図書室のある焼き芋屋さん「ハレオトコ」に通いたくなる理由
軽トラックの後ろに窯を積んで「いしや~きいも~おいも♪」と売り歩く焼き芋の移動販売。冬になると恋しくなる昔ながらの日本の風景でもありますよね。
そんなホカホカの焼き芋を求めて、子どもから大人までが集うお店が金沢に誕生しました。
しかも、焼き芋屋さんの一角には図書室があるとのこと。なんだか気になるお店です。それでは早速行ってみたいと思います!
築60年の中古住宅を改装。設計はかほく市の「稲沢設計室」が手がけた。
金沢市城南の住宅地。細い小道を進むと、木枠の小窓が印象的な愛らしいお店が現れます。
小窓を開けて挨拶すると「寒いので中へどうぞ~」との声が。
この日は朝から雪がちらほら。パステルグリーンのドアを開けて、お邪魔します。
にこやかに迎えてくれたのは金岩宏二さんと山木美恵子さん。御年77歳と63歳になるご夫婦です。
昨年東京から移り住み、この地に店を構えた二人。
金岩さんは出版社で営業部長を務め、定年後もバリバリ働いていたと言います。山木さんも雑誌のライターや書籍の編集に携わっていたとか。
笑顔が素敵な店主夫妻。
「それで図書室、か」と合点がいきましたが、それにしてもなぜ焼き芋屋さん?
温かい焼き芋を頂きながら、ゆっくりとお話しを聞いてみたいと思います。
70代を過ぎて、生まれ故郷へUターン
焼成はオープン前に一度と、客足を見ながら随時行う。
焼き芋(100円~)とハンドドリップコーヒー(500円)。コーヒーは北海道の焙煎所「みちみち種や」の“ひなたぽこり”ブレンド。
自宅でお店をしようと思ったのはなぜですか?
山木さん
私は以前から自宅の一部を開放する「住み開き」というものに興味をもっていました。一軒家を持って、小商いをしながら無理せず生活ができたらいいなと思っていたこともあり、難しい技術が要らずに販売できる焼き芋に目を付けたんです。焼き芋は普段からよく口にしていましたし、身近な存在でもありました。
作り方やサツマイモ農家さんはどうやって調べられたんですか?
金岩さん
ペレットオーブンの操作法や焼き芋の焼き方は、販売元の埼玉県の会社まで出向き講習を受けました。
山木さん
農家さんとの出会いは偶然だったんです。我が家の設計をしてくれた設計事務所の方が、ちょうどサツマイモ農家のベジファーム空風さんが開くお店を手掛けていて、ご紹介いただいたんです。現在は空風さんが内灘でつくっている、紅はるか品種のポッテリーナというさつまいもを使っています。時期によって品種が変化しますので、その違いもお楽しみください。
さつまいもの収穫時期が過ぎた時にはメニューはどうされるんですか?
山木さん
うふふ。それが全然考えていないんですよ(笑)娘が香港にいるんですけど、香港スイーツでもやろうかな、なんてね。ゆっくり考えながら、できそうなことをしたいと思っています。
第二の人生、「住み開き」という選択
壁一面が本棚になった図書室。絵本から雑誌まで様々なジャンルの本が並ぶ。
図書室を併設したのはなぜだったのでしょうか?
金岩さん
自分たちのご紹介がてら、という意味が大きかったんです。自然と書籍は増えてきてしまうので置く場所も必要ですし、それ以前に自分たちが手がけた本や、それ以外でもそれぞれに物語がありますから、お客様に質問を受けた時に語れるものと言えば書籍だな、と。
山木さん
あとは寛げる空間をつくって、お客様と一緒に楽しいことができる場所にしたかったという理由もあります。ちょっとした催し物をしたり、お客様と遊んだりしながら、人の輪が広がっていけばいいなと思って。
左2冊は山木さんが、右1冊は金岩さんが出版に携わった書籍。
お話しを聞いていると、来てくださる方はお客様というよりなんだかお友達みたいですね。
山木さん
そうですね、せっかく「住み開き」という形をとったので、所謂お客様と店員という堅苦しい関係ではなく、情報交換をしたり、時に助け合ったり、そういう人間関係をこの店から作っていけたらいいなと思います。この年齢ですから、今後困ったことが出てくるかもしれません。そういう時に気にかけてもらえたり、自分も気にかけたり。そんなコミュニティの場になれば嬉しいです。
お二人はお話しもとっても上手なので、どんどん人が集まってきそうですね。
山木さん
特に夫は、お友達を作るのが昔からとても上手なんです。
金岩さん
前職では相撲関連の書籍に携わっていたのですが、小学生の天才相撲少年ともお友達になりましたよ。この店をオープンすると伝えたら手紙をくれたんです。 最近は近所のワンちゃんともすっかり仲良くなりました。
金岩さんが運の良い「晴れ男」だから店名を「ハレオトコ」にしたと伺いましたが、晴れ晴れとした明るいお人柄にもぴったりな名前ですね。
金岩さん
そうですか?最近は「晴れ男」パワーもあったりなかったりですけどね~。でもまぁ、こうやって楽しくお話ししながらお友達ができるんなら万々歳かな。
山木さん
二人とも、人の話を聞くのがすごく好きなんですよ。ついつい長話をして時間が過ぎていくんですけど、今はそれが楽しい毎日です。
店内には、今回の移住についてをまとめた写真集も。
小さなお子さんや本好きの方など、幅広い層が集う同店。
図書室の中では、本を読んだり、ご夫婦との会話を楽しんだり、ホクホクの焼き芋をお供にそれぞれの好きな時間を楽しむ姿がありました。
今日も城南の住宅地の路地裏からは、「ハレオトコ」の晴れやかな笑い声が聞こえてきます。
図書室のある焼き芋屋 ハレオトコ
石川県金沢市城南1-3-5
TEL. 076-256-1585
営業時間/10:00~17:00
定休日/月曜、火曜、金曜
席数/6席ほど
駐車場/3台
Instagram@hareotoko_jonan
※こちらの情報は取材時点のものです。
(取材・文/西川李央、撮影/林 賢一郎)
11月にお店をオープンされたとのこと、おめでとうございます。焼き芋屋さんということで、店の前にストーブが置いてありましたね。
金岩さん
木の粉を円柱形に固めた「木質ペレット」を燃料にしているオーブンです。焼成には小さいもので40分、大きいものだと1時間40分くらいかかりますね。でも焼き芋を焼くのはシンプルで難しくはありません。それが私たちには重要でしたから。
焼き芋屋さんをするために金沢に移り住んだというわけではないのですか?
山木さん
焼き芋は元々好きでよく食べていましたが、それが目的というわけではありませんでした。むしろ移り住むということが第一目的だったんです。
ふむふむ。
山木さん
東京では賃貸に住んでいたのですが、これからもずっとこの生活をすることを思うと不安もありましたし、70代になってもフルタイムで働いていた夫を見ていると身体も心配でした。そこで移住を提案したんです。
金岩さん
私は正直、80歳まで仕事を続けるつもりでしたから、驚きましたよ。でも、彼女がそそくさと物件を探して私に見せてくるんです。その中に金沢の物件なんかもあって。私は金沢の生まれでしたから、その土地の名前がなんだか懐かしくなってね。その段階で気持ちはグラグラきてしまっていましたよ。