国内最大級の輸入昆虫専門店に潜入!クワガタの基本的な育て方を聞いてみた。
1990年代後半から2000年初頭にかけて訪れた昆虫ビッグブーム以来、再び注目を集めている昆虫。そんな中、ここ石川県に全国でも屈指の規模を誇る輸入昆虫専門店があるのはご存知でしょうか?
販売するのはインドネシアで採集された天然のクワガタやカブトムシ。今回はそれらの飼育や管理を行う工房に潜入してきました。
過去最高取引額はなんと○○万円!
やってきたのは津幡町のおやど商店街。かつては能登、加賀、越中の三国を結ぶ、交通の要衝として栄えた宿場町です。その一角でどてーん!と店を構えるのが輸入昆虫専門店の『アリスト』。現在は量販店への卸とネット販売のみとなっていますが、その規模は業界屈指と言われるほどで、昆虫愛好家とくにカブトムシやクワガタムシのブリーダーにとっては知られた存在なのです。
店主の長坂さんが昆虫に興味をもったのは2000年頃。愛知県に暮らしていた頃、近所にクワガタ専門店ができたのをきっかけに「自分もやってみたい!」と、熱帯地域おもにインドネシアに足を運ぶようになったそうです。
外国産クワガタの中でも屈指の人気を誇るマンディブラリスフタマタクワガタ。過去にアリストでは121mmサイズの大物が63万円で取引されたことがあるらしい。
こちらは背中の模様がきれいなラコダールツヤクワガタ。この美しさをいつまでも鑑賞できるよう、購入後すぐに標本にしてしまう愛好家も少なくないそうだ。
長坂さん自身は、昆虫のどんなところに魅力を感じますか?
長坂さん
やっぱり育てる楽しさですね。いわゆるブリーディング。オスとメスを交配させて、自分なりにエサをアレンジしながら幼虫を大きく育てていくんです。カブトムシやクワガタは成虫になってからは大きくなりませんから、幼虫から成虫になるまでの一年ほどが勝負なんですよ。
なんだか奥深い世界ですね。
長坂さん
あとは単純にビジュアルですよね。子供から人気があるのも「見た目がカッコイイ」に尽きると思います。
たしかにクワガタやカブトムシって、メカ的なカッコ良さがありますもんね。ちなみにお店では何種類くらいのクワガタやカブトムシを取り扱っているんですか?
長坂さん
時期にもよるんですけど、一番多いのが春先で50〜60種類ですね。数で言うと10,000ペアくらいかな?
そ、そんなに!
長坂さん
ショップへの卸しのほかにも昆虫イベントのお手伝いなんかもさせてもらっているので、それくらい数がいないと成り立たないんです。
それって全部輸入物なんですよね?
長坂さん
もちろんすべてインドネシアの天然物です。東ジャワに長年付き合いのあるパートナーがいるんですけど、彼が現地のリーダーとなって昆虫ブローカーから質の良い昆虫を集めて、月ごとに私のもとに送ってくれるんです。時期によって変動はあるけど、安定して輸入できるのは彼のおかげですね。
アジア最大級とも称されるコーカサスオオカブト。喧嘩上等の高い闘争心が特徴で、3本角を使って容赦無く相手を投げ飛ばす。
クワガタやカブトムシのほかにも、ハナカマキリやリョックと呼ばれる体長8センチ以上にも及ぶ巨大コオロギを販売している。
今現在、夏休みに子供が捕まえてきたクワガタやカブトムシが家の中にいる、なんて親御さんも多いかと思います。そんな人たちのために、基本的な飼育方法からちょっとした豆知識などを聞いてみました。
プロ直伝!クワガタ&カブトの正しい飼育方法
昆虫飼育に必要な道具を教えてください!
長坂さん
それではひとつずついきましょうか。まずは飼育ケース。ホームセンターに売っているプラスティック製のもので構わないのですが、少し大きめのものを用意すると便利です。逃げ出さないようにしっかり蓋が閉まるものが良いですね。
ふむふむ。
長坂さん
つぎは昆虫マット。一般的にはおがくずが使われます。できれば広葉樹のものを使用してください。
どうしてですか?
長坂さん
クワガタやカブトムシはクヌギなどの広葉樹に集まる性質があるんです。なので本来の環境に近づけるという意味でも、広葉樹のおがくずを使用するのがベストというのが僕の考え方。杉や松などの針葉樹は臭いもキツイですからね。
なるほど。ストレスフリーな環境を整えるのが大事なんですね。
長坂さん
おがくずもただ入れるのではなくて、つねに湿った状態にしてあげると昆虫たちも喜びます。彼らはいつも湿った場所にいますから。高温多湿の熱帯性気候であるインドネシア原産の昆虫ならなおさらですね。
アリストではおがくずの保湿力をアップさせるためココナッツの皮を混ぜているのだそう。
ほかに注意した方が良いことはありますか?
長坂さん
もっとも大切なのは温度管理。クワガタやカブトムシって夏に強いと思われがちだけど、じつは暑さがとても苦手なんですよ。飼育ケースを直射日光の当たる場所に置くとすぐに弱ってしまうので気をつけてください。
たしかによく考えると、森の中の涼しい場所に隠れていますもんね。ちなみにどれくらいの温度が理想なんですか?
長坂さん
これは産地や種類によって変わるので一概には言えないのですが、国産なら20℃から28℃くらい、インドネシア産のものは25℃前後が理想だと言われています。夏場も冬場もエアコンで室温を一定に保つのが理想ですね。
思ったよりもデリケートな生き物なんですね。もし、迎え入れることになったら気をつけないと。
長坂さん
デリケートといえば、クワガタやカブトムシは裏返しになると自分ではなかなか起き上がれず、場合によってはそのまま餓死してしまうこともあるので、そうしたときの補助となるのぼり木も入れておいた方がいいですね。おがくずに木の皮を混ぜ込む人もいるみたいですよ。
昆虫たちのエサとなるゼリー。食べ残しがあっても3日に1回は交換しよう。
半年から一年ほどが寿命のクワガタやカブトムシの命を、いかに次の世代さらに次の世代へとつなげていくか。そんなところに昆虫飼育のロマンがあるとも語ってくれた長坂さん。
昆虫の世界は、想像以上に奥が深そうです。
アリスト
住所:石川県河北郡津幡町清水イ142−1 [地図]
TEL:076-288-6483
営業時間:12:00〜17:00(販売はヤフオク通販のみ)
HP:https://www.aristo-k.jp/
撮影:林 賢一郎
どうしてインドネシアなんですか?
長坂さん
スマトラ島やジャワ島といった島々で形成されるインドネシアは自然が豊かで、生態系も多岐にわたっているため昆虫の種類がとても多いんです。僕もこれまで120〜130回ほど現地を訪れているけど、日本とは比べ物にならないくらいスケールが大きくて、自然の美しさや偉大さにいつも圧倒されています。
いつから昆虫を販売するようになったんですか?
長坂さん
2000年頃ですね。ちょうど外国産のカブトムシやクワガタムシの輸入が解禁になって、世間的にも昆虫の飼育が注目を集めていたんです。
たしかにめちゃくちゃ流行ってましたよね。テレビでもよく見た記憶があります。
長坂さん
そうそう、空前の昆虫ビッグブームなんて言われてね。それでインドネシアに何度か通っているうちに知り合いが増えて、安定して昆虫を輸入できるようになったのが22年前。それから8年前に妻の地元の石川県に移住して、今の場所にお店を開いたんです。
なぜ今は店舗販売をしていないんですか?こんなに立派な建物なのにもったいない気が…。
長坂さん
当初はお客さんに来てもらおうと、飼育専用のコインロッカーや昆虫UFOキャッチャーを用意していたんですけど、人手不足もあって一年ほどでやめてしまったんです。仕入れだったり飼育や管理で忙しくて、僕自身がお店に出れないと意味がないかなと思って。