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廃保育園が美術館に?鶴来で「おついたち美術館」プロジェクトが進行中。

石川県の中でも古い町並みが残る白山市鶴来地区。

白山麓への玄関口として栄えてきた歴史があり、昔ながらの素敵な風景を残す地域ですが、この鶴来もほかのローカルな地域の例に漏れず、人口減少や商店街の不振といった問題を少なからず抱えている場所のひとつです。

 

しかし近年では、新しいお店が増えていたり、イベントが開催されたりと人を呼ぶ動きが活発化しているように思います。鶴来という町から、何か沸々とした空気を感じるのです。

中でも気になる動きを見せているのが、鶴来の大きなマーケットイベント「おついたちマーケット」を主催する「白山鶴来Re研究所」です。 彼らのSNSでは、今春新たに「おついたち美術館」というプロジェクトが立ち上がり、 “廃保育所、遊具、教室などを、参加者で真っ白く塗る”という内容に惹かれ、筆者も第1回のイベントに参加してきました。

 

当日、会場である廃保育園へ行くと・・・

な、なんということでしょう!

 

 

 

そこにはものすごい数の子どもたちが真っ白のペンキと園庭の土で、清々しいほどにドロドロになって遊んでいました。

「本当に汚していいの?」と気にしている子、どこかワクワクしながらゴミ袋を被って着る子、ここぞとばかりに笑いながら泥んこの水たまりに寝そべる子…

大人たちもこの日ばかりは好きにしていいと寛大な様子で、そこにいる全員が最高に楽しそう。なんだか人間のあるがままの状態を映したような、野性味あふれる風景がそこにはありました。

 

さて、参加したことでこのプロジェクトをどうやって企画したのか、今後どうなっていくのか、さらに気になってしまった筆者。今回ついに「白山鶴来Re研究所」へのアポイントに成功し、意気揚々と鶴来へ車を走らせたのです。

活気ある鶴来の町を取り戻したい

 

普段は鶴来の繊維会社を経営しながらカメラマンもこなす久光一貴さん(左)と鶴来で建築業を営む松村昌英さん(右)。お二人は親戚同士。

 

「白山鶴来Re研究所」は主に二人のメンバーで始まった、鶴来を盛り上げるための地域活性化チームです。今回は「おついたち美術館」プロジェクトの拠点である旧鶴来第一保育所にてお話しを伺ってきました。

 

プロジェクト進行中の保育所。

 

はじめまして。うわぁ~やっとお会いできました!実は今日すごく楽しみにしていたんです。ずっと気になっていたプロジェクトの方々についに会えると思って。でも、主要のメンバーがふたりだけで始められたと聞いて本当に驚きました。

久光さん

えー、嬉しいですね。ありがとうございます。元々ふたりで始めたものですが、今では地域活性についての専門家とメディア関係者も含めた4人で活動しています。そもそも、飲みの席で出た話から始まったんですよ。「鶴来っていいところなんに、なんかおもしろいこと足りなくない?」って。そこから、次の日にはLINEグループをつくって、半年経たないくらいの期間で最初のイベントを開催したんです。

そうなんですか。そういうお酒の場の会話って、その場限りのことが多いですが、そこからちゃんと形づくっていく行動力がすごいですね。お二人の活動といえば、やはり第1回で8000人も動員した「おついたちマーケット」が知られていますが、どのような活動の経緯で現在に至っているのでしょうか。

松村さん

「おついたちマーケット」の前身イベントで「あおぞら教室」というのがあったんです。こぢんまりとしたイベントでしたが、夏は獅子吼でワークショップ、春は役場の前で花見も兼 ねた食イベントを開催していました。自分たちでテントとかを集めて、長テーブルも色んな公民館から借りてきて。そういうの全部、ほとんど僕ら二人でやってましたから。

久光さん

それをまとめて大きいものにしようとなったのが「おついたちマーケット」なんです。「あおぞら教室」を始めた頃は、正直反対の声ばかりでした。彼なんて、特に自治体や商工会との調整をしてくれていたんで、めちゃくちゃ言われていたと思いますよ(笑)

いろんな意見があったんですね。

松村さん

すげぇ嫌われていましたよ~(笑)「松村、あの野郎また勝手なことしやがって!」って(笑)勝手なことをしているつもりもなくて、説明もしていたはずなんですが、やっぱり前例のないことだったので、説明をしてもちゃんと理解してもらうのが難しかったんですよね。自分が子どもの頃の鶴来は、子どもでも感じるくらい活気があったんですが、5~6年ほど前のこの町って、商売してもうまくいかないとか、いいところなんて何もないみたいな空気があったんですよ。鶴来に住んでいる人たちが、そういう評価を自分たちでしていたような状態でした。

久光さん

何かやりたいってなったときに、自治体や商工会に企画を出して進める方法もあったのかもしれないですが、組織に入ると動きづらさがどうしても出てしまうので、とりあえずは小さくてもいいから自分たちのできる範囲でおもしろいことを積み重ねていこう、という考え方で動いていましたね。 そうして活動していると、見てくれている人はやっぱりいて、今ではいろんな組織の方々がたくさん手伝ってくれるくらいの大きいイベントができるようになりました。

思い出をなくさず、新たな思い出に

 

保育所内部。子どもたちが遊んでつけた手形も多数。

 

今回立ち上がった「おついたち美術館」プロジェクトはどのようにして始まったんですか?

松村さん

僕らは、よく街を歩くんです。何かおもしろいものないかな、って。そのときに、いろんな箇所を周っていて、思い出の場所って段々無くなっていってしまうよねという話になって。

久光さん

この「おついたち美術館」の前イベントで、スカイ獅子吼にあった動物の大きな遊具に色を塗るイベントを行ったんです。その遊具は、老朽化により撤去が既に決まっていたので“お別れ会”と称して行ったイベントではあったのですが、正直僕たちの中ではその撤去に抵抗する意味もあって。色を塗って映えるスポットになったらもしかしたら残すという話が出てくるかも…という裏の思惑があったんです。結果、撤去はされてしまったんですが、ああやってたくさんの子どもたちの思い出が詰まった場所も、何もせずにいると無くなってしまうんだなと実感したんですよね。

松村さん

この旧保育所の存在は知っていたのですが、改めて場所を見てみると、何かおもしろいことができそうだなと思って、自治体に掛け合いました。空き家になっている状態だったのと、自分たちの今までの活動を自治体が見てくれていたこともあって、まかせてくれることになりました。 何をするかを考えるために一旦清掃をしに入ったのですが、美術館というのは完全なる思いつきです。獅子吼のイベントで子どもたちがアートペイントを楽しんでいるのを目の当たりにしていたので、その流れを汲んだものが作れないかということになりました。

 

 

 

松村さんは建築業をされていますし、正直参加した人たちが塗り直さなくても、スピーディー且つ綺麗に仕上げて新たな場所を早々にオープンすることもできたんじゃないかと思うのですが。

久光さん

この方法をとったのは、多くの人にこの場所に関わってほしかったからです。そうすることで「自分がつくった場所」という意識になるじゃないですか。例えば、美術館としてオープンして人を呼べる場所になったときに、参加していた子どもたちが「あの美術館ぼくがつくったんだよ」って自慢したっていい。そうやって若い世代が町に関わることって、未来の地域をつくることにもつながっていくと思うんです。

松村さん

参加してくれた人の中には、この保育園の卒園生だという人もいて、すごく感謝されました。自分の思い出だった場所が、また違う形で自分の子どもの思い出になって、さらに活用される。たくさんの人が関わった場所は、たくさんの人の想いが集まる場所にもなりますよね。

 

 

このプロジェクトはまだ途中の段階で、今後もペイントイベントは行っていくとのことですが、この建物を真っ白に塗り直したあとは、どのような場所にしようと思われていますか?

久光さん

僕らって、思い立ったら即行動のタイプなので、完全な最終形態はまだ決まっていないんです。ただ、美術館と謳っているからには、人を呼ぶためのアートの展示は少なからずしたいと思っています。そのためにはアーティストへ依頼をする資金なども必要になってくるのでそういった部分を今はどうしていくか、考えています。

松村さん

飲食店を併設させて運営をそこにまかせるとか、広い場所なのでいろんなことができる可能性があると思います。ほかにも鶴来のいろんなところに空き家になった施設があるので、そういう空き家の活用見本のような場所になれば嬉しいですね。

 

 

今後のプロジェクトの動向も、鶴来での活動も楽しみにしています!今日はありがとうございました。

久光さん

ありがとうございました。大丈夫でした?会ってみたらだたの酒好きなおっさん二人だったでしょ(笑)いや~今日は良い酒が飲めるわぁ。

 

 

今回は鶴来で町づくりを考える「白山鶴来Re研究所」の久光さんと松村さんにお話しを伺いました。

北海道出身だという久光さんと、鶴来の商店街で生まれ育った松村さんは、町の中と外どちらからの目線も持つ最強タッグを組むふたり。人を呼ぶアイデアで地域を盛り上げ、鶴来の新たな魅力を町の中にも外にも広げていってくれるような気がします。

 

(一社)白山鶴来Re研究所

問.Instagram @otsuitachi_market DMにて

※こちらの情報は取材時点のものです。

 

(取材・文/西川李央、撮影/林 賢一郎)

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