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建築家、山本 周さんに聞く「金沢街歩きの楽しみ方」

門柱、私有橋、バーティカル屋根。

キャノピーにカーポートにピロティ。

 

なんのことだかわかります?

 

一見聞き覚えのないワードですが、門柱もキャノピーもピロティも、北陸に住む人にとっては、街でよく見かけるなじみのもの。

 

筆者が初めてその存在を知ったのは、せせらぎ通りにある古本屋「オヨヨ書林」で手にしたミニコミ誌『金沢民景』がきっかけ。

 

ページを開くと、毎日の暮らしから編み出された街の風景=「民景」が紹介されていました。

「民景」には、住人の創意工夫や趣味趣向がてんこ盛り。写真に添えられた解説もまた、味わい深いものを感じさせます。

 

こちらがそのミニコミ誌『金沢民景』。門柱にはじまりピロティまで27号が発行されている。ハガキサイズと小ぶりでかわいい。

 

玄関先や庭先で見かけるたぬきの置物を特集している、たぬき号。マニアックな視点だ。

 

『金沢民景』を企画し、ミニコミ誌制作を主催しているのは、建築家の山本 周さん。山本さん的目線で街を歩いてみると、いつもの道も30倍は楽しくなるに違いない!ということで今回「街歩きが楽しくなる視点」について、お聞ききしてきました。

 

山本 周
1985年3月生まれ。新潟県出身。金沢美術工芸大学デザイン科を卒業後、都内の設計事務所に勤務。2015年独立後、金沢市内に移住。設計の仕事の傍ら、金沢市の住民が作り出した風景を収集し本にまとめる活動『金沢民景』を行う。

路上観察は街音(まちおと)から始まった。

高校までを神戸ですごしてきたという山本さん。

金沢へやってきたのは、金沢美術工芸大学への進学がきっかけだったそう。

 

山本:神戸では新興住宅地に住んでいたんです。新興住宅地というと、だいたい80年代に開発された街なので、周りにあるのは80年代のものばかり。金沢にきて思ったのは「色々な年代のものがミックスされている」という感覚でした。大学に入ってからは、よく街を歩くようになりました。はじめの頃は、当時買ったばかりの録音機を持って、ヘッドフォンをしながら街の音を録音していたんです。川の音、鳥のさえずり、車、レジスター、高校生たちの話し声(笑)。街の面白さに気づき始めて、そこから写真を撮るようになったんです。

 

『金沢民景』の企画者、山本 周さん。『金沢民景』の活動をライフワークとしている。

 

大学卒業後は一旦金沢を離れ、東京の建築事務所で働いた山本さん。

独立後を金沢でと考えたとき、頭の片隅で「学生の頃にしていた街の集積活動をもう少しやってみたい」という思いが湧いていたと言います。

 

山本:北陸新幹線が開通する直前、久しぶりに金沢に来たことがあって。好きだった場所に行ってみると、街が随分と変わっていたんです。変わることはしかたのないことなのですが、良いと思っていたものや場所が公園になっていたり、ホテルになったり。以前の良さが誰にも伝えられることなく無くなってしまっている。観光目線のものは残り、それ以外のものが変わっていく。なんとなく悲しいなと思ったんです。古い時代から残るものももちろん良いですが、僕にとっては明治、大正、昭和も歴史あるもの。そこに当時の生活から生まれてきた風景が残されていると思うので、そういったものが何の前置きもなくなくなっていくことへの寂しさがありました。金沢に来たとき「勿体無いな」という感覚があったんです。

 

市内にある路地裏にて。山本さん曰くここは私有橋のメッカ。住宅の脇を流れる用水路に沿って、素材も色使いも各戸それぞれ60もの橋がかかる。

街の景色は、住人が作り出す面白さがある。

山本:それから金沢に通うようになって、気になった街や場所の写真をいっぱい撮っていきました。大学の先生にも相談して、学生さんたちと一緒に写真を撮って集めてもらいました。当時は、撮った写真を見せてもらって「これいいね」とか「面白いね」と鑑賞し合う、褒め合うような活動だったのですが、そのうちにメンバーも変わって、街の写真を撮るのが好きな人の集まりになっていきました。

ある時「なんで面白いと思うんだろう」と話しながら、集まった写真を分類してみたんです。バルコニーでテーマを絞って集めてみると、屋根の上にあるタイプ、壁にくっついてるタイプなど、いろんなパターンのバルコニーがあることに気がついて。そこから住民の方に話を聞いてみたりもしました。話を聞くと、背景にその土地の特徴から自然と生まれてきていることがわかりました。そうなると、どんどんと面白くなってきて。ただ面白いだけじゃなく理由があるとわかったんです。

リトルプレスにして残そう。

― 住民の方に取材をするようになったのは、いつ頃からですか?

 

山本:あるお宅で、一度勇気を出して聞いてみたんです。そしたら、話がめちゃくちゃ面白くて。1時間くらい話ました。最終的には「あんた何してんの?こんなことしてて大丈夫なの?」と心配されてしまう(笑)。聞けた話自体が面白かったので、その内容も入れた本にしようと思いました。取材のエッセンスと写真を織り交ぜながら紹介してみようと。

 

― アポイントなし。ピンポンを押してインタビューするのって、すごい勇気です。

 

山本:今は抵抗感ゼロになりましたが、それでも話を聞ける成功率は半分くらいです。大体は断られます(笑)。

 

― 取材で大事にされていることは?

 

山本:なぜそれができたのか、その人が当たり前と思っていることを詳しく聞きます。「なぜ当たり前と思うのか」ということを知れるのが楽しくて。「いや、当たり前じゃないでしょ」と思うところは結構あります。

カラフルな石や貝殻が大量に埋め込まれた門柱のお宅があるんですけど、カラフルな石を大量に集められるのって謎じゃないですか。話を聞くと、その住人の父親が海で仕事をしていた方で、綺麗な石を拾って帰って来るそうなんです。その拾ってきたものを貼って門柱を作ったということだったのですが、そこに行き着く過程が面白い。手に入るからとか、可愛いからとか、そういう暮らしや趣向がにじみ出ると個性がありますね。

 

1冊1冊手作りのリトルプレス。背はミシンをかけて閉じてあり、どこか温かみを感じさせる。1冊100円で販売中。

 

リトルプレス『金沢民景』は2017年9月に誕生。

1号から5号までは一挙に発行されました。

 

メンバーには現在、大学生や県外在住のクリエイターなど8名が参加。気になる場所を見つけたら「こんなところあったぞ!」とSNSで共有し合っているそう。

 

山本さんが取材に出かける際の三種の神器。アイフォンと本を何冊か持って出る。撮影する際は、愛用のカメラで。

境界は、面白い民景が生まれやすいゾーン。

ピンポンを押す度胸はありませんが、街を歩いていて「あれ、これ面白いぞ」と発見が増える街歩きのポイントはありますか?

 

山本:そうですね。3つあげるとすると。

1)ピンポイントで見てみる。

2)境界を見てみる。

3)変化しているところを見てみる。

 

1つめは、ワンテーマに絞って街を歩いてみること。

例えば、雪吊りをテーマとしたら、その日は雪吊メガネをかけて歩くみたいな感覚です。雪吊りだけを見ていたら、意外とそれ以外のことが見えたりもします。

 

2つめは、道路と住宅の間、家と家の間、川と宅地の間、斜面と平地の間のように、ものとものとがぶつかる境界に注目してみること。

境界や分かれ目って、住民の皆さんがすごく苦労されている空間なんです。家同士、プライバシーは守りたいけれど、完全に閉じてしまうと暗くジメジメしてしまうとか、いろんなせめぎ合いがあったりするので、各家オリジナルの解決方法が生まれていることが多いです。引いた視点で見てみると面白いものが見つかりやすいです。

 

3つめは、一番引いた見方で地図から何かが起こっている場所を探し出す方法です。

例えば、道が放射状に広がっている場所から、急にグリット状になっていたり、局地的に道がぐちゃぐちゃしているところ。地図上で変化を見つけて、実際に周辺を歩いてみる。そういうのも面白いです。

 

13号「バス待合所」の表紙を飾ったバス停にて。よく見ると柱のフロントデザインが鳥居になっている。市内の待合所は、バリエーションに富んでいて見所が深い。

 

なるほど!

街は、そこで生活している人のちょっとしたアイデアの宝庫。視点を少し変えて見てみると、新鮮な発見がありそうです。

 

『金沢民景』本の取扱店舗

○金沢

石引パブリック

ホホホ座金沢

Niguramu

オヨヨ書林 せせらぎ通り店

あうん堂本舗

金沢アートグミ

 

○東京

NADiff a/p/a/r/t

ブックギャラリーポポタム

甘夏書店

Plateau Books

ほか

 

(取材・文/森内幸子、撮影/林 賢一郎)

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