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重厚な扉の奥で、金沢のご意見番と対面する|かなざわ奥裏さんぽ #02

前回から始まった「かなざわ奥裏さんぽ」、今回も引き続き奥新竪編をお送りします。

 

犀川大通りから本多通りをつなぐ新竪町商店街のメインストリート。そこから奥まったエリアを、本企画では奥渋ならぬ『奥新竪』と呼びます。

 

 

商店街から外れた小道や路地には、実はあんな店やこんな店が隠れているのです。あなたが知っているようで知らない金沢を、今回も少しだけ紐解いていきます。

散歩中、グーグルマップにもない道を発見

 

本日訪問する『アンティーク フェルメール』は、ご存じの方も多いかと思います。元々新竪町商店街のメイン通りに店を構えていて、新竪町商店街が“骨董通り”と呼ばれ続けている一因でもある店でした。

 

 

ブルーのシェードと店内を覗ける大きな窓が印象的な外観は、現在人気ベーカリー「シンタテベイクストア」として生まれ変わり賑わいをみせています。

 

「アンティーク フェルメール」は2020年の冬、元の店舗から徒歩1分の場所に移転しました。同店がオープンしたのは1998年。かれこれ20年以上もこの商店街で店を営んでいたわけですが、そんな近場でなぜ今移転する必要があったのでしょうか。

 

思いを巡らせながら、今日も店に伺う前に少し町のB面を散策してみたいと思います。

 

 

本日の散策路はこちら。

 

お洒落なサンドイッチやデリを楽しめる「MONET sandwichherie artisanal」と2022年にオープンした小鉢いっぱいの定食が話題の「帆白」の間の小道です。

 

歩き出した私をまず迎えてくれたのはこの子でした。

 

 

何かを思い詰めているかのような表情のネコ・・・。夜に見たらちょっと怖そうです。

 

さて、グーグルマップを見つめながら歩いていると、なにやら地図上には表示されない通りを発見しました。

 

 

 

趣ある板張りの壁を抜けていくと、マンホール1つ分程しかない細い道へ。グーグルマップはカメラを取り付けた車で撮影するストリートビューと衛星画像をベースにつくられているそうなので、ここまで細い道まで網羅するのは難しそうですね。どこにつながる道なんでしょう?わくわく!

 

 

古い民家が立ち並んでいます。機能性は一切なさそうなタイルの装飾が、昭和っぽい。

 

 

道を抜けたところに草が生い茂った小さな階段がありました。ここはなんだ?

 

 

あ、これは2019年に閉校した新竪町小学校の裏口のようですね!調べてみると跡地の活用方法はまだ決まっていないようですが、立地と土地の広さを考えてもかなり重要な活用計画になりそうです。いいアイデアがある方、今のうちに市へ提案してみてはどうでしょう。

 

 

さて、引き続き道を進んでいくと、なんだか素敵な外観の建物が見えてきました。え、「れざぁ亭」という看板が立てかけてある!お店なのか?

 

 

よくみると窓越しに“KOKON”の文字。こちらは新竪商店街のオーダーレザーシューズで有名な「KOKON」の裏口のようですね!そうか、裏通りを進んでいたから地理感覚が分からなくなっていましたが結構奥まで歩いてきたみたいです。

 

ということは、この道は結局どこにつながるんだろう?

 

 

ちなみに、旧小学校を囲うブロック塀に気になる文字があったのですが、皆さん読めますか?「〇〇シナイヨウニ」と書かれていますよね。

 

〇〇に入るものはなんでしょう。よくある「立小便」とか、「寄り道」とかかと思っていましたが、記事を書きながらやっと気づきました。

 

 

上リ 下リ シナイヨウニ

 

これは塀を上り下りしていた小学生たちへの注意文だったのでは。この一文だけで、まだやんちゃ坊主たちが走り回っていた頃の情景を妄想してしまいます。路地裏散歩をしていると、こういう何気ないところが妙に気になってしまうんですよね。

 

 

角を曲がると…おっと!この裏道も終盤のようです。

 

チラッと見えるのは自家焙煎珈琲を提供する「Pessoa Coffee Roasters」ですね。ということはこの緑地は商店街の半ばにある三宅雪嶺生家跡の小公園!ここにつながるのか~!

 

ちなみに三宅雪嶺とは日本近代を代表するジャーナリストであり哲学者。故郷を愛し、白山を由来としたペンネームで活動していたという金沢の偉人です。

 

 

さて、今回も楽しい散歩でした。今日の目的のお店から少し遠くなってしまったので、またネコの石像の通りに戻って、まっすぐ道を進みます。

 

変化する町。変わらず店を続けていくために。

 

2020年に新竪商店街から移転オープンした今回の目的地『アンティーク フェルメール』。実はこちらのご主人である塩井増秧さんは、小冊子「そらあるき」の編集長も務めています。

 

同誌は2005年から続く老舗媒体。現在では多数存在するローカルZINEやリトルプレスですが、当時はその先駆的な存在でした。元々は一般のガイドブックとは異なる、少し目線を変えた金沢の町歩きガイドブックとして刊行し、内容をブラッシュアップしながら現在はインタビューなど人を中心とした読み物を掲載しています。

 

言ってしまえば塩井さんは、約20年にも渡り金沢の“まち”を見てきた方なのです。

 

そんな方の店が、なぜ今新竪商店街から入り組んだ通りに移ったのか。そして、町の裏側を歩く本企画を進めていく中で、知っておきたい町の楽しみ方を聞きました。

 

 

ネイビーブラックの大きなドアが重厚感を醸し出す現在の「アンティーク フェルメール」。窓はありますが、覗いても中は玄関部分しか見えません。入る時はインターホンを押し、店主が扉を開けるのを待ちます。

 

店内に入ると、所狭しと並ぶアンティーク品。主に18世紀から19世紀頃のイギリスのアンティークを取扱います。同店のラインナップは家具類などの大物ではなく、グラスやカトラリー、装飾品に小さな絵画といった手のひらサイズのものばかり。年2回現地へ出向き「ロンドンと東京では見かけないもの」をコンセプトに、流行に左右されない心惹かれる品々を持ち帰るのです。

 

 

特に圧巻なのはグラス類のショーケース。一つ一つのグラスの中に緻密な世界が描かれていて、その繊細な世界が棚に無数に並んでいるのです。照明の反射によってキラキラと光を放ち、その美しさに非現実的なものを見ているような感覚になりました。

 

パイプの愛好家でもある塩井さん。長年吸っていると、パイプが自分の身体の一部のようになると語る。

 

こちらが店主の塩井さん。数多くの本を読み、様々な分野の知識を持つ博識さがあります。店舗移転の経緯についてはこう話していました。

 

「自分の店があの通りにあることに違和感を感じ始めたんだよね。店をオープンした当初は、まだ足で骨董を探し回るような時代で、金沢においてはその場所があの通りだった。それが、だんだんスマホで世の中が回る時代になって、あの通りもその流れに沿うように大衆的になったでしょ。大衆向けになるということはいろんなタイプのお客さんが来るんだよ。そうすると商品をぞんざいに扱われたり、勝手に触れられたりすることも多くなって。他の店の人も商品は大切だと思うけど、うちにあるのは博物館にあってもいいようなものとか、もう二度と手に入らない物もたまにあるから。街がネット化したことで商売がやりにくくなったし、ストレスが多い。あの場所にいることが僕には楽しくなくなった、ならば、裏通りに逃げようと」

 

約300年前のシルバー。愛用していくほどに古いシルバーの良さに気づき、どんどん古い年代に移行していく人も多いとか。

 

前述した入店の流れを読むと分かる通り、正直この店の佇まいは物凄く敷居が高いなぁ、と思っていましたが、こういった経緯と意図があったからだったのですね。

 

社会の変化によって自身への負担が増えたものの、塩井さんの口振りからは社会や他者に対する怒りや不満のようなものは感じませんでした。こういった社会になったこと、この流れはもう止められないことは心底理解しているようで、自身がその社会と共存していくしかないと感じているような。

 

移転という選択は変わらずに店を続けていくための術だったのかもしれません。

 

 

“この企画を否定したいわけじゃないんだけど、今や町に奥も裏もないんだよ”。そう話す理由と、この時代に町を楽しむためのコツについて。

 

「ネットによって世界はフラットになったでしょ。検索すれば、怪しい偽サイトも丁寧に情報を載せているサイトも一緒くたになって出てくるわけ。街のマップも同じ。検索すれば細い路地にある店だって探し出す手間なく一発で見つけられるし行けてしまう。人の動きの過多がベースにあって表があり裏がある、けど今はスマホで検索した地図がベースの社会だから、全てが“裸”にされる。

 

僕が今一番有効な情報源として捉えているのは口コミ。ネットの口コミじゃなくて、人伝に聞いたものね。僕の店のお客さんもリアルな口コミで来てくれることが多いし、その価値は今後もどんどん上がってくると思う。自分が信頼してる人のダイレクトの情報ほど貴重なものはないでしょ。街を楽しむコツかぁ…街に対する嗅覚を磨いておくことじゃないかな、歩いててたまたま見つけた店の前で立ち止まり、その“匂い”を嗅ぎ分ける。店も人もそのフェイスには色んな情報が見えている。それを上手に紐解いていく。単なるネット情報だけに振り回されず、自分の嗅覚を信じて好きな人と自分が良いと思う店にだけ行く。今の時代色々義理人情もあったりして行かなくてもいいとこ行ったりで、純粋に楽しむことって少なくないかな?関係性をつないでおくための義理で動くんじゃなくてさ。金沢の人、そういう人多いから。それとね、無駄をすること、知らない通りをダラダラ歩くとか、脇道に逸れるとか。無駄は大切、人生楽しもうと思ったら無駄しなきゃ」

 

 

時にピリリなコメントを口にしながらも、分かりやすく丁寧な表現で想いを伝えてくれる塩井さん。そんな店主を慕って、店には年代問わず熱心なファンが訪れます。若いから、年齢を重ねているから、などと色眼鏡で見ず、その人自身と向き合ってじっくりと話しをする。アンティークについてはもちろん、金沢の町について、本やアートについて……。このような教養深い店主のいる店がこの町にあることは、価値あることだと私は思います。

 

ちなみに、コロナ禍にクラファンで資金を集め臨時号を発行した「そらあるき」ですが、今後はウェブに移行する動きがあるそうです。塩井さんが取り扱うウェブ媒体、どんなものになるのか楽しみですね。

 


 

アンティークフェルメール

住所:石川県金沢市鱗町82-12 [地図]
TEL:076-224-0765
営業時間:12:00〜19:00
定休日:水曜日(その他仕入れ時期は休み。HPにて要確認)
駐車場:無し
HP:https://www.antiquevermeer.info/

 

撮影:林 賢一郎、西川李央

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