子供にウケる、大人もハマる。マアサの紙芝居、はじまるよ〜!
「カンッ、カンッ」
と、打ち鳴らされた拍子木の音を合図に、ひとつの物語が始まっていく。
ネットはもちろんテレビもなかった昭和時代の子どもたちを熱狂させた「紙芝居」ですが、じつはここにきて再注目されているそうです。
奥能登から紡ぐ、ちいさな物語。
やってきたのは輪島市門前町にある総持寺祖院。この日は「輪島市民まつり」の開催日ということもあって、いつもは粛々とした空気が流れる禅の聖地が活気に満ちあふれています。
私たちがこの地を訪れたのは、お祭りの催しとしてオリジナルの紙芝居を上演する予定の紙芝居師のマアサさんと会うため。YouTubeでその活動を知ってからずっと気になっていたのですが、今回ようやく生で観れるチャンス到来!ということで、車で2時間かけてやってきました。
紙芝居は大きく分けて「街頭紙芝居」と「教育紙芝居」との2つに分類されます。マアサさんが披露するのは「教育紙芝居」。おもに道徳教育を目的とした紙芝居で、日本の昔話や世界の童話などが語られます。
海外でも「kamishibai」として認知され、多くの国で教育に取り入れられているそうですよ。
どこからともなく聴こえてくる楽器の音色。もしや!と思って音の鳴る方へと向かうと、遊琴を奏でながら商店街を練り歩くマアサさんを発見。どうやらこれから紙芝居が始まるようです。
子どもから大人まで幅広い世代の人たちが集まる中、オリジナルの紙芝居「くじら」を披露。登場人物ごとに声色を使い分け、感情豊かに物語を読み進めていく。その表現力に驚かされます。
こちらはお囃子を担当する橋口さん。なんと演奏はすべてアドリブ!マアサさんとは旧知の仲であり、お互いをリスペクトし合う関係。その日、その場所に合ったフィーリングで音を合わせるそうです。
【広告】もっと楽しく、もっと気軽に、お店の宣伝・求人してみませんか?
紙芝居師マアサさんインタビュー
世界平和と豊かな暮らしを願って
所変わって、總持寺からほど近くにある海沿いの集落へ。マアサさんの活動拠点である「ハジマリノバショ」にお邪魔しました。
ハジマリノバショでは、マアサさんのアトリエや紙芝居小屋のほかにフリースペースを併設。飲食店などの間借り営業や、アーティストが創作活動できる場として開放しているそうです。
自分はもちろん色んな人にとってなにかが始まる場所にしたい。ハジマリノバショという名前には、そんな思いが込められています。
絵の裏側。物語の台詞がひとつひとつ判子で押されている
見ていて思ったんですけど、マアサさんって表現力が豊かですよね。学生時代は演劇とかしてたんですか?
マアサさん
いえ、全然。最初の頃は赤面しながら棒読み状態でした
えーっ、想像できない
マアサさん
もともと人前に出るのが得意ではなくて。でも慣れていくうちに、抑揚をつけたり、感情を入れたり、工夫するようになって。今はもう紙芝居をしながら子供たちと会話したり、台本にはないようなことも話したりできるようになりました
今日もそんな感じでしたね
マアサさん
見ている子どもたちが楽しければ、すべてを読まなくてもいいと思っているんですよ。嫌なものを無理やり読み聞かせても、どうにもなりませんからね
高かったり低かったり、色んな声を出しながらひとりで何役もこなすのもすごいですよね
マアサさん
ありがとうございます。自分では子供の頃からイガイガな声がコンプレックスだったんですけど、おばあさんとか魔女の声を出すときにそれが生かされてるので、今ではすごく助かってますね
我が子を守るために始めた図書ボランティア
マアサさんはなぜ紙芝居をはじめようと思ったんですか?
マアサさん
もともと長女が通っていた学校で、子どもたちに読み聞かせをしてたんです
なるほど。本好きでしたか
マアサさん
それが、そういうわけでも
えっ?
マアサさん
じつは長女が小学生のとき、ちょっとしたケンカをきっかけに同じ学校の生徒からイジメを受けるようになって。先生には「学校でなんとかしますから」って言われたけど、ずっとヤキモキしながら生活していたんです
ふむふむ
マアサさん
そんな矢先に、学校が子どもたちに本の読み聞かせをする図書ボランティアを募集していることを知って。「私が学校にいる時間だけでも娘が安心して過ごせれば」と思って、すぐに応募したんです
そうでしたか
マアサさん
そのときは娘を守るのに必死で。娘がいじめられていないかを監視しに、週に何回も学校に本を読みに行ってたんですよ
母は強しですね
マアサさん
学校側の配慮もあって、いじめ自体はボランティア活動の間に改善されて、ホッとしました
それは良かったですね!
マアサさん
はい、今ではみなさんと学びの時を過ごせて良かったなぁと思ってます
オリジナルの物語や昔話の復刻版など、その作品は50以上にものぼる。
生徒との交流を深めるうちに、読み聞かせの大切さを学んだというマアサさん。我が子を守ろうと始めた図書ボランティアも、いつしか学校の子どもたちに幸せを届ける目的へと変わっていたそうです。
読み聞かせから紙芝居へと表現の場が変わったのはいつ頃ですか?
マアサさん
能登半島沖地震が起こった後ですね
今から20年ほど前ですか
マアサさん
はい。その頃には娘も小学校を卒業して、図書ボランティアはしていなかったんですけど、当時通っていた図書館の館長さんが「好きな時間でボランティアしてみませんか?」と声をかけてくださって。お話し会や手遊び、絵本の読み聞かせと色々するなかで、なぜか紙芝居をいいねって言ってくれる人が多かったんです
読み聞かせと紙芝居ではやっぱり違うものなんですか?
マアサさん
そうですね。読み聞かせは「抑揚をつけずに読むのがセオリー」らしくて、図書ボランティア時代は先生方に「もっと淡々と読んでほしい」と注意されることもありました。紙芝居はそういった抑揚や調子によって、聞き手の感覚を刺激する演出が大事。私はそういったところで紙芝居が合ってたのかもしれませんね
オリジナルの紙芝居を作るようになったのは?
マアサさん
既製品の紙芝居はもちろん素晴らしいけど、自分の考えとは違う部分もあったりします。それに違和感を覚えるようになってしまったというか。自分なりのメッセージを伝えたいと思い始めたんです。
メッセージはどうやって物語に変換するんですか?
マアサさん
それが自分でも不思議で。まず「こんなことを伝えたい」というのがテーマとしてあると、頭の中に絵が浮かんでくるんです。それを描いていくと絵が語ってくれるというか、どんどんセリフが浮かんできて、そこから具体的な話ができあがっていくんです
シナリオをもとに絵を描くわけではないんですね
マアサさん
そうなんですよ。だから舞台となる場所や登場人物の名前や性格も、紙芝居が出来上がったあと。絵から始まる物語も楽しいもんですよ〜
絵はもともと得意だったんですか?
マアサさん
いえ、最初の頃は頭の中のイメージを絵で表せないジレンマがありました
そうなんですか
マアサさん
自分の思った通りにメッセージを絵で表現できるようになったのは、画家の中西真三さんに絵を習うようになってからですね。先生のアドバイスによって気づくことが多くて、絵を描くことが楽しくなっていったんです。その頃から、文字にこだわったり、音楽をつけたり、自分ならではの見せ方を考えるようになりました
緞帳(どんちょう)は手作り、テーブルも紙芝居が強調されるよう黒塗り。いろいろと試行錯誤しているのが伝わってきますね。それでは最後にマアサさんが考える、紙芝居の魅力とはなんでしょうか?
マアサさん
たくさんの人が同じ空間で物語を共有できることですね。現実の空間に私の作品が広がって、みなさんの共感によって、物語が育まれていく。そんなところに魅力を感じます
たしかに実際に紙芝居を見たときはYouTubeの何倍も感動しました
マアサさん
一方通行ではない会話ができるのもライブの良い所。機会がありましたらぜひ遊びに来てくださいね
マアサさんの今後のスケジュールは以下の通り。どこか懐かしく、幸せで、豊かな気持ちになる紙芝居をぜひ堪能してみてください!
7月30日(土) 石動山 JAZZ TENT(中能登町)
10月2日(日) ハジマリノバショ(輪島市)
10月9日(日) 海のほとり市(志賀町)
10月10日(祝) 海辺の満月ライヴ(珠洲市)
12月17日(土) 輪島市図書館(輪島市)
【ライター募集】一緒にBONNOを盛り上げてくれる方を大募集します!
(取材・文/BONNO編集部、撮影/林 賢一郎)
公演おつかれさまでした。「くじら」おもしろかったです!
マアサさん
ありがとうございます〜
一匹のくじらが、自分を助けてくれた青年が暮らす村に、幸せの雨を降らせるというハッピーなお話でした
マアサさん
子どもたちには「平和」とは「幸せ」とはなにかを、できるだけポジティブに伝えたくて。登場人物が抱える問題をどうやって解決するか、幸せに暮らすためにはどうすればいいのかを、聞き手と一緒に考えられるような紙芝居を目指しているんです
とはいっても、物語って簡単には作れませんよね?たとえば今日実演された「くじら」は、どうやって生まれたんですか?
マアサさん
これは能登の塩を研究している方のお話を聞いたときに「ミネラル(塩)って人間の身体にとって大事なものなんだ〜」って、感心した経験がヒントになっています
結構しっかりとした動機があるんですね
マアサさん
そうなんです。だれの日常にも起こりうる、みんなが共感できることを表現したいと思っていて。なので、物語も普段の何気ない会話の中から生まれることが多いですね
村の生活がコロナ禍の暮らしと似ていたり、能登の海洋深層水らしきものが登場したり、オリジナリティも感じます
マアサさん
教育紙芝居として、まずは自分のメッセージを明確に伝えること。そのなかで今の時代だからこそ表現できること、そのはじまりが能登であることは常に意識するようにしています