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珈琲の香りに誘われて歩く、住宅街の隙間|かなざわ奥裏さんぽ #01

1時間かけて小学校へ通った子ども時代。歩きながら街中のヘンテコなものや面白いものを探すのが昔から大好きだったライター西川が、「あの街」の“奥”や“裏”のエリアをピックアップ。車社会の金沢をゆるっと歩きます。

 

骨董通りとも呼ばれ、古モノやニッチなショップが立ち並ぶ新竪町商店街ですが、最近そのメインストリートから奥まった地域や路地裏にも光るお店が増えてきていますよね。

 

かなざわ奥裏さんぽの第1弾は、そんな新竪町商店街から奥まったエリアを奥渋ならぬ『奥新竪』と題し、数回に分けてお送りしたい思います。

 

 

 

住所でいうと、水溜町、杉浦町、幸町、鱗町あたりが該当するのでしょうか。まぁでも、あなたが「新竪のメイン通りから奥まっているな」と感じたら、それはもう奥新竪。ゆるっとしているのもこのコラムのご愛敬ということで。

目的地へ行く前に、まずは奥新竪をぶらり

今日は、2022年にオープンした気になるコーヒーショップを目指して歩きます。商店街を突っ切ったその先にあるとのことなので、まずはメイン通りのおしりへ。

 

 

通りというものは基本的に人が行き交うものなので、どこが始まりとか終わりとかがないと思うのですが、新竪町商店街に至っては犀川大通り側にのみ大きな看板があるので、こちらが最後部と言ってもいいと個人的には思います。

 

あ、そういえばここら辺と言えば・・・この電柱広告。

 

 

新竪町をよく歩く方はご存じかもしれません。こちら、店名や案内の表記が一切ないのをご存じですか?実は以前気になって調べたことがあるんです。そしたら、目の前のフラワーショップ「aria」のご店主が設置したものでした。花々の香りに誘われて、蝶々が飛んでいく電柱広告なんて、粋ですよね。

 

さて、今回は奥新竪がメインテーマ。本多通りを渡って、幸町の路地に進んでみることにしましょう。通りには一気に住宅が多くなってきます。可愛らしい外観や窓から外へ見せるようにインテリアを置いている洒落た家も多いです。

 

個人事務所を構えている方も多いようで、なんだか愛らしいサインが書いてあるなと思ったらデザイン事務所だったり、変わったドアのデザインだなと思ったら建築事務所だったり。

 

 

 

狭い道を進んでいくと、少し広い空間に出ました。

 

 

こちらも火事の延焼防止などのためにつくられた「広見」の一種なのかなと思います。金沢ならではの光景ですね。

 

更に奥へ行くと・・・むむ、なんだこりゃ?

 

 

オブジェでしょうか。人のように見えますが、なんだか不思議な形。土のような木のような、素材もよく分かりません。

 

あ、よく見ると同じ敷地内にこんな石碑が。

 

 

藤岡東圃生誕之地、と書いてありますね。調べてみると、藤岡東圃というのは日本で最初の文学博士になった国文学者・藤岡作太郎のペンネームのようです。この石碑は新竪町小学校の児童の募金によって建てられたとか。前述のオブジェももしかすると藤岡作太郎に関連するものかもしれないですね。

 

 

さて、もう少し歩いて別の通りを進んでみます。こっちの通りは昔ながらの米屋さんや豆腐屋さんがぽつぽつと。「河上とうふ」のドアが開いていたので、ちょっと覗いてみました。

 

 

くぅ~激渋!水をはったシンクにつやつやの豆腐が沈んでいる風景なんて、最近じゃあまり見られませんよね。奥から店のお母さんが出てきて、厚揚げの簡単で美味しい食べ方を教えてくれました。

 

 

 

もちろん、豆腐2種類とお揚げさんを購入。今夜は麻婆豆腐にしようか、いや、久しぶりに湯豆腐というのもいいかも。帰りにお母さんから飴ちゃんを一粒いただきました!

 

 

豆腐屋さんを出て、葉っぱに半分覆われた建物を見上げながら通りを進むと、やっとこさ目的の店に。

町も、人も、店も。ひとつひとつを大切に営むコーヒーショップ

 

今回の目的地は2022年11月にオープンした幸町のコーヒーショップ『dokidoki』。新竪町商店街を抜けて真っすぐ進んだ先にある店です。

 

筆者の感覚ではこの店が出来たことで、商店街からの人の流れが少し変わったような気がしており、まさに奥裏さんぽの第1回でご紹介する店としてはうってつけ。

 

 

元は小さな薬局だったというこの物件。店のつくりは一見シンプルですが、インテリアの素材感や設計の細やかな配慮にセンスが光ります。

 

入口を通ったらチラッと振り向いてみてください。改装前からのもので、あえて残したというこの一文にほっこりするはず。

 

 

店内は珈琲の香りで満ち溢れています。「dokidoki」の特長は、ドリップコーヒーとエスプレッソドリンク、そのどちらもを同じ熱量で取り揃えていること。

 

浅煎り、中煎り、深煎りのブレンドやシングルオリジン、デカフェ(カフェインレス)など5~6種類のドリップコーヒーと、11種類のエスプレッソドリンクといった豊富なバリエーションのメニューが用意されています。

 

豆は全て宮崎県の「ROSA COFFEE」が焙煎した有機栽培の豆を使用。石川のお客さんに新たな珈琲との出合いを提供したいという想いもこのロースターを選んだ決め手だったといいます。

 

 

さらには、細かいオーダーにもなるべく対応してくれるとのこと。例えばカフェインを抜いたカフェラテが飲みたい場合は、エスプレッソ抽出ではなくデカフェの豆を使った濃いめのドリップ抽出で作ることも可能だとか。

 

また、エスプレッソドリンクに使用するバニラシロップやキャラメルソースなどは、既製品ではなく自家製で作るほどのこだわりよう。エスプレッソとの相性を軸に作られていて、バランスの良い甘みを加えられるそうです。珈琲に苦手意識がある人の最初の一歩になれたらと、店主が自ら丁寧に仕込みます。

 

 

珈琲の香りが引き立つカプチーノ(550円)とココアパウダーではなくエスプレッソ挽きの豆を振りかけたティラミス(650円)。

 

 

そんなホスピタリティに富んだ「dokidoki」を一人で切り盛りするのは、長年サービス業を生業にしていたという瀬戸裕紀子さん。人に対して想いを向ける姿勢は、物腰の柔らかさやサービス精神など、店づくりにおいても活かされているようです。

 

瀬戸さんとお話しをしていたら、様々な出会いと奇跡が重なって今の店ができたことを教えてくれました。

 

 

「この目の前の道はよく夫と散歩をしていた通りなんです。お店を出すことを決めて、物件を探していたのですがピンとくるものがないなと思っていたところ、夫がこの場所を見て“ここ、結構面白いと思うんだよな”と言っていたんです。私も大通りから少し入ったこのエリアは好きだったのですが、その時はカーテンが閉められたままで売りに出されているわけではなく。そんな中、古物を取り扱う夫の店にこの物件の大家さんが来られて、古い家具などを片付けてほしいという依頼を頂いたんです。そこから縁がつながって、とんとん拍子でこの場所を借りることができました。」

 

不思議な出会いはまだまだ続きます。

 

 

「元々珈琲は好きだったのですが、カフェ文化が盛んな韓国で飲んだカプチーノに衝撃を受けた経験があって、そこで使われていた“FAEMA E61”というエスプレッソマシンを自分の店に絶対入れたかったんです。ただ、どこで取り扱っているのかが分からなかったので、東京の大きな珈琲のイベントにとりあえず行ってみたんですね。そしたら行った瞬間、目の前にこのマシンが現れて。で、そこにゲストバリスタで来ていた方が、今豆の焙煎をお願いしている宮崎のROSA COFFEEのご主人だったんですよ。」

 

その方の作るカプチーノを飲むと、韓国で飲んだカプチーノと同じ衝撃を感じたといいます。パズルのピースが一つずつはめ込まれていくかのように、「dokidoki」の大事な要素を手にしていった瀬戸さん。

 

 

浅煎りブレンドのアイスコーヒー(600円)は紅茶のように鮮やかな色合いで飲み口も華やか。ナッツやチョコチップが入った自家製のコーヒークランブルケーキ(450円)と合わせて。

 

元々珈琲単体で飲むことが多かったという瀬戸さんですが、店を始めてからお菓子の需要に気づき、珈琲とスイーツの取り合わせに興味が湧いたとか。現在は珈琲に合わせるための自家製スイーツの他、東京から取り寄せているビーガンクッキーも多彩に取り揃えています。

 

今後は店舗を大切にしながら、店とは違う楽しみを提供できたらと外部イベントへの参加も意欲的。そのために別のエスプレッソマシンも用意したといいます。様々な展開をすることで、より多くの人に珈琲の魅力を感じてもらえたら、とにこやかに話してくれました。

 

 

「店の前の木に、珈琲の花のような白くて小さな花が咲くんです」
「お向かいの食事処の佇まいも味がありますよね~」
「あそこのお豆腐屋さん、とっても美味しくて!」
と、自身の店だけでなくこの町についてもたくさん語ってくれた瀬戸さん。心底この町とこの店を大事に思っていることが伝わってきました。

 

今まで新竪町はメインストリートを往復するだけだったという皆さん。最初の一歩は“dokidoki”するかもしれませんが、奥裏こそ魅力がいっぱいだと教えてくれる、そんな店に出合ってみたいと思いませんか?

 

dokidoki(ドキドキ)
住所/石川県金沢市幸町13-17
営業時間/9:00〜17:00
定休日/火曜、水曜
席数/9席+外のベンチ
駐車場/近隣にコインパーキングあり
※こちらの情報は取材時点のものです。
撮影:林 賢一郎

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