つながれ友達の輪!私のマスターピース⑦|役者/映像制作・徳田公華の場合
【リレーコラム】つながれ友達の輪!「私のマスターピース」他の記事を読む
うちの母が昔から草彅剛さんのファンなんです。
唐突に何を言い出すのかと思われた方もいると思うのですが、そんな母のお陰で出会えた作品を皆さんに紹介したいと思います。
ホテル ビーナス(2004年)
冒頭でも書いたように、うちの母は昔から草彅剛さんの大ファン。家の中には草彅さんのCDや顔がどアップで写っている大きなポスター、出演作品のDVDなどがたくさんありました。でも私は「あぁ、ここは母のゾーンだ」とあまり興味を示すこともなく、自然と草彅さんと共存して育ったわけです。そんな私が高校三年生の時、卒業間近で登校日も減り、朝からレンタルショップに行ってはDVDを借るという、映画三昧の毎日を過ごしていました。ここで再び母が登場です。
「剛くんの映画見てみて」
それまで私は草彅さんとはいい距離感を保っていたのに、突然お近付きになることに恐々としながら言われるがまま「ホテルビーナス」を見ることにしました。こちらの作品、日本映画にも関わらず台詞は全編韓国語。ただ、よくドラマや映画で見かける日本の俳優さんがたくさん出ているので、さほどハードルを感じずに見始めることが出来ました。
作品の舞台である、ホテルビーナスには訳ありの人が集まってきます。
そこでは本名を名乗ることはせず、他人の生活には干渉しない。これが暗黙のルール。そこへある日、小さな娘を連れた男がやってくる。そして男は言うのです。
「ビーナスの背中を見せてくれ」と。
これはホテルビーナスに入居させてほしいという合言葉。この合言葉はよっぽどの裏ルートでなければ、知ることはできません。それだけ何から逃げるようにやっとここまで辿り着いたということです。
小さな娘と無口な男が新しく入居するのをきっかけに住人たちの日常が少しずつ、今までのようにはいかなくなってきます。理不尽なことや自分じゃどうしようもない時だってたくさんある。でもどんなに泥臭くカッコ悪くても、顔を上げて前に進もうと覚悟すれば、もしかしたら未来は変わるかもしれない。絶望に慣れた人間たちが、もがきながらでも少しの希望を頼りに自分の人生を歩み始めようとします。
また、この作品は映像作品でありながら本を読んでいるかのような感覚に陥ります。
住人たちの言葉ひとつひとつが耳に残り、彼らひとりひとりの姿がしっかりと目に残っていきます。登場人物たちは「他人なんて関わるだけ無駄」と感じさせるような尖ったナイフみたいな人たちばかりなのですが、実はそうじゃない。人をちゃんと愛したことがあるからこそ、また絶望したくなくて立ち止まっているだけなんです。
気がつくと私はそれからの人生の中で心が折れそうになった時、自分なんか…と思ってしまった時にこの作品を見るようになっていました。草彅さんは母のゾーンだと決めつけていた私ですが、今はそのゾーンを抜け出し、役者『草彅 剛』さんの作品が心の支えになっています。みなさんもお時間がある時に一度、自分の中で避けてきたゾーンに目を向けてみるのはいかがでしょうか。
次回は金沢出身の役者さん、本庄司さんにバトンタッチ!
本庄さんとは金沢の上映会で知り合ったのですが、ぜひ作品でご一緒したいなぁと思うような素敵な役者さんです。ちゃっかり、上映会後すぐにMVの出演オファーをしました。
【MV】「ひとりの海/ハイメリークレシェンド(from:遊吟)」
今回の執筆者
徳田 公華(とくた きみか)
1992年生まれ、北海道出身。高校生の頃より役者として活動。主な出演作品として、CX「鬼平犯科帳 THE FINAL」やテレビ東京 水曜ミステリー9「北海道警事件ファイル 警部補 五条聖子シリーズ」や舞台「放浪記」など。現在は映像制作会社で働きながら、短編映画やMVの監督などもしています。2019年には金沢にて行われたROJIURAシネマにて監督作品・出演作品の上映、翌日のワークショップ講師として参加させて頂きました。noteにて、過去に執筆した脚本なども載せているので覗いてもらえると嬉しいです。
note:https://note.com/jagaimo_10kg