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30年、40年後を見据えたデザインを。タトゥースタジオ「針地獄」彫童氏インタビュー

BONNOではこれまで、石川県のストリートやアンダーグラウンドシーンで活躍する数々のアーティストへのインタビューを敢行してきました。今回のテーマは「タトゥー」。彫り師として30年以上のキャリアを持つ「針地獄」の彫童氏に会いに、かほく市にあるプライベートスタジオにお邪魔しました。

日本で彫りの技を、欧米でタトゥー文化を学ぶ

彫童さんは何歳くらいの時に、彫師としてのキャリアをスタートさせたんですか?

彫童さん

26歳ですね。もともと刺青文化が好きで、自分の身体にもちょくちょく入れてたんですよ。そうなると普通の職業に就くのはなかなか難しくて。だったらその道を極めてやろうと思ったんです。

修行はどこでされていたんですか?

彫童さん

東京浅草の一門で2年ほど修行をしました。独立した後は、ベルリンのタトゥーコンベンションに参加したり、東京中目黒で兄弟子の彫拳氏が経営していた「百式スタジオ」に所属しながら、ヨーロッパ各地を回って活動をしていました。

どうして海外に行こうと思ったんですか?

彫童さん

浅草時代に師匠のお供でアムステルダムのタトゥーコンベンションに参加したのが大きかったですね。その時の会場の雰囲気が刺激的で。やっぱり本場で勉強するのが一番かなと。ちなみにその大会の主催がタトゥー界の重鎮と言われるHanky Pankyでした。

おぉ!レッチリのアンソニーも慕ってるタトゥーアーティストですよね。僕でも知ってるくらい超有名な人だ。

彫童さん

そうそう。で、ちょっとした縁で顔を覚えてもらえるようになって、オランダに行った時もハンキーの店に出入りして、他の彫り師の人がどんな仕事をしているのか目で見て盗むみたいなことをしていました。やっぱり日本の文化と違うので勉強になることが多いんですよ。逆もまたしかりで、日本の技術やカルチャーを熱心に聞いてくる彫り師もいました。

やっぱり日本のタトゥー文化と海外のタトゥー文化は違うものなんですか?

彫童さん

たとえば海外ではビリヤードに使われる8ボールがデザインに使われることが多いんですけど、これはゲームの中で8ボールが持つ「最後まで生き残る」という性質を、自分の身体に遺すという意味が込められているんですよ。なので彫る技術というよりは、なぜそのデザインが採用されているかといった、デザインが意味するものの大切さを学びましたね。

最近でこそSNSなどでそうした情報が拡散されたりしますけど、当時はなかなか知る機会がないですもんね。ちなみに雑誌とかを読んでいると、海外の彫り師ってすごく怖いイメージがあるんですけど、実際の所どうなんですか?

彫童さん

見た目はいかついけど、根は優しいやつが多いですよ(笑)。それとプライベートはめちゃくちゃでもタトゥーに関しては真面目というやつも多い。タトゥーと真剣に向き合っているというのかな。あっちだといくら絵がうまかったり、彫るのが上手くても、自分のスタイルを持っていないと生き残れないんですよ。そういった競争意識があるからこそ、タトゥー文化が醸成されていってるんだと思います。

彫童さん自身はどんなスタイルを目指しているんですか?

彫童さん

30年やってきてつくづく思うのが、タトゥーは変化するものであるということ。年を追うごとに肌は劣化していくし、体型の変化も起こりえます。なので自分が仕事をするときは、入れたタトゥーがこの先どうなっていくかを予測して、30年後もキレイにあり続ける形を目指しています。

どうすれば30年後も美しくあり続けられるのでしょうか。

彫童さん

細かく入れるほど経年によってインクがぼやけてくるので、なるべくシンプルなデザインを心がけていますね。なかには細かいデザインを希望する方もいますが、そうした場合はお客さんと一緒にアイデアを出し合いながら、デザインを削ぎ落とした上で、施術に移ることが多いです。

なるほど〜。30年、40年後を見据えて身体にタトゥーをデザインしていくんですね。そのほかにこだわっていることはありますか?

彫童さん

デザイン面でさらに言うと、最近は和彫りというかジャパニーズトラディショナルスタイルに近づいていっている感覚があります。これも先ほどの経年の話とつながっていて、やっぱり日本人の顔や身体付きには和柄が合うんですよね。それが顕著となるのが年老いた時。洋風よりも和柄の刺青を背負ってるおじいちゃんの方が渋いでしょ?

自給自足を軸とした生活を求めて、6年前にかほく市に移住したという彫童さん。インタビューをしている間も、庭で飼うニワトリの声が鳴り響いていた。

彫り師になるためには何が必要ですか?

彫童さん

そうですね絵を描くことが好きじゃないと、この稼業は務まらないかもしれませんね。

ふむふむ。

彫童さん

自分の描いた絵が、紙じゃなくて人の身体にのこるなんて最高じゃないですか。紙に書いた絵は燃えたり捨てられたりしない限りずっと世の中に存在し続けるけど、タトゥーに関してはその人が亡くなったら終わり。火葬場で焼かれた瞬間に、そこでひとつの作品が昇華する。そういった儚さを秘めている部分にも魅力を感じます。

これからタトゥーを入れようと思っている方にアドバイスはありますか?

彫童さん

そうですね。自分が描いたデザインを持ち込む場合は、どこにどれくらいのサイズ感で入れるか、完成系をイメージした方が良いですね。たいていがそのまま入れても迫力不足になることが多い。自分だけの観賞用であればそれでも問題ないけど、アートとして成立させるなら第三者が見た時の印象を考える必要があります。なのでカウンセリングの段階で、誰にどのように見られたいかは必ず確認しますね。

北陸際大規模のタトゥーイベントも開催

彫童さんは、彫り師と並行して舞台装飾家としても活動されていたそうですね。

彫童さん

よくご存知で(笑)。90年代の終わり頃から日本では野外のレイブパーティーが流行り出して、それを石川県でもやろうって!って仲間内と始めたのがきっかけ。最初の頃は簡素なセットで音楽を流していたんですけど「やっぱり飾り付けが大事でしょ」となって、ステージの装飾を手がけるようになったんです。それが思いのほか評判が良くて、関東のイベントに呼ばれるようになり、いつのまにかフジロックのひとつのステージも装飾するようになっていました。

昨年は「金沢百万石文化芸術祭」も主催されました。どういった流れで開催されるに至ったのですか?

彫童さん

金沢といえば表の華やかな部分だけがフューチャーされがちだけど、金沢にもストリートカルチャーやアンダーグラウンドな世界が好きな人たちはたくさんいるんですよね。なので金沢の祭りの花形である百万石まつりと相対する形で、イベントを企画しました。

今年7月には第二弾も開催されると聞きました。

彫童さん

今年の開催は3days。昨年ドイツのタトゥーコンペションで優勝した彫健氏や、海外でも賞賛される日本の伝統的な手彫りの彫師さんなどが、ライブタトゥーを繰り広げる予定です。20人近くの彫り師が集まるイベントは全国にもそうないんじゃないかな。

ライブイベントも同時開催されるんですよね。

彫童さん

そうなんですよ。じつは今回は千葉発祥の人気イベント「泡祭」の金沢編も開催する予定で、Rocky & The Sweden、RYDEEN、WARHEAD、切腹ピストルズといった、全国のアングラシーンで活躍するバンドが来てくれます。絶対に盛り上がるので、どうぞお楽しみに!

 

「金沢刺青祭」と「金沢泡祭」については、明日15日に情報解禁とのこと。詳しくは@kanazawa_tattoo__festivalをチェック!

 

タトゥーに関する問い合わせは、Instagram(@captainvacation)まで。

 

 

撮影:林 賢一郎

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