子どもも大人も大興奮!劇団アンゲルスの“大きな飛び出す絵本劇場”って知ってる?
舞台上に現れたピエロが、仕掛け満載の絵本とともにストーリーを展開していく。読み聞かせでも、紙芝居でもない、ちょっと不思議なモノローグ。独自の世界観で石川県のキッズを魅了する「劇団アンゲルス」の“大きな飛び出す絵本劇場”の秘密に迫ります!
金沢から世界へと地域演劇を発信!
訪れたのは金沢市民芸術村近くにあるスタジオ犀。金沢の劇団アンゲルスが運営する小劇場です。劇団アンゲルスは、舞台演出家の岡井直道氏が主宰する演劇集団。 金沢から世界に通用する演劇人を育てることを目的に、約30年にわたって世界を股にかけた活動を続けています。
こちらは“大きな飛び出す絵本劇場”の発案者である劇団員の西よしおさん。絵本の制作から脚本まですべてを手がけ、上演中は語り手となるピエロのアンディ・パンディに扮し、ときにはコミカルに、ときにはシリアスな演出を加えながら物語を進めていきます。
市内の児童館で開催された公演の様子(提供:劇団アンゲルス)
県内の児童館などを中心に、北は能登から南は加賀まで出張公演を行っている“大きな飛び出す絵本劇場”ですが、昨年秋には石引商店街で開かれた石引ストラット2023でも披露。子どもだけでなく大人たちもその奇想天外なストーリーに引き込まれていました。
大きな飛び出す絵本劇場はなぜ生まれた?
メイクを落としてインタビューに応じる西さん。
※ 三波春夫は、戦後昭和の歌謡界を代表する歌手の一人。元浪曲師としての経歴を活かし、浪曲を題材に自ら創作した歌謡浪曲を得意とした。
飛び出す絵本は、世界中のポップアップアーティストに多大な影響を与える、立体絵本作家のさくらいひろし氏が監修。突然の依頼にも関わらず「石川県の子どもたちのためなら」と快諾してくれたそう。
絵本は西さんが描いているんですよね。もともと絵は得意だったんですか?
西さん
いえいえ、そんなことは無くて。一作目の“やし酒のみ”を制作するときに、初めて人生でまともに絵を描いたくらいです。ただこれが面白くて、イタズラに描いているとどんどん筆が進むんですよ(笑)
絵のタッチも独特です。
西さん
二作目の“オオカミのおはなし”では、自分の描ける絵じゃなくて、自分の限界を超えた絵を描きたいと思って、ゴッホの絵のタッチに挑戦してみました。
えっ、そうなんですか!?
西さん
ゴッホの絵が好きなんです。一本一本の線に生命力が宿っているというか、魂が込められているというか。ただ、そのおかげでめちゃくちゃ時間がかかりましたね。本当にくたびれました。
たしかにゴッホっぽいかも。
脚本というか話の構成はどうやって作っているんですか?
西さん
“オオカミのおはなし”の原作はロシアの民話。まずはそれを和訳して、プロットを書き出す所から始まります。
プロットってなんですか?
西さん
物語の設計図みたいなものですね。そこから30分くらいのお芝居にまとめるために要所となる場面を抜き出して「この場面にはこういう絵が必要かな」といった感じで絵本を作っていきました。
なるほど〜。でも、どうしてロシアの民話を題材にしたんですか?
西さん
二作目を作るにあたって色んな国の児童文学を読み漁ったんですけど、僕の感覚ではメッセージ性が強すぎるというか、どうしても教訓的なものが話の中に混ざるんですよね。感受性が鋭い年頃の子に対して、善悪や道徳を説明するのは必ずしも正解ではない気がして。見方によって色んな考え方ができる、それぞれの受け取り方で芝居の楽しさを共有できる、それを叶えてくれたのがロシアのお話だったんです。
西さんのライフワークとなっているのがピエロ講談。絵本のときとは違った、迫力満点の口上が印象的だった。
劇中ではアンディ・パンディというピエロが語り手となって芝居を進めていくわけですけど、これには何か意味があるんですか?
西さん
劇団アンゲルスの芝居は、顔を白塗りにするのがお決まりなんです。でも、白塗りだと子どもが怖がるのでピエロにしました。ちなみにアンディ・パンディという名前は、ニュージーランドに留学していた時の友達のあだ名です(笑)
上演依頼など「大きな飛び出す絵本劇場」の詳しい情報はこちら!
俳優・西さんをもっと掘り下げてみよう
学生時代は演劇部だったんですか?
西さん
いえ、高校時代はラグビー一筋でバリバリの体育会系でした。ただ、ずっと演劇の道に進みたいとは思っていて、高校卒業後に思い切って劇団俳優座のオーディションを受けてみたんです。そしたらなんと受かってしまって…。
えっ!俳優座って、仲代達矢とか古谷一行も在籍していた超有名な劇団ですよね!?
西さん
そうですね。運良く拾っていただいて、研究所で3年ほど演技の勉強をしました。その後は演出する方に興味が芽生えて、俳優座を辞めて、自分の劇団を立ち上げました。それが24〜25歳くらい。脚本を書いたり演出をしたり、演劇漬けの日々でしたね。
金沢に移住したのはいつ頃ですか?
西さん
2016年です。やっぱり演劇だけじゃ食べていけなくて。家庭もあったので日銭を稼ぐためにレコード会社や自動車工場、納棺師として葬儀所で働いているうちに、金沢に辿り着きました。
どうして劇団アンゲルスに入団しようと思ったんですか?
西さん
俳優座時代の先輩でもある森尾舞さん(※)が、演出家の岡井とつないでくれたんです。とはいっても最初の頃は劇団員としてではなく運営や制作のお手伝いが中心。それから次第に俳優としても活動するようになりました。
※ 森尾舞は、金沢市出身の俳優。紀伊國屋演劇賞個人賞、読売演劇大賞優秀女優賞などの受賞歴あり。
20代の頃にはニュージーランドに留学。オセアニアの演劇文化を2年かけて学んだそう。
俳優としての演劇の魅力って、どんな所にあると思いますか?
西さん
人生の中で「ひと皮剥けた!」って感じるタイミングがあるじゃないですか。僕もサラリーマンの経験があるから分かるんですけど、仕事でそういった成長を感じられるのって、すごい長いスパンでの話だと思うんです。でも演劇をしていると、短いスパンで自分自身のブレイクスルーを感じる瞬間が訪れる。それが演劇の一番の魅力かなと思っています。
最後に今後の展望について教えてください!
西さん
劇団アンゲルスでは、日本の演劇界の一線で活躍する石川県出身のアーティストを招いて、金沢、能登、加賀の3拠点で演劇作品を作るプロジェクトを進めています。アーティストと地元の人たちを繋げることで文化発展につなげるのが最大の目的。石川県を演劇活動の場として選んでもらえるような環境を整えていきたいと思っています。大きな飛び出す絵本劇場に関しては、新作を一本作っている最中。今年はこの作品の上演に力を入れていくので、ぜひ楽しみにしていてください!
※この記事のインタビューは2023年12月に行われたものです。
撮影:林 賢一郎
どうして“大きな飛び出す絵本劇場”を始めようと思ったんですか?
西さん
僕が芝居に興味を持ったのは小学生の時。テレビ番組で浪曲を披露する三波春夫さん(※)を見たのがきっかけでした。子どもながらに役に入り込む三波さんをカッコ良く感じて。そういった経験ができるような、子どもたちが演技と触れ合う場を作りたかったんです。
たしかに子どもの時に観た映画とかドラマとかって、いまだに記憶に残っていますもんね。
西さん
そうそう。演劇に限らずエンタメやアートはその子の人格を形成する要素のひとつ。なので演劇に興味を持ってもらうだけでなく、子どもの頃から演劇と触れることで石川県の文化的な基盤が少しでも底上げされたらと考えているんです。
なるほど。子どもたちの情操教育の場でもあるんですね。
西さん
子どもたちを心豊かに育てるためには、学校教育、家庭教育、地域教育の3つのバランスが大事。海外とくにドイツでは地域教育が盛んで、学校が終わった後に子どもたちは劇場に足を運び、音楽や演劇などと触れ合ったりします。
そう言われると子どもの頃に演劇を観たことってほとんどないかも。狂言とか加賀宝生とか、石川県は昔から伝統芸能が盛んなはずなのに不思議ですね。
そうなんです。そこに演劇のエッセンスを加えたらもっと素敵なまちになるのではないかと思って。その上で子どもたちには、演劇の世界では自分のことをこれだけ自由に表現できる、それがどれだけ楽しいかを伝えていきたいと思っているんです。