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コレクター道は茨の道。メイドインジャパンをこよなく愛する山田 訓さんが収集する理由

ヒトはなぜモノを集めるのか。

 

金沢21世紀美術館でも展覧会が開催されたメイドインジャパンの置時計をはじめ、十数ジャンル、数千点のコレクションを所有する山田 訓さんに、収集する理由を聞いてみた。

 

山田 訓(やまだ・さとる)
石川県生まれ。昭和レトログッズのコレクター。プラスティック製の国産置時計や観光ペナントなど、なかには日本屈指のコレクションを誇るものもある。本職は蕎麦屋の店主。

 

コレクターとしての転機は、地方の商店街で出会ったアレ。

いつ頃からモノを集めるようになったんですか?

 

大学を卒業してサラリーマンになった頃、昭和初期に作られた商標マッチラベルのデザインに惹かれて、なんとなく集めるようになりました。もともと凝り性なタイプ。しばらくするとマッチが欲しくて、車に寝袋を積んで全国を巡るようになりました。

 商標マッチってなんですか?

 

マッチのメーカーが自社ブランドの商標をデザインしたマッチです。石川県は鶴丸、富山は福助など、地域によって商標が変わります。現在も全国で100種類以上の商標マッチが売られているんですよ。

 

レトロなデザインの商標マッチ。

 

今現在、どんなモノを集めていますか?

 

商標マッチ、置時計、ペナント、せんぬき、肥後守(ひごのかみ)、コーヒーカップ。ほかにもアニメのキャラクターが描かれた子ども茶碗やプラ箸なんかも集めています。

 なぜ、それらのモノを集めるようになったんですか?

 

商標マッチを収集する間、地方の商店街にも足を運ぶようになりました。90年代後半。当時はホームセンターやショッピングモールが地方にも進出して、商店街の活気に陰りが見え始めた頃でした。客足が遠のいてしまった金物屋や時計屋。そこには時代に取り残されつつも、どこか魅力を感じるモノとの出会いがありました。

どの出会いが印象的でしたか?

 

地方の文房具店で肥後守を発見したときは、なんともいえない懐かしさに心が震えました。肥後守は明治生まれの折りたたみナイフ。草木を切ったり、削ったり、子供の頃はこれをポケットに入れて遊びに行っていました。

 

和式ナイフ肥後守(柄のみ)。

 

昭和30年代の工業デザインってヤバくないですか?

置時計のコレクションも相当なものだと聞きました。

 

おもに昭和30年代に作られたプラスティック製の国産置時計を集めています。所有数は1,000点以上。鮮やかなプラスティックの色彩と流線型のフォルム、遊び心がある文字盤。高度経済成長期に作られた国産置時計にはなんともいえない魅力があります。置時計に限らず、この時代に作られたメイドインジャパンの工業製品はひとつひとつ手が込んでいるし、プロダクトとしての品質も圧倒的に高い。もしかすると今の時代より上かもしれません。昭和30年代は日本のインダストリアルデザインが花開いた時代。製品ひとつひとつに「世界に打って出よう」というデザイナーや職人の気概や熱量を感じます。

 

昭和30年代の国産置時計。

 コレクションはどうやって手に入れているんですか?

 

最近ではネットオークションなども利用するようになりましたが、若いうちはとにかく各地の時計屋に足を運びました。ただ、自分が求めるような古い時計は大体が売り物にならないようなものなので、奥の倉庫に仕舞われていることが多いんです。なので、世間話なんかをしながら、少しずつ店主との距離を縮めていかないといけない。ときには悪徳業者に間違われて水をかけられたり、延々と説教されたこともありました。マッチや肥後守を車にたくさん積んでいたときには「物騒なやつだ」と、警察官数名に取り囲まれました(笑)。

そんな苦い思いをしながらも、収集し続ける理由とは?

 

コレクター道を極めるには、なにかしらの信念が必要だと感じています。僕にとっての信念は「こいつらを救ってやらないと」という想い。置時計、肥後守、せんぬきなど、僕が集めるモノは絶滅危惧種ともいえる、時代に取り残されたものばかり。歴史に埋もれてしまう前に自分の手によって掘り起こし、これを次の世代にまで残してやる。そんな気持ちでやっています。

 

時計への熱い想いを語る山田さん。

山田さんが集めるペナントも絶滅危惧種のひとつですよね。

 

そうなんです。昔はどこの観光地にもあったけど今はほとんど目にしない。ペナントに描かれているのは昭和時代の風景。さまざまな理由で様相が変わってしまった観光地が多い中で、古き良き日本の原風景が残されたペナントは希少な資料にもなります。これらのペナントは僕がやっているそば屋にも展示しているので、興味がある方はぜひ見にいらしてください。

 

47都道府県の観光ペナント。

いつのまにか時計を修理できるようになっていた自分が怖い。

コレクターとしての醍醐味とはなんでしょうか?

 

コレクションは入手してからが本番。手に入れた段階ではジャンクに近いモノを、元の状態にまで復元させる必要があります。たとえば時計なら表面をキレイに磨きあげて、必要であれば研磨剤を使って磨いたり、ゼンマイの修理などをします。ガラスが割れているものは自分でガラスを切ってはめたりもします。完全な状態に戻るまで1〜2週間。そういった過程も、醍醐味のひとつですね。

モノを集めるって、意外と大変なんですね。

 

お金と時間がかかるし、保管場所も必要。僕自身、実家や倉庫、自宅など4箇所に分けて数千点のコレクションを管理しています。もちろん家族の理解も得ないといけない。コレクションを始めるのは簡単だけど、続けるのは至難の業なんです。それでも収集し続けるのは、後世に残したいモノがあるから。そうした思いが続くまでは、神様が自分に与えた使命だと思って、このライフワークと一生付き合っていきたいですね。

 

 

とりごえ蕎麦 相滝
トリゴエソバ アイタキ
石川県白山市相滝町32
TEL.076-254-2737
営業時間/11:30〜16:00
定休日/火曜、第2・4水曜日

※こちらの情報は取材時のものです。

 

(取材・文/吉岡大輔、撮影/林 賢一郎)

 

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