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居酒屋以上、割烹未満。『酒肴 蔦や』を営む若き料理人に迫る

金沢の街って、本当に食文化が豊かなんだなあ。
何を今さらーと言われそうですが、県外出身者である筆者にとっては、金沢で美味しい店に出会うたび(つまりすごく頻繁に)強く感じることでもあるのです。

 

本当に強いサッカーチームがベテラン勢だけではなく若手も上手いように、食の街・金沢も、一流店や老舗だけではなく、若手が営む店のなかに驚くほど旨い店が多く存在します。

 

今回取材した金沢屈指の飲食店街・片町にある『酒肴 蔦や』は、2019年10月にオープンしたばかりのまだ「知る人ぞ知る」お店。旬な食材を使った手の込んだ和食が、居酒屋よりも落ち着いた雰囲気で割烹よりもカジュアルに楽しめると、オープン当初から食通の間で話題となっています。

 

片町の路地裏に佇む『酒肴 蔦や』

 

営むのは、若干28歳の達 巧哉さん(2020年3月)。
若いとはいえ、料理歴は10年を越す経験の持ち主。
七尾に生まれ寿司職人を目指し、金沢の寿司店、七尾の寿司店、銀座の寿司店で研鑽を積み、金沢で夢だった自分の城を構えました。

 

店主の達さん。

 

格式高い銀座の寿司屋で学びながらも、自身の店は「居酒屋以上、割烹未満」といった肩肘張らないカジュアル感。これまで敷居が高かったカウンターメインの和食を、気取りのない日常へと落とし込んでいます。

達さん

江戸前寿司で修行してた時期が長いので、なにかひと手間っていうのが染み込んでるんでしょうね。なんかやらな気が済まん、みたいな。

そんな達さんが手がける和食の数々は、その日仕入れた新鮮な海鮮を使った料理をはじめ、そのときにとれる旬な食材をふんだんに使い、素材にひと手間加えたり、予定調和ではない素材を使ったりと、創意工夫が盛り込まれています。

「ひと手間」に宿るおもてなし心。

 

昆布の旨みがふわっと香り、程よい弾力と粘りが楽しめる鯛の昆布締めに、今が旬の菜の花を合わせていただく「鯛の昆布締め菜の花巻き(800円)」は、まろやかな昆布の旨みと春らしい苦味のコントラストが上品な一品。

 

仕入れ状況によって、鯛が金八やさわらに変わることも。

 

本マグロの幼魚であるメジマグロに山芋のすりおろしを添えた「メジマグロの山かけ(950円〜)」は、コクのある黄身醤油と一緒にいただきます。

 

本マグロに比べて脂が少ないので、さっぱりと食べられる。

 

黄身醤油はつけて食べるもよし、かけて食べるもよし。

 

ジャガイモの代わりに里芋を使った「里芋のポテトサラダ(550円)」は、ねっとりとした濃厚な食感とコクのある味わいが魅力。お酒のアテに最適な一品。

 

ねっとりした里芋とシャキッとした野菜の食感の対比が楽しい。

 

つなぎを使わずれんこんのすりおろしだけで作った加賀れんこんまんじゅうに、優しい味わいのあんかけをかけていただく「加賀れんこんまんじゅうのじゃこあんかけ(750円)」。じゃこの塩気と芽ネギのシャキシャキ感がアクセントに。

 

「加賀れんこんは最高の食材」と達さん。

 

料理も好きだけど人が好き。

 

手間ひまを惜しまない料理の数々に舌鼓を打ちながらお品書きを見ると、一品料理から各種お造り、巻物に肉料理と、合計30種類くらいの品が並んでいる。聞けば、この手間ひまのかかった料理をひとりで考案し、ひとりで作って店内を回しているのだとか。

達さん

和食や寿司屋って仕込みが大事なんすよね。ちゃんと仕込んでおかないとお客さまを待たせたり迷惑かけちゃうので。でもまだまだ満足というとこまでは行けてないです。これからです。

それにしても達さん、話しやすい。じつは取材前、銀座でお寿司を握っていたという経歴に若干ドキドキしていた筆者でしたが、達さんがすごく話しやすくてだんだんと心がほどけていくのを感じました。

達さん

単純なんですよ、僕。寿司握れたらカッコイイなと思って寿司職人になって、銀座に行ったら一流になれるんじゃないかと思って入れてもらって。でもそんなに甘くなかったですね。銀座は毎日大変で、毎日泣いてましたよ。でも可愛がってもらえたっすね。

将来的にはカウンターだけの店がやりたいと話す達さん。

達さん

お客さまと話すのが大好きなんですよ。でも料理に追われて満足に話すことができないし、まだまだですね。基本的に年上のお客さまが多いんですけど、可愛がってもらってますよ。「これめっちゃ旨い」とか「これはあんまりやな」とか。正直な意見が聞けるので本当にありがたいです。

店名の『蔦や』も常連客の案だったとか。

 

20代にして自身の店を持つという料理人としては輝かしい経歴をもつ達さん。しかしながら話してみるとすごく謙虚で人懐っこい。丁寧な料理と確かな技術があるのはもちろん、この笑顔をずっと応援したくなる…そんな魅力と居心地の良さが、今日も常連客に足を運ばせるのでしょう。

 

こんな若手の店がたくさんあると思うと、食の街・金沢のこれからがもっともっと楽しみになってきます。

 

やっぱり良いなあ、金沢。

 

会話が楽しめるカウンター席。

 

2階には貸切にも対応できるテーブル席も。

 

 

酒肴 蔦や
シュコウ ツタヤ
石川県金沢市片町1-5-32
TEL.076-224-0180
営業時間/18:00〜翌2:00(L.O.翌1:30)
定休日/日曜日

 

(取材・文/佐藤江美、撮影/林 賢一郎)

 

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