戦国時代より語り継がれる伝説のそば。御膳にしたら白山麓の景色が見えた
白山市の旧鳥越地区は北陸有数のそばの名産地。この地には戦国時代より食されてきた伝統的なそばがある。
1488年、加賀の本願寺門徒らが中心となった一揆が始まった。加賀一向一揆である。当時の鳥越は一向宗門徒が支配する国。守護大名である富樫政親との戦いに備え、いざ戦いとなると門徒衆がそばを打ち、山菜や餅を入れたそばを食して、戦列に加わる。そんな逸話が残されている。その味と盛り付けを受け継いだのが「一揆そば」だ。
一揆そばの由来。旧鳥越村は一向一揆の里としても知られている。
極太そばの上に揚げた草餅と山菜を乗せる。これぞ戦めし!
今回、訪れたのは旧鳥越地区にある『一揆そば 長助』。郷土の味を守るため、一揆そばを忠実に再現する、言わずと知れたそばの名店である。
一揆そばの特徴は麺の太さにある。その太さは通常の2倍ほど。黒くて太く、コシの強いいわゆる田舎そばだが、つなぎに芋をたっぷり使う分、田舎そば特有のボソッとした歯ごたえはなく、滑らかな舌触りが楽しめる。
この極太麺に負けないよう、風味豊かに抽出した出汁はやや甘め。これに山菜、人参、えのき、草餅の天ぷらを乗せる。山菜や草餅に使うヨモギは店主が自ら収穫。カリッと揚がった草餅の香りはどこか懐かしく、味わい深い。
1948年創業。元は豆腐屋だったが、時代の流れとともによろずやから食堂へと生業を変え、現在の形になった。
一揆御膳1,800円。一揆そばのほか、地場物の野菜や山菜などが楽しめる。
華やかではない。だが、それがいい。
一揆そばをより贅沢に味わうなら、白山麓の味覚をコンパクトに凝縮した「一揆御膳」がおすすめ。白山の伝統食である堅豆腐を使ったお造り、地元の名産「じんたの油揚げ」と地元野菜の煮物など、滋味豊かなラインナップ。ごはんは鳥越産コシヒカリ。これがまたおにぎりにすると旨い。
食後にはセットの一部として、コーヒーとプリンが提供される。コーヒーは名水百選にも選ばれる「弘法池」の湧き水で抽出。豆はオーガーニックのグアテマラ。ほどよいコクと芳醇な味わいが、牛乳と卵、粗精糖だけで作った自家製プリンの優しい甘さとちょうど合う。
コーヒーと自家製プリン。これを目当てに訪れる人もいるそう。
店主の長壮一さん。数十年にわたって父から受け継いだ店を守り続けている。
そのほかでは、季節の天ぷらと盛りそばがセットになった「田舎もり」が人気。「堅豆腐カレー」や「いのしし丼」などのジビエメニューも用意されている。
地場物と旬を大切にする思いが溢れる名店。ぜひとも四季折々に訪れてみて欲しい。
ぎしぎと音を立てながらゆっくりと回る水車。
田舎らしい穏やかな空間。家族連れでもゆったり寛げるのはうれしい。
一揆そば 長助
イッキソバ チョウスケ
石川県白山市釜清水町ち2−1
TEL.076-254-2003
営業時間/10:00~19:00
定休日/水曜、木曜日
席数/カウンター12席、小上がり18席、座敷18席 ※全席禁煙
駐車場/15台
※こちらの情報は取材時のものです。
(取材・文/吉岡大輔、撮影/林 賢一郎)