映画で観る、難聴やろう文化|DJ TOSHIKIのオトノイロ #16
今回は、聴覚障害やろう文化をテーマにした映画を紹介したいと思います。
聞こえる方にとっては「聞こえない」ということがどういうことなのか理解することは難しいことだし、学ぶ機会も少ないと思います。でも、身近にいる「聞こえない・聞こえにくい」方が、どういう生活をしているのか?聞こえる方とどのようにコミュニケーションをとっているのか?を知るためには、映画を観るのもひとつの方法だと思います。しかも、作品として面白ければより最高ですよね。
まずは、2022年のアカデミー賞3部門を受賞した作品『コーダ あいのうた』です。(少しネタバレになるかもしれないので、知りたくない方は先に映画を観てくださいね)
映画が好きな方や手話などに興味がある方はすでに観ているかもしれないですが、2022年公開の話題作です。4人家族の中で一人だけ耳が聞こえる主人公ルビーの、家族との関係性や大好きな歌うことへの想いなど、人間味溢れるドラマとなっています。
耳が聞こえない、または聞こえにくい親の元で育つ子供のことをCODA(コーダ)と言いますが、子供の頃から親の通訳代わりをするということはよくあるようです。この映画でもいろんな場面でルビーが通訳をして、ときどき笑える通訳もあるので楽しく観られます。
この映画で自分が印象に残ったシーンがふたつあります。ひとつ目は、合唱サークルの発表会でルビーがソロで歌うシーン。家族3人はルビーの歌声が聞こえないので、上手いのか下手なのかもわかりません。でも周りの観客の表情や感動して涙している人を見て、ルビーの歌声が素晴らしいと知るんです。最近まで、自分の娘が音楽を好きなことも知らなかった家族が、楽しそうに歌っている娘を嬉しそうに見ているシーンがとても印象的です。
ふたつ目は、発表会から帰った後に自宅の外でする、父親フランクとルビーの会話シーン。フランクが今日歌った曲がどういう曲なのかルビーに聞き、歌ってくれと頼みます。フランクは歌声は聞こえないので、ルビーの喉に手をあてて振動を感じようとするんです。「娘の歌声を聴いてみたい、感じたい」というフランクの父親としての気持ちがすごく伝わってくる印象に残るシーンです。
「コーダ あいのうた」は、家族の感動的なヒューマンドラマですが、ユーモアも交えて、CODAとは何か?ということを分かりやすく描いているとても良い映画です。
次に紹介する映画は、ロックバンドのドラマーの主人公が急に聴覚を失うという、映画やドラマでは少し珍しい中途失聴がテーマの作品。2021年公開の『サウンド・オブ・メタル 〜聞こえるということ〜』です。
主人公のルーベンは恋人とふたりでバンドを組み、トレーラーハウスでツアーを回っていましたが、突然聴覚を失います。そして、恋人の勧めもあってろう者の支援コミュニティ施設へ入所し、そこでは手話やろう文化を学んだり、Deafの子供達と交流したり、少しずつろう者のコミュニティに溶け込んでいきます。ですが、以前の自分に戻りたい気持ちも捨てきれず、人工内耳(インプラント)の手術を受け、恋人に会いに行くというストーリーです。
この映画は、アカデミー賞で音響賞を受賞するほど、サウンドにこだわって作られています。主人公の耳が聞こえづらくなっていく様子や、人工内耳の手術を受けた後の聞こえ方などが音で表現されており、聞こえにくいということを疑似体験することが出来るんです。もちろん聞こえ方は人によって違うので、難聴の方が全員同じように聞こえているわけではないと思いますが、とても印象に残る体験になると思うのでぜひ観て欲しいと思います。(ヘッドフォンで観るとよりリアルに感じることができるのでオススメ)
そして、この映画について思ったことが、ドラマなどの映像作品では珍しく人工内耳について触れていること。日本ではほとんど見かけないような気がします。医療や機器が発達してきている今は、人工内耳もひとつの選択肢として考えられるようになってきています。いろんな意見がありますが、人それぞれの考え、状況や環境、聴力も違うので選択肢のひとつとしてあるのは決して悪いことではなく、このように映画などで知られるのは大切なことだと思います。
この映画の「〜聞こえるということ〜」というサブタイトルからも、色々と考えさせられます。
今回紹介したふたつの映画は、どちらも聴覚障害をテーマに描かれていますが、二作品ともストーリーに音楽が深く関わっています。「聴覚障害と音楽」と聞くと不思議に思う方もいるかもしれませんが、歌声や楽器の音やリズムを振動で感じることも出来るし、手話で歌詞を伝えることだって出来ます。「聞こえない・聞こえづらい」方の中にも音楽が好きな人はたくさんいます。
音楽は決して聞こえる人だけのものではなく、聞こえに関係なく誰もが楽しめるもの。
まだ紹介したい映像作品もあるので、次の機会に取り上げたいと思います。
画像引用:Coda コーダ あいのうた 公式サイト