バリスタに聞く〈自宅でできる〉美味しいコーヒーの淹れ方
自宅のデスクで作業をしながら、今年はコーヒーを飲む時間が増えたと、ふと感じる。
今日はこの店の深煎りを飲んでみよう。明日はあの店の豆を試してみよう。あれこれ考えながら、朝、昼、晩とドリップする。
そんな一年だった。
コロナ禍の外出自粛。あの頃は仕事が激減して将来どうなるか毎日が不安だった。けど、コーヒーと向き合うにはいい機会だった。と、プラス思考で考えてみる。
自家焙煎珈琲店『Chomsky Coffee & Library』
自宅でコーヒーを飲む機会が増えれば、どうすれば美味しく淹れられるかと考えるのは当然のこと。
分からないことはプロに聞くのが一番。ということで、筆者が好きな自家焙煎珈琲店のひとつ『Chomsky Coffee & Library』にお邪魔した。
マスターの林玄太さん。
『Chomsky Coffee & Library(以下、チョムスキー)』は、2017年にオープンした自家焙煎珈琲のお店。
サブカル色の強い学生街〈石引商店街〉にあり、今年秋にはもとあった店舗のビル2階に移転リニューアルした。
マスターの林玄太さんは大阪出身。読書家だけあって知識の引き出しが多く、とにかく会話が面白い。金沢の名店〈チャペック〉で働いた後、独立を果たしている。
それでは早速(チョムスキー流)美味しいコーヒーの淹れ方を聞いてみよう。
① 豆の選び方
コーヒーの味を決めるのは「生豆1:焙煎7:抽出2」という林さん。まずは、良い豆を手に入れること。先入観を抜きにして、本当に自分が美味しいと思えるコーヒーと出会うことが重要となる。
焙煎方式はもちろん、焙煎家の技術によっても大きく変わる豆の味。石川には自家焙煎のお店がいくつもあるので、まずは自分好みのコーヒー豆を探す旅に出かけてみよう。
林さんが愛用する直火式の焙煎器。小さいながらパソコン上で焙煎プロファイルを再現できるので、いつでも新鮮なコーヒー豆を提供できる。
優良な生豆の仕入れ、ハンドピックによる欠点豆の除去、適切な焙煎と抽出。林さんは、そうしたプロセスを経ることで「よいコーヒー」を提供することを心がけている。
本当に美味しいと感じるコーヒー豆と出会ったら、カウンター越しにマスターがどんな道具を使って、どうやって淹れているのかを目で盗んで、真似するのが一番。
その豆を美味しく抽出する方法は、だれよりもマスターが知っているのだから。
② 道具について
ハンドドリップの中でも最も手軽でポピュラーなのがペーパーフィルターを使った淹れ方。チョムスキーでもこの抽出メソッドを採用している。
使用する道具は以下の通り
・ドリップポット
・サーバー
・ドリッパー
・ペーパーフィルター
・メジャースプーン
そのほかお湯の温度を計る温度計、抽出時間を計るタイマーがあると便利。
自家焙煎の名門〈カフェ・バッハ〉が開発した深濾過層のドリッパー。深く刻んだリブと独自の傾斜が、豆から出る炭酸ガスをストレスなく逃がし、スムーズな抽出を実現する。
〈YUKIWA〉のステンレスポットを使用。上級者向けなので、慣れないうちは注ぎ口が細いタイプのポットがおすすめ。
③ お湯の準備
コーヒーを淹れるときのお湯の温度によって、コーヒーの味は変わってくる。
林さん
お湯の温度が高いと苦味や雑味がよく出るし、お湯の温度が低いと雑味が抑えられる代わりに旨味が充分に出なくなります。
ポイントは熱々のお湯で淹れすぎないこと。林さんの基準は82〜83度。ドリップポット用の温度計や温度計付きの電気ケトルも販売されているので、上手に活用したい。
ケトルからドリップポットにお湯を移すと約90度までお湯の温度が下がる。温度計が無い場合はそれを目安にして調整するのもアリだそう。
不純物を除去するため浄水器(ハーレー)を使用。林さん曰く「ミネラルウォーターでもOK」とのこと。ミネラルが多すぎると苦味が強くなるので軟水が理想。
サーバーに抽出した直後のコーヒーの温度は約70度。
それではぬるすぎるため、チョムスキーではコーヒーが最も美味しいと感じる93〜94度まで、温め直して提供している。
④ 抽出の仕方
コーヒーカップ1杯(約140cc)の抽出に対して、ドリッパーに入れる粉の量は13グラムが目安。全体にムラなくお湯を注ぐために、粉の表面を平らに均しておくのがポイントだ。
林さん
僕んとこの豆の挽き具合だと13グラム。ただ、お店によっても違うので、豆を買ったときに「ひとり分で何gが適量か」を聞くと間違いないですね。
紙臭さの少ない漂白済みのペーパーフィルターを使用。紙が濡れることで油分や空気の逃げ道がなくなり、豆がきれいに膨らまなくなるので湯通し(リンス)はしない。
美味しいコーヒーを淹れるために必須なのが蒸らし。
中心から静かにお湯を乗せるように注ぎ、粉全体に均一にお湯を含ませてから、20秒ほどそのままにして蒸らす。
蒸らしはコーヒーの旨味成分を十分に引き出すために必要な工程。このときに豆に含まれるガスを放出することで、コーヒーとお湯がなじみやすくなる。
20秒経ったら、中心に小さな円を描きながら全体にお湯が行き渡るよう意識して、優しく注いでいく。
このとき、水面が3分の1以上の状態を保ちながら、断続的に注ぐのがポイント。トータルでおよそ2分。既定の抽出量に達したら完了となる。
誰しもが憧れる、もこもこ膨らむドリップ。お湯の通り道を作るため、真上から注ぐのがコツ。
サーバーの目盛りを見ながら、一度に注ぐ湯量を調整すると失敗しにくい。
美味しいコーヒーのできあがり。注ぐ前にカップを温めておくのを忘れずに。
実際に林さんに淹れてもらった、グアテマラの中深煎りコーヒーを飲んでみる。
酸味と苦味のバランスが取れたすっきりとした味。やっぱり家で淹れるコーヒーの味とは格段に違う。
この美味しさに少しでも近づけるよう、今日の話を振り返りながら再現してみよう。
Chomsky Coffee & Library
チョムスキー コーヒー アンド ライブラリー
石川県金沢市石引2-7-2 オガビル2F
営業時間/13:00~17:00
定休日/月曜、日曜、祝日
席数/カウンター4席
駐車場/近隣にコインパーキングあり
※こちらの情報は取材時点のものです。
(取材・文/吉岡大輔、撮影/林 賢一郎)
林さん
良い豆といっても「高級」である必要はありません。大切なのは自分好みの味かどうか。酸味のあるすっきり味なのか、苦味のあるビターな味なのか。好みによって、選ぶべき豆も変わります。