大野に見参!最強の魔法使い集団がいる“駄菓子屋”に行ってみた
今はお菓子を買うと言えばコンビニやスーパーが主流。昔ながらの駄菓子屋はすっかり見なくなってしまいましたね。駄菓子屋は子どもたちのたまり場だったり、お金のやりくりを学んだりと様々な役割がある場所だったような気がします。
そんな中、昨年夏、金沢市大野に新しく“駄菓子屋”と名の付いた場所ができたのをご存知でしょうか。その名も「まほうのだがしやチロル堂 金澤店」。もちろん駄菓子も売っていますが、大人は飲食店やレンタルスペースとしても利用できるそうです。そして、噂によるとある“仕組み”が店の大きな基盤になっているとか…。早速潜入調査に行ってきました!
駄菓子屋であり古民家カフェ。でも、実は…
こちらが「まほうのだがしやチロル堂 金澤店」。“金澤店”と表記されているだけあって、実は他にも店舗があるのです。
この店の本家は奈良県にあります。2022年、グッドデザイン賞の大賞を受賞した「まほうのだがしやチロル堂」と聞けば、ご存じの方もいるかもしれません。この店は単なるビジュアルが優れているというわけではなく、活動そのものにおいて豊かな発想を持ち、その仕組みに素晴らしいデザイン性があるということで今回の受賞に至ったとか。
まずは、金澤店を例にその仕組みというものを見てみましょう。
駄菓子屋と銘打っているだけあって、この店には多くの子どもたちが集います。小さなお子さんもいれば、18歳の高校生も。100円玉を握りしめた子どもたちは、店の入り口にある「ガチャ」を回します。
カプセルの中には「チロル札」と呼ばれる札が1~3枚入っていて、それが店内での子ども用通貨となるのだそう。
1チロルは100円分の駄菓子と交換できるほか、店内でカレーやおにぎり、フライドポテトなどのメニューを食べることもできます。100円でカレー?!お、お得すぎる…。
つまりガチャで3チロル当たった子は、極端な話100円でカレーを3皿食べられるということ。もちろんチロル札の使い方は子どもたちの自由ですから、3チロルでおにぎりとフライドポテトを食べてさらに駄菓子を買うことだってできるんです!ガチャを回せるのは一日1回ですが、それでもお得感が満載です。
「こどもカレー」は通常の注文だと500円。しかしチロルになると1チロルで購入できる。
さて、大人の私たちは100円でカレー3皿食べられたら商売あがったりや!と思ってしまいますよね。では大人たちはどんな使い方ができるのでしょうか。
基本的に大人はカフェとしての利用が主。他にはレンタルスペースとして貸出もしています。
手毬おむすび定食(990円)。
例えば最近カフェメニューに新しく登場したのが「手毬おむすび定食」。大野で受け継がれてきた発酵文化を元に開発された一品です。無農薬の発酵玄米を使ったおむすびに、大野の醤油や味噌を使った汁物や椀物が付きます。
これ以外にも曜日ごとにメニューの違うランチや自家製スムージー、きまぐれスイーツなどメニューがたくさん。築約100年の、こまちなみ保存協定の認定を受けた広々とした町家でゆったりと過ごすことができますよ。
そして、ここからが「まほう」の出番です。
実は、この大人たちが食べた飲食代やレンタルスペース代、子どもたちと同じガチャが回せる「大人ガチャ」の料金には全て寄付金が含まれていて、子どもたちがこの店で過ごすための費用として充てられているのです。
この「まほうのだがしやチロル堂」は貧困や孤独な環境にある子どもたちを支援するといった目的も内包していながら、支援する対象を「18歳以下の子ども」としか限定しないことで、入店のハードルが下がり、遠慮なく支援を受けることができるのです。
大人にとっては、居心地の良いカフェで食事をしていただけなのに、実は社会貢献をしていた・・・そんな「まほう」がかけられてしまうというのがこの「まほうのだがしやチロル堂」の仕組みなんです。
子どもに挑戦する姿を。魔法使いの正体はオカン集団!
「ヤッテミヨウ」のメンバーは、北川奈津子さん(左上)、矢口樹梨さん(右上)、柴田美咲さん(中)、仁多見明子さん(右下)と当日欠席だった萩尾桃子さんの5名。
「まほうのだがしやチロル堂 金澤店」の運営を行っているのは、5人のママさん集団「ヤッテミヨウ」というチームです。
奈良県のチロル堂をオープン前から見守り、どうしても金沢で同じ活動を行いたいと直談判。その時にはなんと既に現在の建物を押さえた後だったのだといいます。この心意気に根負けした本家にのれん分けを許され、初の2号店開店にこぎつけました。
一番初めに本家の活動に興味を抱いた代表の矢口樹梨さんは、やりたいことを口に出すのが大切、と話します。
「 “こんなことやりたいんだ~”っていろんな場所で話していたからこそ、こうやって賛同して一緒に活動を行ってくれる仲間ができたし、こんなにいい物件にも巡り合えました。根本的に“失敗してもいいからやってみよう”の精神が強いんです。元々大野は“子どもたちを町で見守る”という文化が残っていて、オープン前はわざわざこういう場所を作るまでもないと言われていたんです。でも、今では多くの子どもたちが利用してくれるし、なかには家族や先生に言えない悩みを相談してくれる子もいる。やっぱり作って良かったなって思います」
母親という立場だからこそ行動できる、と話すのは仁多見明子さん。
「自分が母親だからこそ、子どもに自分がやりたいことを思い切りやっている背中を見せたいという想いは強いです。もちろん我が子だけではなく、ここに来る子どもたちに対しても同じ。なんでも挑戦していいんだよ、と子どもに言いながらその分母ちゃんが我慢するから、というスタンスの大人の言葉は絶対子どもに伝わらない。まずは自分たちが挑戦しているところを見て、失敗してもいい、挑戦すればいいんだと感じてくれたらと思います。それ故に、この店も様々なことに挑戦していかなければならないんです」
店に立つ店長の柴田美咲さんと料理長の北川奈津子さんはいつも笑顔を絶やしません。ひっきりなしに訪れる子どもたちに明るく接し、時に相談にのることも。
「私たちって、見た目もちょっと派手でしょ(笑)。子どもたちはそのくらいの方が親しみやすいのかもしれないですね。近すぎない関係性の大人すぎない大人は、親と友達の間くらいの感覚で話せる第三者として子どもにとっては必要な存在なのかもしれません」と矢口さんは言います。
クラウドファンディングの支援者からの願い事が刻まれた星のオブジェ。
まほうのだがしやチロル堂 金澤店
住所:石川県金沢市大野町3-15 [地図]
TEL:076-213-9451
営業時間:11:00〜17:00(夏季は〜16:00)
定休日:木曜、日曜、祝日
駐車場:あり
HP:https://tyroldo-kanazawa.com/
撮影:林 賢一郎