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金沢サイファー潜入レポ!言葉を紡ぎ、人と繋がる。フリースタイルラップの魅力とは?

夜9時を過ぎたJR金沢駅西広場。仕事帰りのサラリーマンが行き交う中で、屯(たむろ)していた何人かの若者たちが、おもむろに小さな輪を作り始めました。アスファルトへと無造作に置かれたスピーカー、そこから流れるヒップホップのビート、音に乗せて繰り広げられるラップ。そう、彼らがやっていたのは“サイファー”でした。

ルールはただひとつ“即興”であること

(C) Legendary Cyphers sound-off in NYC’s Union Square Park | Ethan Harrison Photography

 

サイファーとは、アメリカのストリートで生まれた文化のひとつ。ヒップホップの世界では公園や広場などに集まったラッパーが円になって、フリースタイルでラップを披露し合うことを言います。唯一のルールは“即興”であること。それ以外は国籍や年齢、性別など関係なく、だれでも平等に参加することができます。

 

一対一で行うバトルとは違って勝敗がないのも特徴。音楽バンドでいうセッションのような感覚で、ラッパーにとってはスキルを磨いたり、知識やテクニックを共有する場となっています。近年では大阪梅田駅を拠点とする「梅田サイファー」を筆頭に、全国各地でサイファーが勃発。日本のあらゆる場所でフリースタイルラップが繰り広げられています。

毎週水曜日、金沢駅西広場で開催中!

 

そんな中で数年前に自然発生的に誕生したのが『金沢サイファー』。コロナ禍で一時は消滅の危機にありましたが、現在は金沢駅西広場にある野外ステージで毎週水曜日に開催されています。

 

 

基本的には8小節ずつ、順繰りにフリースタイルを行っていくのが暗黙のルール。スピーカーやスマホから流れるビートに合わせて、それぞれが思いのままラップを繰り広げていきます。

 

 

その時々の感情や思想を言葉にするのがフリースタイルラップの醍醐味。仕事の悩みをリリカルに表現したかと思えば、私生活を赤裸々にぶっちゃけて相手の笑いを誘うなど、即興であれば何でもありの世界です。

 

 

県内トップクラスの進学校に通う高校生ラッパーも塾帰りに参加するなど、年齢や性別などの垣根を超えた交流もサイファーの魅力。集まったラッパーたちは「普段は接点のない人たちとも心と心で対話ができる所に魅力を感じる」と口を揃えます。

 

 

初心者経験者を問わず、ヒップホップに興味のある人なら誰でも歓迎とのこと。開催予定はTwitter(@kanazawaciper)で告知しているそうなので興味のある人はぜひ。

主催者のラッパー・よだか氏を直撃!

 

金沢を拠点に活動する”よだか氏”がラップを始めたのは3年前。大学中退後、心の中にある誰にも言えないことを伝えようと紙とペンを取り、言葉を綴ったのがきっかけでした。以来、ポエトリーラッパーとして精力的に楽曲制作とライブ活動を行い、昨年夏には1stアルバムとなる「初期微動」をリリース。直近では5月3日に開催される「ののいちカレーFES」への出演も決まっています。

 

昔からヒップホップが好きだったんですか?

よだか

いえ、中高時代はロックが好きでした。大学を辞めた頃に、双子の兄の影響で不可思議ワンダーボーイやMOROHAといった、ポエトリーリーディングと呼ばれるアーティストの曲を聞くようになって。それが当時の僕の心に深く刺さって、自分もこんな風に今の気持ちをラップで伝えられたらと思ったんです。

具体的にどんなことを伝えているんですか?

よだか

僕自身ずっと弱い側の人間として生きてきたので、同じような境遇にある人たちが共感できるというか。前向きな気持ちになれるようなラップを届けたいと思っています。

サイファーにはいつ頃、どんなきっかけで参加しましたか?

よだか

ラップを始めて3ヶ月後の初ライブでダダ滑りしたんです。それが本当に悔しくて。ラップのスキルを磨くためにはどうすれば良いのかと悩んでいた時に、サイファーの存在を知りました。

よだかさんが主催としてサイファーを開くようになったのはいつ頃からですか?

よだか

去年ですね。前任の主催者がサイファーを開かなくなってしまって。今までのように気軽にフリースタイルがしたい、金沢のヒップホップシーンからサイファーが無くなるのは寂しい。そういった思いもあって、金沢のラッパーたちに声をかけたんです。

どうやって声をかけたんですか?

よだか

まずはSNSのアカウントを作って、告知をすることから始めました。地道な作業が続いたけど、少しずつ人が集まるようになって。元いた人たちも合わせると、サイファーと呼べるレベルの人数でフリースタイルができるようになりました。

よだかさんにとってサイファーとはなんですか?

よだか

ラッパーの視点でいえばスキルアップの場ですね。これまでサイファーに参加してきたことで、即興性とライブパフォーマンスが上がった気がします。ここで生まれた言葉を楽曲のリリックに採用することもあるし、自分自身の音楽活動に影響を与えているのは間違いありません。ビートの乗り方とかアプローチの仕方とか、相手からも学ぶことも多いんですよ。

そのほかではどんな部分に魅力を感じますか?

よだか

ビートがあれば初対面の人とでもラップを通して仲良くなれる。これは地元の狭いコミュニティだけではなく、ほかの街のサイファーに参加しても同じことで、エリアとエリアを繋ぐような感覚でフリースタイルラップができるんです。そうやって人と人が音の上で繋がっていくのがサイファーの魅力。普段なら言いにくいことでも、ビートに乗せるとサラッと言えたりもするし、ちょっとしたストレス発散にもなります。

つながりが大事であると。

よだか

僕がサイファーを続ける理由は、フリースタイルラップがしたい人やヒップホップが好きな人が集まる空間そのものに、僕自身が魅力を感じているから。今後はこのコミュニティを下の世代に受け継いで、自然発生的にサイファーが行われるようになればと思っています。

最後に。フリースタイルラップというと、頭の回転が速い、滑舌が良い、語彙力が必要といったイメージがあります。サイファーに参加できるようになるにはどうしたら良いですか?

よだか

だれだって最初は初心者。挑戦する心さえあれば、いつかは思うようにフリースタイルできるはずです。僕自身がそうだったように、ゼロからスキルを磨くつもりで飛び込んでみてください。

アラビア語で「ゼロ(輪)」という意味を持つサイファー。コロナ禍を経て、その輪はこれから少しずつ大きくなっていく気がします。

 

 

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(撮影/林 賢一郎)

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