煩悩バンザイ!石川県がもっと
楽しくなるウェブマガジン「ボンノ」

【石川酒蔵探訪】杜氏に聞く、今飲んで欲しい日本酒。福光屋編

金沢屈指のサブカルエリア。個性的なカフェやお店が立ち並ぶ石引に、金沢で最も長い歴史と伝統を誇る酒蔵があります。

 

代表銘柄である〈加賀鳶〉や〈福正宗〉をはじめ、様々な味わいの日本酒を醸造する『福光屋』。すべての酒を米と水だけで醸す純米蔵として、国内だけでなく世界中に日本酒の魅力を発信しています。

 


純米蔵屋上から望む、金沢の街並み。

 

水と米だけで酒を造る日本有数の純米蔵。

『福光屋』の歴史は、江戸後期に越中(現在の富山県)福光町から金沢にやってきた塩屋太助という人物が、寛永2年(1625年)創業の酒蔵を買い取ったことから始まります。

 

代を重ねるごとに着々と石高(日本酒の生産量)を伸ばし、昭和初期には4,200石余りまで増加。その勢いは高度経済成長期以降も衰えず、品質至上主義という理念のもと新しい商品を次々と開発していきます。また、早くから広告宣伝にも取り組み、大学帽がトレードマークのフクちゃんが爆発的な人気を博しました。

 

日英大博覧会の文字が書かれた看板が歴史を物語る。

 

 

純米蔵となったのは2001年。万石単位の酒蔵としては日本初。日本酒の将来を見据え、戦前までの純米造りの歴史を取り戻すため、醸造アルコールを添加しない米と水だけを原料とした酒造りへの挑戦が始まります。

 

現在は、日本酒の醸造技術を生かした事業も展開。「米を醗酵させる会社」として、米醗酵から生まれた自然派化粧品や、糀甘酒、調味料、スイーツといった酒蔵ならではの醗酵食品の開発にも取り組んでいます。

 

酒蔵に併設する直営ショップ。店舗デザインはインテリアデザイナーの植木莞爾氏。

 

純米酒全ブランドのほか、醗酵食品や化粧品など様々な商品を販売している。

 

人と自然が向き合い醸される上質な酒。

『福光屋』の酒造りは自然が主役。清冽な仕込み水と良質な酒米、そして酵母などの微生物によって酒が醸し出されています。

 

「杜氏や蔵人の役割は、自然の原理がうまく働く環境をつくること。醸造というのは本来は自然の営みであり、私たちはその力を最大限に引き出すために、手造りで酒を醸すことにこだわります」

 

そう話すのは杜氏の板谷和彦さん。主役である自然に敬意を払うため、毎朝蔵の屋上にあるお社の前で手を合わせ、良い酒が醸されるのを祈るそうです。

 

杜氏として蔵人たちを束ねる板谷和彦さん。

 

仕込み水は〈百年水〉。霊峰白山に降り注いだ雨や雪が地中の深くに染み込み、ゆっくりと貝殻層を抜け、百年の歳月をかけて蔵まで辿り着いた天然水です。ミネラルをたっぷり含んだやや硬水が、骨格のしっかりした辛口の酒に仕上げます。

 

蔵の地下150mから汲み上げられた恵みの百年水。

 

酒米は〈山田錦〉発祥の地である兵庫県多可郡中町の農家とともに、1960年より土づくりから取り組んでいる契約栽培米。ほかにも長野県木島平で〈金紋錦〉、兵庫県出石で〈フクノハナ〉、富山県福光と石川県白山市で〈五百万石〉などを契約栽培しています。これらの酒米の個性を見極め、仕込みによって使い分けているそうです。

 

蒸した酒米が蔵人の丹念な手入れによって麹となる。

 

〈旭鶴〉や〈万歳〉など、明治時代から複数の銘柄を持っていた『福光屋』。現在の主要銘柄は、酒米の個性と純米造りの技をキレの良い辛口で表現する〈加賀鳶〉や、中汲み囲いの純米大吟醸のみで構成した最高峰ブランド〈瑞秀〉、古くより愛されるハウスブランド〈福正宗〉など13種。時代のニーズや嗜好の多様化に対応しながら、それぞれ日本酒としての個性と可能性が追求されています。

 

酒米や造りの違いによって、様々な味わいが表現されている。

 

それでは数あるラインナップの中から、杜氏の板谷さんおすすめの日本酒を聞いてみましょう。

 

杜氏の板谷和彦さんがおすすめする日本酒と缶つま

加賀鳶 純米吟醸 あらばしり

720ml 1,760円(税抜・写真右から2番目)

 

板谷さんが選んでくれたのは2月中旬にリリースされたばかりの〈加賀鳶 純米吟醸 あらばしり〉。酒を搾るときに最初に出てくる〈あらばしり〉をそのまま瓶詰めした生原酒で、すっきりとした軽やかな吟醸香が楽しめます。口に含んだときに柔らかく広がる米の旨味、さらにその余韻がふわりと切れる後味が特徴です。

 

「あらばしりをはじめとする季節酒は、その年の気候や米の出来がダイレクトに反映されるお酒。毎年味は変わるし、それが醍醐味でもあります」と板谷さん。主要銘柄がコンセプトに忠実な酒造りを目指す一方で、季節酒は新しいことに挑戦できる酒でもあるそう。

 

濃厚な旨味とキレのある味わい。

 

すっきりとしたフルーティな味わいで食中酒にもぴったり。飲み方は10〜15℃の冷酒のほか、グラスに氷を浮かべたロックもおすすめとのこと。

 

気になるペアリングはというと「やっぱり季節のお酒は、旬のものと合わせるのが一番」だそうで。そんな意見を参考に、缶つまを探してみました。

 

石川のご当地缶詰といえばコレ。

 

今の時期の旬が食べられる缶詰ってなんだろう、と考えていたら身近にありました。石川県ではおなじみ〈ふくら屋〉のたらの子缶詰です。巨大な真だらの子を、金沢大野の醤油で甘辛く煮つけた昔懐かしい味。大正時代から変わらないレトロなパッケージもいい感じです。

 

たらの子の旬は2月下旬までといわれているからギリセーフ。金沢の季節の酒と、金沢の季節の缶詰。合わないはずがありません。

 

ふっくらプチプチの食感がたまらない。

 

ちなみに『福光屋』では蔵元の見学も随時受付中。実際の酒造工程を間近に見ながら、蔵の歴史や純米造りのこだわりなどを交えて案内してくれます。日本酒歴の浅い僕にも分かりやすい説明で、酒造りに人がどうやって関わるかを知り、日本酒の奥深さも感じることができました。

 

興味のある方はこちらからどうぞ。

【参考】福光屋の酒蔵見学

 

福光屋

フクミツヤ
石川県金沢市石引2-8-3
TEL.076-223-1117
※こちらの情報は取材時のものです。

 

(取材・文/吉岡大輔、撮影/林 賢一郎)

 

RECOMMEND ARTICLEおすすめの記事

WHAT’S NEW新着記事