着いたのが「革」。当時は今ほど一般的ではなかったけど、手縫いの革の作家さんは何人かいて。調べてみると独学でやっている人が多かったんです。これなら今の自分でも始められるかなと。
なるほど〜。
田中さん
それから参考になる本を探したり、道具を探したりしているうちに、HERZ(※)の工房に仕入れで出入りするようになって。会社に勤めながら手縫いの革製品を作るようになりました。「benlly's & job」という名前も、そのときに決めたものなんですよ。
「benlly's & job」って、ブランド名だったんですね。
田中さん
そうそう。「便利で丈夫なものを作っていこう」という言葉遊びなんですが、すべてはここから始まっていて。今になって最初に思い描いていたことを、ようやく実現できた感じです。
※ 1973年、近藤晃理氏によって創業された革鞄工房。
本格的にレザークラフトを始めたときに作った財布。かさばるカード類が一気に収納でき、小銭入れも使いやすいのが特徴。田中さんにとっても愛着のある商品のひとつとなっている。Leather wallet 01 16,500円。
レザークラフトの道には進まずに、セレクトショップを立ち上げたのはなぜですか?
田中さん
それがひょんなきっかけで。当時は滅多に出なかった新竪町の物件に空きが出たんですね。クラフトの仕事も楽しかったけど、学生時代から雑貨が好きで自分の店を開くのが夢だった。こんな機会は二度とないかもと思って、急展開で雑貨屋を始めることになったんです。
そうだったんですね。革製品はそれからも作り続けていたんですか?
田中さん
ミシンを手に入れて小物を作ったりもしたけど、お店がどんどん忙しくなって姉妹店のレジスタンを始めた頃には、自分で何かを作ることがほとんどなくなって。ミシンもガレージの奥に仕舞い込んでしまいました。
あらら…。
田中さん
それから数年経って、あるお客さんに「カメラストラップを作って欲しい」と依頼されたんです。作ってみたら思いのほか評判が良くて。それから手帳カバーも作るようになって、少しずつレザークラフトを再開し始めたというわけです。
そのお客さんグッジョブ!やっぱりベンリーズといえばカメラストラップですよね。街でも見かけるし、僕の周りでも何人か愛用しています。
田中さん
そうでしたか。そういえば数年前に見たことのあるベルトをしている方がいたので尋ねたら、僕の作ったベルトだったことがあって。何十年も前に作ったものを今でも使ってもらえるのは、うれしいものですよね。
クラシカルな雰囲気のレザーストラップ。金具の部分にも工夫を凝らすなど、カメラ好きの田中さんならではのアイデアが詰め込まれている。Leather camera strap 6,380円〜。
使うほど味の出る人気の手帳カバー。正面のペンを抜くことで開閉が可能となる。Pen lock A6diary 11,000円。
とはいっても、これまでもオリジナルの革製品は店頭でも販売していましたよね。今のままではダメだったんですか?
田中さん
セレクトショップの経営って意外とやることが多くて。商品の仕入れや接客はもちろん、経理だったり雑用だったり、なかなか製作時間が取れなかったんです。
ものづくりに集中するためには、シフトチェンジする必要があったということですか。
田中さん
そうですね。なので、今は一部を除いたセレクト雑貨の販売を終了して、オリジナルのレザーアイテムを中心とした取り扱いとなっているんです。
そうだったんですね。
田中さん
その代わりと言ってはなんですが、これからはレザークラフトのワークショップなんかも開催したいなぁと。少しずつですけどね。
田中さんが長年愛用するSEIKOのTE-1。ほとんどの小物はこの足踏みミシン一台で縫っている。
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こだわりがないのがこだわり。
レザークラフトについて「便利で丈夫なもの」以外に、こだわっていることはありますか?
田中さん
う〜ん、こだわりがないのがこだわりかな。強いていうなら必要なもの以外は作らないこと。レザーアイテムも基本的に注文をいただいてからお作りしています。品物のやり取りだけではなく、お客さんとの関係性を構築しながらものづくりをするのが性に合っているんですね。
有りものじゃない革製品って、すごく特別な感じがして好きです。ちなみに田中さんが「これだけはだれにも負けないぞ!」という自慢はありますか?
田中さん
僕には革職人のようなスキルもなければ、作家のような独自性もありません。ただ、これまで様々な商品を選んできた中で自分なりの軸が出来上がって、その軸がものづくりの基準になったというか。雑貨屋を営みながら製作を続けてきたことで、お客さんに近い視点でものづくりが出来ているように思います。
オリジナルの革製品は注文を受けてから作るものがほとんど。色や形など要望に応じて、ひとつひとつ手作業で制作している。
レザーアイテムの傍には田中さんお気に入りのコーヒーグッズも並べられている。
デザインするときはなにを参考にしているんですか?
田中さん
アメリカのポストマンバッグのような道具系のアイテムからインスピレーションを受けることが多いですね。やっぱりずっと雑貨屋をやっていたから、どうしても道具の持つ機能性に惹かれてしまう。それは僕の趣味でもあるんですけど。
それを田中さん独自にカスタムしたり、使いやすくアレンジしたりするわけですね。
田中さん
そうですね。リュックとかも創世記のアウトドアものの資料を集めていて、いつかコットン生地と革でそれを作りたいとか、アイデアのストックはいくつかあったりもするんですよ。
バッグのリングやベルトのバックルなど、欲しい金具が見つからなければ自分で作る主義。
リニューアルして良かったことはありますか?
田中さん
2階にあった工房を1階に移したことで、製作しながら接客できるようになったのは大きいですね。これまでは知り合いが来るたびに階段を上り下りしていたので。
足腰は鍛えられそうですね。
田中さん
ハハハ、だいぶ鍛えられたかもしれませんね。それとお客さんにとっても「ここで作っているもの」というのが一目で分かるのは良いんじゃないかと。今までは「2階の工房で作ってるんですよ」と言っても、あまりピンと来なかったと思うんですよ。
田中さん
それともうひとつ。メンテナンスやリペアに時間を割けるようになったのはうれしいですね。今も2階でイームズの椅子を修理している所なんですけど、今までは依頼されてもなかなか対応できなくて。
修理もするんですか。
田中さん
良いものは長く使って欲しいですからね。ちょっとした手直しで使えるものは、なるべくお手伝いができればと思っています。とくにオリジナルのレザーアイテムについては末長く愛用してもらいたいので、金具交換や破れ補修などご希望に合わせて心をこめてリペアさせていただきます。
なんだか街の電気屋さんみたいですね。
田中さん
そうですね。目指すのはそんな感じなのかもしれません。「ここで買ったものは、いつでも直してもらえる」。そんな”便利”な存在になれたらうれしいですね。
街のセレクトショップからファクトリーショップへと生まれ変わった、新竪町商店街の『benlly’s & job』。皆さんもぜひ一度、足を運んでみてくださいな。
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Benlly’s & job
ベンリーズアンドジョブ
石川県金沢市新竪町3-16
TEL.076-234-5383
営業時間/11:00~19:00
定休日/火曜、水曜日
駐車場/1台(近隣にコインパーキングあり)
※こちらの情報は取材時点のものです。
(取材・文/BONNO編集部、撮影/林 賢一郎)
お久しぶりです。だいぶ雰囲気が変わりましたね。
田中さん
そうですね。なにも知らずに来られた方は、驚くかもしれません。
いつ頃からリニューアルを考えていたんですか?
田中さん
3年前の秋頃。翌年の春を目標にリニューアルの計画を立ててました。
2年前の春というと、新型コロナのパンデミックが宣言された頃ですか。
田中さん
そうですね。それもあって、新竪町商店街の人通りが激減してしまって。さすがにこのタイミングでのリニューアルは不安だということで、一旦リセットしたんです。