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石川音盤探訪 #01|everyday records(堂井裕之)

インターネットによる楽曲配信が主流になった現代の音楽シーン。どんな場所でも気軽に音楽を聴くことができ、だれとでもプレイリストが共有できる。そんな便利な時代だからこそ、ジャケットを目で楽しみ、手に触れて音楽を流す、アナログ盤レコードや音楽CDのモノとしての価値が見直されている。

 

というわけで始まったのが、北陸の小さなレコード店やディスクショップで、店主さんやバイヤーに音楽にまつわるアレコレを聞いてみようというシリーズ企画【石川音楽探訪】。

 

今回訪れたのは『everyday records』。レコード好きなら誰もが知る、金沢市有松のレコードショップである。

 

音楽好きの「日常」が集まるレコード店にしたかった。

 

―『everyday records』がオープンしたのはいつですか?

 

1998年にオープンしました。20代の後半から4年ほど金沢市袋町の「レコードジャングル」で働いていて、それから独立しました。

 

― なぜ、レコード屋をやろうと思ったんですか?

 

中学、高校と吹奏楽部に所属していたり、大学時代にレンタルレコード店でバイトをしていたり、東京で働いていた頃は色んなジャンルのライブを見に行ったり、10代から20代半ばの間にさまざまな音楽に接していくうちに、自分も音楽に関わる仕事がしたいと思うようになりました。レコード屋を自分の仕事として考えるようになったのは、90年代のアナログブームの影響があったのかもしれません。

 

― どんな音楽を聴いていたんですか?

 

ジャンルのことはあまり気にせず色んな音楽を聴いていました。好きなものはもちろん、当時話題になっていたものだったり、ジャケ買いみたいなこともやっていました。当然失敗もたくさんしてます。

 

店主の堂井裕之さん。

 

― 『everyday records』のエブリデイってどういう意味なんですか?

 

「スライ&ザ・ファミリー・ストーン」っていうファンクバンドがあるでしょ?彼らの作品の中に「Everyday People」って楽曲があるんだけど、そこでのエブリデイの意味は”毎日”というよりも”日常”とか”ありふれた”みたいなイメージ。世の中にはたくさんのジャンルの音楽があふれていて、それぞれが好きなジャンルの音楽を日常的に聴いている。店主として自分の嗜好を表現しながら、ジャンルレスなセレクトにすることで色んな人の”日常”が集まったように感じられる店にしたかったんです。

 

― レコードショップの店主として、どんなことを心がけていますか?

 

そんなに多くのタイトルを扱っているわけではないけど、現行のリリースはできるだけ取り扱うようにしています。今の音楽シーンに何が起きていて、どんな音楽が作られているのか。そういうリアルを一端でも伝えたいという気持ちはオープン当初からずっと変わっていません。新譜を取り扱えなくなったらレコード屋をやる意味がないとまで思うほど、新しいものを取り入れることは自分にとって大切なことなんです。

 

現行のCDやレコードも取り扱う。

 

― ずばりレコードの魅力とは?

 

アナログレコードならではの音の質感はもちろん、アートワークやジャケットの手触りや匂いなど、その時代の空気や記憶が色々な角度から伝わってくるところです。手にしていて気持ち良いし、見ていても飽きない。ジャケットの存在は重要ですね。

 

― 最近のトレンドは?

 

ここ最近だとロック系はやはり人気で、今の場所に移転してから買い取りでの入荷も充実しています。あとは現行のジャズ系やワールド・ミュージック。僕自身も好きなアフリカ音楽は新譜も復刻も充実していますね。

 

そんな堂井さんはラウンジなどでDJをすることも多いそう。ということで、今年よくかけた音楽を聞いてみた。

 

堂井さんが選ぶ「今年よくかけた」音楽3選

フィリップ・ベイリー「Love Will Find A Way」

 

アース・ウィンド・アンド・ファイアーのボーカリスト、フィリップ・ベイリーが17年ぶりにリリースしたソロアルバム。70年代のソウルシーンを牽引した重鎮でありながら、現代のソウルミュージックの最前線ともいえるパフォーマンスの高さ。68歳になっても若い世代のジャズミュージシャンと一緒になって新しいものを生み出すバイタリティに感動しました。アメリカの音楽シーンの底力を感じる名盤です。

 

ジョアン・ジルベルト「海の奇蹟」

 

今年7月になくなったブラジルの巨匠、ジョアン・ジルベルトが1981年に発表したアルバム。最近、シネモンドでも「ジョアン・ジルベルトを探して」という映画が公開されていましたね。ジョアン・ジルベルトというと、どこか神秘的な孤高のアーティストといった印象がありますが、当時の若い世代のミュージシャン(といっても十分ビッグネームですが)と作り上げたこのアルバムは、他の作品にはないとてもリラックスした雰囲気があります。

 

萩原健一「Nadja2」

 

正直なところ、俳優さんは自分の世界に浸って歌う人が多いからあまり好きじゃないんです。でも、この作品は違いました。バンド編成なんだけど、日常的な軽いセッションをそのままレコードにしたようなラフな感じが自分には合っています。自分の好きなレゲエやトロピカルの要素が入っているのもポイント。まさかこの歳になってショーケンをこれだけ聴くとは(笑)。

 

 

 

◯次世代に残したい名盤を求めて、北陸の小さなレコード店やディスクショップを巡る【石川音盤探訪】そのほかの記事はこちら

 

 

everyday records
エブリデイ レコード
石川県金沢市有松5-10-27
TEL.076-200-9191
営業時間/12:00~20:30
定休日/火曜日
駐車場/あり
取り扱い/オールジャンル。新譜、中古のレコードとCDを約1万枚。地元アーティストやDJの作品も取り扱っている。
※こちらの情報は取材時のものです。

 

(取材・文/吉岡大輔、撮影/林 賢一郎)

 

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