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つながれ友達の輪!私のマスターピース⑭|ラジオDJ・Chigusaの場合

映画、音楽、本、漫画、はたまたお気に入りのグッズなど。それぞれの心をえぐった「自分的最高傑作」をピックアップして紹介していくリレー企画。今回は、パーソナリティー、ナレーター、イベントMCとして活躍中のChigusaさんにバトンタッチ。

 

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今から37年前、父の仕事の関係でニューヨークに住んでいた当時3歳の私は、エンターテイメントの聖地ブロードウェイで衝撃的な出会いを果たした。
人間がカラフルな全身タイツにフサフサの耳付きのヅラを被って猫になりきって踊り歌う、ミラクルでファンタスティックでミステリアスなミュージカル。そう、「キャッツ」である。

 

 

1981年にロンドンウェストエンドでの初演を成功させ、翌年ブロードウェイに進出。
幸運にも記念すべきブロードウェイ・オリジナル・キャストのパフォーマンスを生で見る機会に恵まれた私と当時10歳だった姉は、その独特な世界に一発で魅せられてしまった。

 

残念ながらさすがに3歳の時の記憶はおぼろげで、幕間に母とトイレに向かう途中、キャストの楽屋に迷い込んでしまい、「猫」にトイレを案内してもらったという激レアな体験でさえ断片的にしか覚えていない。

 

しかし、「もの心ついた時から好きだった」というのはまさにこういうことなのだろう。
「キャッツ」というマスターピースがその後の私の人生を豊かにしてくれたことは紛れもない事実だ。

 

「キャッツ」は、イギリスの詩人、T.S.エリオットの1939年の詩集「キャッツ ー ポッサムおじさんの猫とつき合う法」をベースに、同じくイギリスの作曲家アンドリュー・ロイド・ウェバーが曲を付けミュージカル化した作品である。
代表曲「メモリー」は聞いたことのある方も多いだろう。

 

 

子供や観光客にも楽しめるメガミュージカルのパイオニアである「キャッツ」だが、その奥には生と死、栄枯盛衰、愛と慈悲等、様々なテーマが隠れている。生前のT.S.エリオットが、前述の詩集をアニメ化したいというディズニーからの申し入れを、単なるかわいい猫ちゃんアニメにされては困ると断ったというのは有名な話だ。

 

舞台は月夜の都会のごみ捨て場。
ジェリクルと名乗る特別な猫たちが舞踏会を開く。
次々と登場する個性的な猫たちのなかから、新しく生まれ変わることが許される1匹が選ばれ、ラストは選ばれし猫がヘビーサイドレイヤー(天国的な場所)に昇っていくというストーリーだ。

セリフはほぼなく、歌と踊りのみで構成されていて、ミュージカル史上最も踊るのが難しい作品のひとつとしても知られている。

 

振付を担当したイギリスのコレオグラファー、ジリアン・リンが特にこだわったのが中盤のハイライトシーン「The Jellicle Ball」で、キャストが10分以上フルスロットルで踊り続ける姿は圧巻!劇場前列に座ると、キャストの汗がバンバン飛んできて、終盤になるにつれてキャストのテンションがダンサーズ・ハイともいえる境地まで上がっていくのを肌で感じることができる。

 

猫という生き物自体、妖しさ、気高さ、強さと、色んな顔を持っているが、ロイド・ウェバーの音楽がこれまた、オーケストラと電子音を絶妙なバランスで融合させ、そんな猫たちが集う不思議な夜を実に多彩に表現している。もう、序曲からかっこよくてしびれてしまう。

 

 

そんな「キャッツ」の音楽や、ストリングライトがぼわっと灯る薄暗いステージ、ごみ置き場のガラクタの中から顔を出す猫たちのしぐさと踊りを含む全てに、私たち姉妹はハマった。

84年に日本へ帰国するまで毎月のように劇場に通い、帰国後はサントラ+想像でブロードウェイのステージを思う日々を過ごした。
96年、12年ぶりに姉妹でニューヨークを訪れた際は、滞在した5日間、毎晩観に行った。
98年に舞台の雰囲気を比較的忠実に映像化した作品(現在YouTubeでほぼほぼ視聴可)がリリースされると、ちょうど高校生活に退屈していた私は、放課後毎日走って帰って姉の部屋のテレビデオ(知らない若者はググろう)でVHSが擦り切れるまで見入った。

 

ブロードウェイの「キャッツ」は2000年に惜しまれつつ閉演してしまったのだが、2016年にリバイバルすると、36歳と43歳の年だけは立派な大人になった私たち姉妹は、仕事を投げ出して飛行機に飛び乗り、滞在した5日間毎晩観に行くという、デジャブな旅をしてしまった。

いくつになっても劇場に向かう時の目の輝きは3歳と10歳の時と変わっていない自信がある。

 

ちなみに、チケットでお金を使ってしまうので、夜ご飯は毎晩閉店間際のパン屋さんで買うサンドイッチ。その日のキャストやオーケストラの話に花を咲かせながら食べるサンドイッチは、どんなにパサついていてもおいしく感じた。

 

こうして書いてみると、個人的マスターピースというのはそれそのもの、プラスそれにまつわる思い出や記憶なんだなぁと改めて思う。
私のマスターピースはきっと、幼少の頃の家族の笑顔や、退屈な放課後が一瞬で楽しく塗り替えられたあの感覚や、姉と食べたサンドイッチの味と相まってより色濃く私のなかで輝いているのだと思う。

 

2016年のリバイバルは1年で終わってしまったので、もう生で見ることができない私のマスターピース、ブロードウェイ版「キャッツ」。

コロナの影響でブロードウェイシアター全体が休止状態となっている今、世の中が1日も早く平穏を取り戻し、「キャッツ」がリ・リバイバル&そのままロングラン公演をしてくれることが私と、きっと姉の、一番の願いである。

 

さてお次は、シンガー、演出家、ショップオーナーと猫より多くの顔を持つ、REMAHさんにバトンを繋がせて頂きたい。独特の世界観とポジティブエナジーで周りの人をどんどん巻き込んで突き進む彼女が選ぶマスターピース!興味津々である。

 

 

 

今回の寄稿者
Chigusa
レコード会社勤務を経て2005年にラジオデビュー。以降パーソナリティー、ナレーター、イベントMCとして活動中。
Twitter : @DJChigusa

 

○つながれ友達の輪!私のマスターピース

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