プロの靴磨きは何が違う?シューシャイナーの相賀善博さんに依頼してみた。
オシャレは足元からと言うように、靴のメンテナンスは必要最低限のエチケット。とくにビジネスの場においては、足先のキレイさが仕事の評価につながることもあります。
そこで今回は、金沢市を拠点に活動するシューシャイナー(靴磨き職人)の相賀善博さんを直撃。筆者が愛用する靴を磨いてもらいながら、靴磨きの大切さについて聞いてみました。
靴磨き専門店『Symphonik Wolfe』代表の相賀善博さん。
靴磨きって本当に必要なの?
雨が多く、雪も降る北陸地方。だからこそ革靴の定期的なメンテナンスが必要となります。なぜなら雨や雪は、革靴にとって一番の大敵だから。じつは相賀さんが靴磨きをはじめたのも、お気に入りの革靴を雨雪にやられたのがきっかけでした。
実際に靴を磨いてもらおう!
『Symphonik Wolfe』のメニューは「Care」と「Shine」の2種類。相賀さんと相談しながら、選んでいくことになります。
CareとShine。どんな違いがあるんですか?
相賀さん
Careは基本的なメンテナンスとして、汚れ落としと革への栄養補給を行います。色抜けや乾燥が気になる靴、革本来のツヤ感がお好きな方は、こちらを選んでいただくのが良いと思います。
ふむふむ。
相賀さん
Shineはメンテナンスに加えて、ドレスアップいわゆる鏡面磨きを行います。こちらはビジネスでの着用やハレの日の集まりなど、バチっとキマった足元を演出したい方におすすめですね。
う〜ん、どっちにするか迷いますね。
相賀さん
本来このタイプの革靴はワイルドな質感が魅力なので、通常のメンテナンスで十分だと思いますよ。
そうなんですね。それではCareでお願いします!
相賀さん
かしこまりました。
相賀さん
こちらの靴ですね。まずは紐をほどいて、靴をリラックスした状態にしてあげましょう。
なんだかワクワクしますね。
相賀さん
そういっていただけると嬉しいですね。僕自身も、お客様にはできるだけ目の前で靴がキレイになっていく様子を見てもらいたいと思っています。
そうなんですね。
相賀さん
心がけているのは、磨いた靴がキレイになる喜びや驚きを体験してもらうこと。実際のところ北陸ではお金を払って靴磨きをしてもらったことがある人は少ないというのが現状です。その中で、お気に入りの靴を長く履き続けるためにはどれだけのケアが必要なのか。靴磨きの大切さを、実演と対話によって伝えていきたいんです。
これはなにをしてるんですか?
相賀さん
「コバ」と呼ばれるソールと本体のつなぎ目を磨いています。この部分を整えるだけでも、靴が見違えるように美しくなるんですよ。
あっ、映画とかでよく見るやつだ!
相賀さん
ここからが本格的なケアの開始。柔らか目のブラシで埃を払ったら、コットンの布にクリーナーをつけて、汚れを落としていきます。ポイントはやさしく丁寧に。革の表面が荒れてしまうので、決してゴシゴシと擦ってはいけません。
これはなにをしているんですか?
相賀さん
クリームを塗り込んで、革の内部に栄養を補給しています。
指で直接塗るんですね。
相賀さん
そうですね。革の状態を確認するためにも、指で直接塗るのがベストだと考えています。それとクリームを指で温めながら塗ることで、革の内部まで栄養が浸透しやすくなるんですよ。
ブラッシングでクリームを馴染ませ、布で乾拭きした後に完成したのがこちら。
靴磨きをしてもらう前と比べると、見違えるようにキレイになったのが分かります。所要時間は約20分。相賀さん曰く「初めて依頼される方は、説明なども含めて一時間弱ほど見ていただけたら」とのことでした。
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相賀さんは世界的なシューケアブランド「サフィール」を展開するアベル社認定のシューシャイナーとしても知られている。
相賀さんが靴磨き職人になるまで。
相賀さんが『Symphonik Wolfe』を立ち上げたのは4年前。それまで勤めていた会社を退職したことをきっかけに、靴磨き職人としてのキャリアをスタートさせました。
相賀さん
大学卒業後は地元のベンチャー企業で働きながら、その間も趣味として靴磨きを続けていました。靴磨きを職業として捉えるようになったのは、シューシャイナーの手によって鏡面仕上げされた革靴を見たとき。北陸にはまだ靴磨きを専門とするお店がなかったので、思い切ってチャレンジすることに決めたんです。
2020年には靴磨き選手権大会にも出場されてますよね?
相賀さん
そうですね。この界隈ではかなり知名度のある大会で、たくさんの靴好きの方に知ってもらうことができました。同業者ともつながりを持てたのは大きかったですね。
金沢市泉にあるオーダースーツ専門店の「the」。相賀さんは店内にあるバーカウンターの一角で、日々靴を磨いている。
相賀さんが靴磨きをする上で、一番こだわっていることはなんですか?
相賀さん
自分本位の磨きではなく、お客さんが求めている仕上がりに近づけることですね。そのためにどういった完成形をイメージしているか、普段どういったシーンで履いているかなど、できるかぎりのことを聞くようにしています。
なにが気になって靴磨きを依頼するのか、人によって違いますもんね。
相賀さん
そうなんです。同じ靴でも履く人のクセや管理の仕方によって、まったく違ったものになります。その靴の状態を見極めながら、ベストな手入れをするのが僕の役目。自分の形にこだわるのではなく、ひとつひとつの靴と向き合うことが大切なんです。
靴磨きはどれくらいの頻度で行うのが理想ですか?
相賀さん
3足の革靴をローテーションで履く場合、大体1ヶ月位が目安と言われています。
ということは、靴1足を履き続ける場合は10日に1回ですね。
相賀さん
計算上はそうですが、正直あまりおすすめしません。革靴に限らず、靴のタブーは休まず履くこと。人間は一日にコップ1杯分もの量の汗が足裏から出るので、それを乾かす間もなく履き続けると、ずっと靴が半乾きの状態になってしまうんです。
洗濯物を半乾きで着るのは嫌ですもんね。
相賀さん
はい。なので少なくとも3足をローテーションで、それぞれ10回くらい履いたときがメンテナンスの目安となります。それを基準に4足で回すなら1ヶ月半、6足なら2ヶ月といった感じで考えてもらえると良いかと思います。
自宅でできるおすすめの保管方法はありますか?
相賀さん
とくに北陸では湿気対策が重要になります。おすすめはゲタ箱を定期的に換気すること。箱に入れっぱなしの靴も外に出してあげましょう。とにかくジメジメしないように。シューキーパーを入れてあげると、靴の型崩れ防止にもなるのでおすすめですよ。
ちなみにどんな靴でも磨いてもらえるんですか?
相賀さん
革靴であればスウェードでも、エキゾチックと呼ばれるワニやヘビの革で作られたものでも、基本的には対応可能です。もし、自宅のゲタ箱に生き返らせたい靴が眠っていたら、ぜひ一度お持ちになってみてください。
お店では、富山県高岡市の着色所「モメンタムファクトリー・Orii」とコラボしたオリジナルのシューホーンも販売中。
自分が好きで買った靴を大切に履き続ける。翌日、ピカピカになった革靴を履いてみて、改めてその楽しさを実感することができました。
そんな大人の美学をサポートしてくれる相賀さんが、これからどういった形で北陸に靴磨きの文化を根付かせていくのか。今後の展開が楽しみです。
「Symphonik Wolfe」のInstagramをチェックする
Symphonik Wolfe(シンフォニック ウルフ)
住所/石川県金沢市泉1-5-4 ザ・ビルヂング金沢泉1Fオーダースーツサロン”the”内
TEL.080-4256-4841
営業時間/11:00〜19:00
定休日/不定休
駐車場/1台
※こちらの情報は取材時点のものです。
(取材・文/ヨシヲカダイスケ、撮影/林 賢一郎)
相賀さんはいつ頃から靴磨きを始めたんですか?
相賀さん
大学生の時なので10年以上前ですね。当時ヴィンテージで買った一点物のレザーブーツをダメにしてしまって。それから自分の靴をケアする目的で、靴磨きをするようになりました。
それはヘコみますね…。でも、どうしてダメになったんですか?
相賀さん
雨の日も雪の日もガンガン履いていたのに、まったくメンテナンスしてなかったんですよ。
あらら、やっぱり革靴が濡れるのは良くないんですか?
相賀さん
雨に濡れること自体はそれほど問題ないのですが、靴が乾いていく段階で革の油分が蒸発して、乾燥が起きてしまうんです。
乾燥するなら問題ないような…。
相賀さん
革靴がダメになる一番の原因が「乾燥」。革が乾燥するとひび割れを起こして、最悪の場合革が裂けて履けなくなってしまいます。そうならないように、革が元の状態まで近づくようにアプローチするのが靴磨きなんです。
靴磨きって、汚れを落とすためにやるものだと思ってました。
相賀さん
北陸では靴磨きの文化がそこまで浸透していません。例えるなら"車を運転する人がスタッドレスタイヤの存在を知らずに「道路がツルツル滑るから安い車を買っておこう」"という状況。そうではなくて、定期的に靴磨きをすればそれなりに値段のする靴でも長く使えるということを、たくさんの人に知ってもらいたいですね。