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キャンプで大活躍!日本最古のアウトドアナイフ「能登マキリ」が渋すぎる

こんにちは、ライターの吉岡です。

 

長かった梅雨も明け、猛暑が続く日々。みなさんいかがお過ごしでしょうか?

 

私の家の近くにあるホームセンターでは、キャンプ用品やBBQグッズが品薄状態。新型コロナウイルスがいまだ猛威を振るう中、3密を避ける休暇の過ごし方としてアウトドアを楽しんでいる人が、結構いるんだなと感じています。

 

そんな人たちにぜひ知って欲しい、メイドイン能登の素晴らしい万能ナイフがあります。

 

 

漁師が愛する海と山の道具

紹介するのは『ふくべ鍛冶』の能登マキリ。能登の漁師さんが愛用する小刀です。

 

なぜ、漁師の道具を?と言いますと、これが現在キャンプや釣りなどアウトドア好きの間でも話題になっていて。なんとあの「BEAMS JAPAN」でも取り扱われているんです。

 

特筆すべきはその使い勝手と切れ味の良さ。

 

腰に下げた鞘(さや)からサッと抜いてバッサリ。釣った魚をさばいたりロープを切ったり、ほかにも庭仕事や山菜採りにいたるまで、海と山に囲まれた能登の暮らしの中で幅広く使われています。

 

能登町宇出津にある『ふくべ鍛冶』。明治41年の創業以来、地域の暮らしと密接した数多くの商品を制作している。

 

実際に手に持ってみて感じたのは、見た目以上に「ずっしりと重みがある」こと。

 

鍛冶屋が丹念に叩き上げた鉄の重みが、手にしっかりと伝わってきます。これなら魚もさばきやすいし、太めの枝でも余裕で切れそう。樫の木が使われた柄も、使うごとに手に馴染む。そんな印象を受けました。

 

鍛え抜かれた業物って、なんでこうも人の心をワクワクさせるのか。佇まいからして渋すぎるし、見ているだけで欲しくなります…。もしこのマキリを手に入れたら、絶対だれかに自慢したくなるはず

 

ちなみに刃に彫られた刻印(孫光)には「孫の代まで切れ味が続くように」という願いが込められているそう。う〜ん、やっぱり渋い。

 

握りからすぐ先が刃になった形が特徴的。アイヌ民族が愛用した短刀をツールに持つことから、日本最古のアウトドアナイフとも呼ばれている。

 

4代目の干場健太朗さんと先代の勝治さん。

 

そんな「能登マキリ」は一体どのようにして作られているのか。製造元である『ふくべ鍛冶』の4代目、干場健太朗さんにお話をうかがいました。

 

日本刀の美しさをもつ究極のマキリ

能登マキリの評判、いかがですか?

干場さん

おかげさまで好評です!これまでマキリを買われるのは漁師さんがほとんどだったんですが、一般の方からの問い合わせが殺到するようになって。正直、驚いてます。

健太朗さんがマキリを作っているんですか?

干場さん

いえ、マキリを作るのは父の役目でして。部分的に手伝うこともありますが、基本的に鍛造、研磨、焼き入れ、研ぎの工程をすべて父が行ってます。

そ、それは大変ですね。

干場さん

マキリの制作にはかなりの集中力が必要だそうで、早朝のだれもいない時間を見計らって黙々と作業していますね。

鉄を鍛える勝治さん。鍛冶職人をしながら土佐や越前、堺などの産地に修行に出向いて、腕を磨いたそう。

完成するのにどれくらい時間がかかるんですか?

干場さん

孫光別作で3ヶ月から半年、孫光作と孫光で2週間から1ヶ月。これでもだいぶ納期は短くなった方なんですよ。

孫光、孫光作、孫光別作の違いとは?

干場さん

素材です。どのマキリも地金と鋼を貼り合わせて作るんですが、孫光であれば鋼は「安来鋼」、地金は「鉄」。孫光作はその地金が「和鉄」に変わります。

左から孫光(8,800円)、孫光作(16,500円)、孫光別作(110,000円)。

和鉄ってなんですか?

干場さん

砂鉄と炭を原料に、日本古来の「たたら製鉄」で作られたものを和鉄といいます。鍛えても脆くなりにくい柔らかさが特徴で、昔から刃物や農具の材料として重宝されてきました。でも、いまは島根県の一部の地域でしか作られていないので、材料を仕入れるのが大変なんです。

どうやって仕入れるんですか?

干場さん

昔は能登でも和鉄は作られていて、今でも蔵や寺などの建具として残っています。なので、そうしたものが解体、処分されるときに譲ってもらったりしています。能登の和鉄は不純物が少なくて錆びにくいんですよ。

家業を継ぐまでは役場の職員だった干場さん。公務員時代の経験を生かし、地域活性にも力を注いでいる。

となると、孫光別作は?

干場さん

孫光別作の場合は、鋼の部分に日本刀にも使われる「玉鋼」を採用しています。この鋼はとても希少で、鍛えることによって強靭になる。それを沸かし付けと呼ばれる伝統的な鍛造法によって、和鉄と結合したものが孫光別作となります。

日本刀かぁ、男のロマンですね。

干場さん

日本刀の美しさや機能性を、暮らしの道具であるマキリに落とし込んだのが孫光別作。刀匠と鍛冶屋の合作であるこの道具を通じて、日本の技術や伝統を体験していただければと思っています。

玉鋼と和鉄の結合によって、軽快な切れ味と研ぎ味の良さを実現した孫光別作。

 

島根県奥出雲町の「たたら製鉄」で生成された玉鋼。これを刀匠が幾度も折り返し鍛錬する。

 

能登の暮らしを支える「野鍛冶」

そんな『ふくべ鍛冶』ですが、じつは普通の鍛冶屋ではありません。普通ではないと言うと語弊がありますが、いわゆる想像している鍛冶屋とは違うんです。

 

『ふくべ鍛冶』が生業とするのは、包丁や農具、漁具、山林刃物といった暮らしの道具を幅広く手がける「野鍛治」。

 

能登の農と漁、そして人々の生活を支えるため、使い手に合わせた道具を作り、長く使ってもらうため修理までしています。

 

「この土地の営みを守り、地域の人たちの〈困った〉を〈良かった〉に変えるのが私たちの役目。刃物を作ることだけが仕事ではないんです」と干場さん。

 

今でこそ数は減りましたが、鉄の道具の悩みならなんでも相談に乗る「野鍛冶」は、その昔から地域に頼りにされる存在だったようです。

 

鍬(くわ)の刃がこれだけ充実しているのは農業が盛んな町ならでは。

 

サザエ開けやカキ開けといった、港町ならではのアイテムも。

 

そして「野鍛冶」の文化を継承する取り組みとして、象徴的なのが鍛冶屋の行商です。

 

過疎化が進む奥能登の集落をワゴンカーで周りながら、刃物の販売や修理を実施。現在は奥能登の各商店と連携し、刃物を近くのお店や施設に預けるだけで修理ができる「かじやの窓口」を提供しています。

 

また、オンライン上では「ポチスパ」という刃物研ぎ宅配サービスも開始し、地域の困ったから、家庭の困ったへと裾野を広げています。

 

初代が馬車で刃物を売り歩いた歴史を受け継ぐ行商(写真提供:ふくべ鍛冶)

 

年間3,500件以上の修理を手がける中で、もっとも多いのが刃物の研ぎ直しだそう。

 

奥能登の農山漁村文化を支えるマキリ。能登の暮らしと野鍛冶の技が凝縮した一生ものの道具を手にして、真のネイチャーを目指してみてはいかがでしょうか。

 

 

ふくべ鍛冶
石川県鳳珠郡能登町字宇出津新23
TEL.0768-62-0785
営業時間/9:00~17:00
定休日/日曜日
駐車場/2台
※こちらの情報は取材時点のものです。

 

(取材・文/吉岡大輔、撮影/林 賢一郎)

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