老舗ジャズ喫茶の絶品チーズカレー|煩悩を断ぜずして咖喱を得るなり #27
カレーの聖地と称される金沢市の中でも、屈指の名店として知られるのが「JO-HOUSE 石引店」。昭和47年の創業から、50年以上もの歴史を誇るレジェンド的な存在である。
音楽好きから愛される老舗のジャズ喫茶
もはや石引商店街の顔とも言える存在。ホンダジャイロ(三輪スクーター)のレトロっぷりが映える。
店内を軽やかに流れるジャズを耳にしつつ、「こちらへどうぞ」と案内された厨房近くのテーブルに着席。古くから音楽好きが集まるお店として人気を博したお店。店内の壁にはアーティストの生写真などが飾られ、世代を超えて音楽ファンから愛されてきたお店だというのが伝わってくる。
ジャズ界のレジェンド、ジュニア・マンスによる手書きの譜面。創業から節目の年に本人から贈られたという。
こちらは階段の下に飾られていた写真。手前にはフォーク界のレジェンド高田渡と思わしき人物が。生前は定期的にライブをしていたというからきっと本物に違いない。
鍋を振るのはBONNOコラム「カレーってからいですか」でもおなじみの本池和樹a.k.aモカさん。先代の娘さんであり奥様の“とわさん”との結婚を機に、20年ほど前から二代目としてお店を引き継いでいる。
仕込みをするモカさん。お店の経営だけでなく、町おこしや創作活動、子育てなどを“楽しく”こなすバイタリティに憧れる。
「義母(先代の奥様)が、ヨーロッパに留学していたときに出会ったのがマリボーチーズ。その美味しさに惚れ込んで、お店を始めるときにマリボーチーズを使ったピザも提供したいと先代に直訴したそうなんです」とモカさん。その後まかないで誕生したのがマリボーチーズカレー。チーズをカレーに乗せてオーブンで焼いたら思いのほか美味しく、すぐにメニュー入りしたのだとか。
こちらが先代の奥様。ママ目当てのお客さんも多かったそうで。たしかにマブい!
そうこうしているとモカさんから「できましたよ〜」の声が。焼きカレーは熱々のうちに食べるのが一番。さっそくいただこう。
創業から変わらないこだわりの二段仕込み
マリボーチーズカレー(サラダ付き) 950円
焼けたチーズの芳しい香りととともに運ばれてきたマリボーチーズカレー。オーブンで焼くことでルウの水分が蒸発するため、一般的なカレーと比べると色味が若干濃く感じる。それにしても美味そう。
加熱することでモチモチな食感となったマリボーチーズ。熱々なのでヤケドに注意!
チーズをルウと絡めながらまずはひと口。くぅ〜!これこれ。どろっとしたルウと溶けたチーズで覆い尽くされたビジュアルから超濃厚に見えるけど、野菜や果物を大量に使っているからそれほど重たさは感じない。むしろ爽やかな酸味すら感じるくらい。油も控えめで食べやすい。
ちなみにデンマーク原産のマリボーチーズは、わずかな酸味と穏やかな風味が特徴的で、欧州諸国では様々な料理に使われているのだとか。クセも少ないのでチーズが苦手な人でも食べやすいはず。このちょっと弾力のある食感も病みつきになる。
自家製らっきょう 150円。やさしい酸味と甘味で、カレーとの相性も抜群。
筆者が「JO-HOUSE」を訪れた時にかならず追加で注文するのが自家製のらっきょう。これがあるだけで口の中がリセットされて、スパイスの初期衝動を繰り返し楽しむことができるのだ。
こちらはセットメニューのミニサラダ。カレーを食べる前にこいつを胃にぶち込んで、高血糖による食後の眠気に備えておく。
マリボーチーズカレーのベースとなるのは創業時から作り続けられている特製ジャワカレー。先代が学生時代に働いていてた京都のインドネシア料理店「ジャワ(現在は閉店)」でインストールした味を、現在はモカさんが受け継いでいる。
モカさん曰く「スパイスを入れなければ、ほぼデミグラスソース」というジャワカレー。しかしながら作り方はかなり特殊だ。
「まずは、水を張った寸胴に、鶏ガラ、玉ねぎ、セロリ、ニンジン、ニンニク、ショウガ、リンゴ、さらにクミンやクローブなどの香辛料を加えて一日かけて炊き、ベースとなる出汁をとります。そこに小麦粉、香味野菜、香辛料をひたすら炒って作った自家製のカレーパウダーを投入して煮込み、裏ごしした後、一晩寝かせたものがジャワカレーの素となります」
煮込んだカレーを裏漉ししていく様子。
日本酒でいうところの二段仕込みのようなものなのか。濃厚な味わいと深い香りは、この手間ひまをかけた工程の賜物だと推測する。
冷蔵庫で寝かせて半固形になったルウを水などで溶かし、鶏肉などの具材を加えたのが特製ジャワカレー。 それをグラタン皿によそったごはんの上にかけて、チーズを乗せてオーブンで焼いたものが、マリボーチーズカレーというわけ。
ランチタイムはプラス150円でドリンク付きに。
締めくくりはホットコーヒー。安心安全の金沢ブランド「ダートコーヒー」とともに、スパイスの余韻に浸る。ちなみにダートコーヒーの社長夫人とJO-HOUSEの先代の奥様はマブダチだったそうで、創業から今も変わらずダートコーヒー一筋なんだとか。そんなところにも人との縁やつながりを大切にするモカさんの人柄が伝わってくる。
9月30日には「石引ストラット」と題した、石引商店街の秋祭りを企画中。アーケードとストリートを全部使って、チンドンねり歩きや寄席、民謡パブ、絵本劇といったレトロな催しが繰り広げられるとのこと。ぜひ、足を運んでみて欲しい。
JO-HOUS 石引店