クリスチャン・マークレー展|DJ TOSHIKIのオトノイロ #05
“矛盾してるようだけど、私は音について、それがどう聞こえるかということだけでなく、どう見えるかということにも興味があるんだ”
クリスチャン・マークレー インタビューより THE WIRE
70年代末のニューヨークでターンテーブルを使ったパフォーマンスで音の実験を始めてから、実験音楽シーンの重要人物として活躍してきた、クリスチャン・マークレーの個展「トランスレーティング【翻訳する】」へ行ってきました。
冒頭のセリフのとおり、マークレーは「視覚と聴覚の交差」をテーマに、視覚的に音を伝えたり、音を物質化して視覚的に捉えられるような作品を多く発表しています。
自分はアートは好きだけど、特別詳しい人ではないので、正直一見「???」ってなる作品もあるんですが、じっくり時間をかけて観ていくうちにじわじわとハマっていくものばかりでした。
「視覚と聴覚の交差」と言っても言葉だけではなかなか表現しづらいので写真や動画を交えて自分なりに感じたことをお話ししていきたいと思います。
リサイクル工場のためのプロジェクト
リサイクル工場の使い古されたパソコン2台で作業中の別々の映像を組み合わせた作品。何気ない映像なんですが、作業員の動きや投げ捨てられるパソコン、捨てられたパソコンの「コォンッ」という音にだんだんとリズムを感じてくるような不思議な作品。「何枚もの紙にハンコを押しているうちにだんだんリズムが気持ちよくなってきた」みたいな感覚ってありませんか?なんかそれに近い感覚を覚える作品でした。
この個展で印象的だったのが、オノマトペを用いた作品が多くあったこと。オノマトペとは、期待感を「ワクワク」、騒がしいことを「ざわざわ」など、さまざまな状態や動きなどを音で表現した言葉のことですが、まさに「視覚と聴覚の交差」というテーマにはぴったりの表現方法だと思いました。
イラストとオノマトペを組み合わせた作品
中でも最もインパクトがあったのが、大きな部屋の4面の壁がスクリーンになっており、無音のなか様々なオノマトペが映し出される「サラウンド・サウンズ」という作品。それぞれのオノマトペがデザインされており、「SLAM (ピシャリ)」は叩きつけられるように、「POP (ポン)」ははじけるように動きも意味と合うように構成されていました。ずっと無音の中、動く文字だけが壁に映っているだけなのに、それぞれのイマジネーションの中で音を感じることができる作品でした。
サラウンド・サウンズ
その他、様々な映画のシーンを切り取って組み合わせたものを、4つのスクリーンで別々の映像を映し出し1曲として作り上げる「ビデオ・カルテット」や、ろう者のパフォーマーが手話や身体表現で無音の中、音にまつわる文章を翻訳していくサイレントビデオ「ミクスト・レビューズ(ジャパニーズ)」など、クリスチャン・マークレーが考える、「音を見る/イメージを聴く」というコンセプトが様々な手法で表現されていました。
ミクスト・レビューズ(ジャパニーズ)
文字やデザイン、または動きなどで受け手に音を想像させる「視覚から音を伝える」こと、そして音を物質にして表現する「音の視覚化」。音は「聴く」だけではなく、見るもの・感じるものということをこの個展で深く知ることができました。
クリスチャン・マークレー「トランスレーティング【翻訳する】」は2月23日(水・祝)まで東京都現代美術館で開催されているのでお時間ある方は是非。オススメです。