YOCO ORGANの0081さんに聞きたい10のこと
インターネットの急速な普及と共に音楽業界のグローバル化が進んでいく一方で、地元を根城にしながら活動を続けるローカルミュージシャンが増えています。クリックひとつで遠い国の音楽をリアルタイムで聴くことができる時代。音楽におけるローカルとグローバルとの境界線は一体どこにあるのでしょうか。
北陸地方を拠点に活動するミュージシャンに、普段の生活や音楽との向き合い方などをインタビューする「HOKURIKU MUSIC」。今回のゲストは、金沢発のオルタナティヴラップグループ『YOCO ORGAN』の0081こと、大谷内真郷(まさと)さんです。
0081とPERUTANIの2MCで構成されるオルタナティヴラップデュオ。日本語ラップ黎明期より活動を開始し、「好きな音楽にもっと自由にラップ乗せたい!」の精神で、これまでDubstepやBreakcoreなど、様々なビートへのアプローチを日本語ラップにて行ってきた。2013年発表の1stアルバム〈SHIBIRERU DAYS〉は、タワーレコード金沢店で初回入荷分が即日完売するなど話題に。アグレッシブかつポップなライブスタイルが好評を博し、りんご音楽祭や舞音楽祭、加賀温泉郷フェスなど、全国のフェスやイベントにも精力的に出演。2017年には2ndアルバム〈Good Bye〉、翌年にはYOCO ORGANなりの”RAVE”を再定義したEP〈MY RAVE MORE〉を配信、サブスクリプションにてリリースしている。
村上隆、ヤバイっす。
(1)0081さんの音楽遍歴を教えてください!
中学時代は洋楽ばっかり聴いているマセガキでした。学校にはそういった仲間が何人かいて、その中のひとりがPERUTANI。ふたりとも生徒会をやってたんですけど、生徒会室に置いてあったラジカセでCDを聴きながら、あーだこーだ言ってました。ラップに興味が芽生えたのもその頃で、となりのクラスの先生が気に入らね〜とか、見様見真似でリリックを書いたりもしてましたね。
当時のアメリカでは、ギャングスタラップやEPMDのような社会的なメッセージを込めたラップが台頭していて、そういったCDの和訳を読むと宗教観とか人種差別などがリアルに描かれているんですよ。しかもそれがヒットチャートに上がってくる。ガキながらにそのシーンをすごくカッコ良く感じて、どんどんラップの魅力にハマっていきました。音楽が聴くものからやるものに変わったのは、高校に入ってから。ターンテーブルとマイクを買って、テープに吹き込むという遊びをPERUTANIたちとやっていました。
会話するたびに「よく考えてるな〜」といつも感心させられる。
(2)影響を受けたアーティストは?
じつは影響を受けたミュージシャンというのはそんなにいなくて、どっちかというと美術家とか芸術家とか、アートの世界から影響を受けることが多かったです。自分にとっての音楽は社会との接点をもつためのツールだとも思っていて、彫刻家や画家、映画監督だったり様々なジャンルのアーティストから、社会に対しての表現の仕方を学んでいます。
たとえば、村上隆さんなんかは超ヒップホップな芸術家だと思っていて。一見ポップな印象があるけど、じつは作品の背景には社会と戦う姿勢やその文脈が隠されているというか。トークショーに参加したときに、考えていることのレベルが凄すぎて衝撃を受けました。
(3)なぜ、金沢を拠点に活動しているんですか?
20代の頃に東京に来ないかと誘われたことがあるんですけど、結局行かなかったんですよね。高校の終わりから20歳くらいまで、KREVAさんとかRHYMESTERとか当時の有名なアーティストの前座は一通りやらせてもらっていたし、なんとなく金沢でもやっていけそうな気がしたんですよ。東京に行ってもしんどくなるだけかなと。
結果的にはその選択は正解だったと思っていて。なにをするにも環境って大事じゃないですか。自分が生まれ育った過ごしやすい環境で、音楽をやること自体がストレスフリー。インターネットを使えば地球の裏側のビートメーカーにもアクセスできる時代ですから、それほど不便さも感じていません。いや、ライブの移動は大変かな…(笑)。
0081さんが愛用するマイク。いわゆるゴッパチ。
じつはこう見えて先生なんです。
(4)YOCO ORGANの音楽はどうやって作られていますか?
トラックはすべて外注。もともとは自分たちで作ったり、地元の仲間にお願いしてたんですけど、2011年にリリースした〈MAGURO DAYS〉で、全く接点のないビートメーカーと一緒に楽曲を制作しました。これがもう楽しくて。英語でやりとりして、UKやUSのやつらにビートを作ってもらったり。ウェブ上に公開されているカッコ良いトラックや面白いアーティストを発掘して、メッセージを送って、そこから一緒に楽曲を作り上げる。僕らはそういったプロセスやコミュニケーションもセットで音楽活動だと捉えています。
リリックはビートとテーマに沿って、PERUTANIとLINEでやりとりしながら詰めていく感じですね。僕はいつもスマホで書いてます。日常生活で頭に浮かんだことを断片的にメモをして、あとでまとめるといった感じかな。だれかがツイッターで面白いことを言ってたり、街で聞こえてくるカップルの会話なんかも取り入れちゃいます。
(5)ライブ中はどんなことを意識していますか?
ライブに求められるのは非日常。エンターテイメントであることを常に意識して、ひたすら0081を演じています。昔はリリックの意味とかを言葉で説明するのは嫌いだったんですけど、コンテクストや文脈を理解することで、お客さんがまた違った楽しみ方ができるのかなと思い始めて。なので、最近はMC中に楽曲の背景なんかを解説したりもします。
2019年11月に沖縄で行われたライブの模様。
(6)0081さんの考える「仕事」と「音楽」とは?
金沢科学技術大学校映像音響学科の講師として、普段は学生たちに音と映像のアレコレを教えています。※じつはBONNOのデザイナーも0081さんの教え子。
教育の仕事は正解というものがないので、そこらへんは音楽とつながる部分はあるのかなと思ってます。ちなみに公私を分けるという意味で、数年前までは仕事と音楽を別物として捉えていたんですけど、学生がライブを観に来てくれるようになってからはもうぐちゃぐちゃで。土曜の夜に学生の前で「いえーい!」とかやって、週明けには朝から真面目な顔で出席を取ってますからね(笑)。なので、そこらへんの棲み分けはあまり意識しなくなりました。結局は僕自身なにができて、だれが喜んでくれて、どう価値が生まれるのかなので、仕事と音楽を分ける必要はないんですよね。
(7)音楽以外で好きなものはありますか?
美味しいものを食べるのが好きですね。とくに甘いものが好きで、PERUTANIと遠征に行ったときは必ずSNSを漁って、美味しいそうなものを探しています。
あとは読書かな。たかだか1,000円ちょっとで自分の知らないことが知れるなんて、超コスパの高いエンタメじゃないですか。最近はAmazonに毒されてレコメンドから引っ張ってくることが多いけど、本屋にも定期的に足を運んで情報収集はしています。最近のブームはテクノロジー系。知識欲をどんどん満たしてくれる、あの感じが好きです。
すごく難しそうだったので内容については聞かなかった。
今年はソロ活動もやってみようかな。
(6)最近の活動について教えてください!
僕たちの生まれた街でもある野々市の公共施設〈1の1 NONOICHI〉の校歌「一から」を制作しました。今まで地元の人たちとガッツリ組んでなにかを作ったことがなかったので、かなり新鮮な気持ちで楽しんでます。しかも、その曲を東京や大阪の友人たちが「YOCO ORGANが生まれた街ってどんなとこよ?」って感じで聴いてくれている。これがヒップホップなんだなと(笑)。リリックを書くにあたっても、子供の頃に遊んだ公園を想像してみたり、今までにない平和な感覚でしたね。ほかにも金沢片町商店街のテーマ曲を作ってるので、楽しみにしといてください!
〈1の1 NONOICHI〉にて、トークセッションの様子。
(9)ずばり!0081さんにとっての音楽とは?
「こうじゃなきゃいけない!」という世の中の決まりにアンチテーゼを唱えるための武器ですね。たとえば僕は40歳になったんですけど、この歳でラップをしているというのは人によっては違和感や偏見があるかもしれない。でも、ヒップホップを単に音楽ジャンルでなく、カルチャーとしてちゃんと理解していれば、そういう考えにはならないと思うんです。AIがリリックを書く時代になっても、生身の人間から生まれる文脈や背景には価値という点では叶わない。それを僕はあえて自分のやってることをカルチャーの一部と呼んで、これからも自分の価値観や育った街、社会的な要素を全部ひっくるめてラップのカッコ良さを体現していきたいと思っています。
(10)最後にこれからの活動について教えてください。
今年はソロ活動にも力を入れたいと思っています。ひとつの曲にふたつの詩があるという特殊な状況。ヒップホップでは当たり前のスタイルだけど、もうちょっとパーソナルな曲を作ってみたいなと。今年中に作品もリリースしたいと思っています。あと映像作品とか他にもいろいろ、やりたいことたくさんなので!
YOCO ORGANのライブ・リリース情報はオフィシャルサイトをチェック!
(取材・文/吉岡大輔、撮影/林 賢一郎)
◯北陸を拠点に活動するミュージシャンにインタビューする【北陸ミュージック】