
親子4代で100年つなぐ船上カレー|煩悩を断ぜずして咖喱を得るなり #31
三度の飯より咖喱好き。カレーをこよなく愛するライター吉岡が、煩悩のおもむくままに地元石川のカレーを食べ尽くす!
今から100年前、1920年代の日本はカレーブームに湧いていた。
明治期に入ってきた洋食文化とともにカレー人気が高まり、1923年には日賀志屋(現・エスビー食品)、1926年には浦上商店(現・ハウス食品)など、国産メーカーのカレー粉が次々と登場。高級食だったカレーは、いつしか大衆のものへと変わっていった。
洋食屋のコックだった祖父と父から受け継いだ味
そんな時代に生まれたカレーを受け継ぐ店が、この3月、金沢にオープンした。
その名は『スタンド草間』。
場所は片町の路地裏。土地勘のある人には「宇宙軒食堂の並び」といえば、早いかもしれない。
オーナーの草間さんがカレーの店を開いたのは、父の死がきっかけだった。
「じいちゃんも親父も店をやっていたから、自分もいつかはその味を受け継ぎたいと思っていたんです」
草間さんの祖父は新潟出身の料理人。若い頃は船上コックとしてヨーロッパを回っていた。その後、大阪で洋食屋を開き、カレーやシチュー、串カツなど、当時でいうハイカラな料理を出していたという。
第二次世界大戦の影響で七尾に移り、病院の食堂勤務を経て独立。名前はSTAND草間。七尾市における洋食文化の草分け的な店として、当時の七尾ではひときわ目立つ存在だった。
STAND草間と祖父の喜與さん(提供:草間さん)
その味は草間さんの父の代にも受け継がれていく。串カツ草間。地元で長く愛されてきた洋食店だ。父・哲男さんが亡き後も、母の従子さんが切り盛りしているとのことなので、ぜひ足を運んでみてほしい。
そして新たに誕生した「スタンド草間」では、草間さんの娘であるえみりさんも店に立つ。親子4代にわたって受け継がれるカレーは、全国広しといえどそう多くはないだろう。
営業スタイルはカレースタンドとバーの二刀流。
週末(金土日)は昼から深夜まで通し営業。昼飲みもできるし、夜遅くにカレーだけ食べることもできる。平日(火水木)は夕方から。150から300まで、50グラム刻みでライスの量が選べるので、飲みの前にも後にも使いやすい。
それではさっそく注文してみよう。ライスは200グラムで。
シンプルだけど奥深さを感じる味わい
くさまカレー 200g 800円
見た目はシンプル。いわゆる、昔ながらのカレーだ。
まずはひと口。
こ、これは…。やっぱり300グラムにしとけば良かった!
それくらいスルッと入っていく。
それでいてコクはしっかりと感じる。玉ねぎの甘みと深みが出るまで、丁寧にじっくり火を入れているに違いない。
ベースはラード、玉ねぎ、にんにく、生姜、スパイス。奇をてらわない昔ながらの構成だ。
具材は牛肉のみ。引き算の美学で、ルーそのものの旨さで食わせるカレーといえる。スパイスの塩梅もちょうど良く、しっかりとパンチのある味に仕上がっている。
ちなみにこの独特の風味とコクについて草間さんに尋ねてみると、「日本の調味料が入ってます」と一言。結局、最後まで教えてはもらえなかった。祖父と父から受け継いだ大切なレシピ。当然といえば当然だ。
それにしてもこの調味料の味。どこかで感じたことがあるはずなのに、名前が出てこない。分かる人がいたらぜひ教えてほしい。
上が150gで下が200g。
福神漬けは自家製。大根も草間さん自身が育てている。
そもそも玉ねぎをはじめ、店で使う野菜の多くは、無農薬の自家農園で育てたもの。それにより原価が抑えられ、コスパの良さにもつながっている。
CURRY LOVER ALE(単品1,200円)
ペアリングには、“カレー好きのために開発された、カレーが美味しく食べられるクラフトビール”を。
生産者のコメントには、カレーのスパイスに対するビールのモルトの甘みに活路を見出し、ビールの風味と喉ごしの最良な相互関係を追求した一品とある。
たしかにほのかな甘みが、カレーのスパイシーさを引き立てている。今までカレーの相棒はジンと決めていたが、これはこれでアリかもしれない。
ハイカロリーポテサラなどの黒板メニューも気になるが、こちらはまたの機会に。
カレーはあっという間に平らげてしまったが、オーナーとカレー談義に花を咲かせているうちに、すっかり日が暮れてしまった。
日本の食文化にカレーが定着してから一世紀。その時代に生まれた船上カレーの余韻に浸りながら、ほろ酔い気分で夜の繁華街へと繰り出すのであった。
カレーBAR スタンド草間







