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映像が町の未来をつくる?「Eizo Workshop」がファインダー越しに見る加賀とは

 

メディアアートというと、コンピュータや電子機器などを用いたアートの総称で、絵画や彫刻など伝統的なアートに対して新しいアートの形という位置づけになっています。金沢21世紀美術館のような現代美術館では、そういった作品の展示も多数ありますが、普段アートに触れる機会が少ない人たちにとっては「正直よく分からない」という印象があるかもしれません。

 

今回は、加賀を拠点にメディアアートやアーカイブを専門に活動を行う『Eizo Workshop』の皆さんに話しを聞きに行ってきました!

「映画館のない加賀に映画館を」から始まったプロジェクト

 

メディアアートというもの自体が不思議な存在だからでしょうか。『Eizo Workshop』は、その名の通り映像を用いたプロジェクトを行っているようですが、正直HPの説明やSNSの投稿だけでは、なんだか実態がつかめません。だけど、プロジェクトのタイトルがユニークだったり、イベントではちょっと気になるゲストが登場したり、BONNOの嗅覚を刺激するおもしろそうなニオイがプンプンするのです。今回は、実態が分からないUMAを探しにいくような気持ちで、加賀市大聖寺まで車を走らせました。

 

 

左から川端一嵩さん、木村悟之さん、明貫紘子さん、小林真幸さん、丸山達也さん。

 

案内された古いビルの3階。薄暗い階段を上ったところに広くて明るいオフィスがありました。出迎えてくれたのはこの5人です。

 

オフィスに入るとちょうど皆でモニターの画面を見ていたところでした。

「これ、1977年に北陸新幹線を加賀に通す計画について議論をしている音声なんです。」と代表の明貫さん。そんな前に北陸新幹線の話が出ていたの?という驚きと同時に、なぜその資料がここに?という疑問も浮かんできます。

 

「Eizo Workshop」は、キュレーションやメディアアートの研究を行う明貫紘子さんと映像作家でもある木村悟之さんのご夫婦が立ち上げた合同会社。お二人は以前ドイツを活動の拠点としていましたが、日本に帰ってくるタイミングで加賀の地域おこし協力隊の募集を見つけ、移住してから現在の前身となる、映画館のない加賀市に映画館をつくるプロジェクト「いい湯だなシネマ」という活動をされていました。

 

現在は、4つのプロジェクトを柱として地域で意義のある活動を進めています。

 

「いい湯だなシネマ」を引き継ぎ、上映会や映画フェスを開催する『Popup Screen』では、大手の映画館では取り扱わないような単館系の作品やアート色の強い映像をはじめ、他プロジェクトで発掘した映像の上映会も開催。

 

2019年9月に大聖寺川沿いにあるカフェで行われた屋外上映の様子。

2021年12月に行われた「8ミリフィルムをみんなで見て話す会」。

 

『モモモモンタージュ』では、郷土の映像資料を集め、それをデジタルアーカイブするという取り組みを行っています。特に現在精力的に行っている「かがが」というプロジェクトはこの一環で、ウィキペディアと同様のシステムを使って気軽に郷土資料を閲覧できるサイトを運営しています。

 

ホームビデオで撮影された昔の映像を元につくられた当初のチラシ。映画好きな地元の女の子がレビュー付きで制作してくれたとか。

 

中谷宇吉郎の著書「イグアノドンの唄」に由来するタイトルをつけたZINE。表紙は毎号地元の子どもたちが書いたイラスト。

 

他にも10代の若者と共に合宿を通して映像制作を行うワークショップ『EXOTIC FUTURE』や、アート&サイエンスを専門にする明貫さんにとって大事な存在だという、片山津が生んだ科学者・中谷宇吉郎と片山津温泉の地域についてを掲載するZINE『イグアノドン』オンラインショップにて販売中)の制作など、独自の目線でユニークなプロジェクトを行っています。

歴史を掘り下げ町を知ることで、この場所ならではの企画を

オフィス内には数々の書物が並ぶ。

ドイツから移住する際、地域おこし協力隊の募集はいろんな場所で行っていたと思うのですが、なぜ加賀市だったのですか?

明貫さん

私が石川県出身で縁があったのもあるんですが、加賀市が募集していた地域おこし協力隊が自由枠で、言ってしまえばどんなプロジェクトでもいいですよ~という感じだったのが大きかったと思います。

「いい湯だなシネマ」を始めて、加賀のどんなことを知れましたか?

明貫さん

上映会をするだけでなくて、映画館のない加賀の歴史調査も独自に進めていたんです。そこで、以前は5つの映画館が存在していたことを知りました。しかも明治か大正時代くらいのことだと思うんですが、全国にもまだ数件ほどしか映画館がない時代に、山中温泉に映画館があったらしいんですよ。

え、すごい!

木村さん

僕たちも驚きました。でも、残念ながらその5館とも、時代が進む中で成人向けの映画館になり、最終的にストリップ劇場になって閉館してしまったんです。そうやって歴史を紐解いていく中で、いろんな地域資料を集めようということになったんですよ。

ふむふむ。

木村さん

元々僕は映像制作を、彼女(明貫さん)はメディアアートの研究をしていたので、その2人で思いついたのが、地域の家庭で撮られたホームビデオも、地域のリアルな様子が映った立派な郷土資料になるのではないかということでした。

なるほど。どうやってそのホームビデオを集めたんですか?

木村さん

やはりどの地域にも“地域活動プレイヤー”みたいな人がいるんですよ。そういう方にお声かけをすると、一気に広めてくれて「あの人なら持ってるかも」などと教えてくれるんです。

へぇ~やはり口コミは大きな力になるということですね。その映像は結局どうなったんですか?

明貫さん

こちらでデジタル化する代わりに公開させてほしいとお約束させてもらって、今は「かがが」のページに公開されています。例えば、一般の方の結婚式映像などもあって、それについては親戚の皆さんを集めて上映会も行いました。見られなかった映像が時を越えて見られるようになり、感激して泣いている方もいらっしゃいましたよ。

それだけでも意義があることだと思えますね。今「かがが」プロジェクトを担当しているのは丸山さんと小林さんとのことですが、今後どのような形になっていくんでしょうか?

小林さん

誰でもページを作成・編集ができるウィキペディアと同じシステムを採用しているので、今後は住民の方々に利用してもらってアーカイブを増やしていってもらえるように構築したいと思っています。

丸山さん

いつか僕らの手から離れた後も続いていくようにこのシステムを使っているので、イベントなどを通して地域の方とコミュニケーションを取りながらその土壌づくりをしていきたいですね。

現在、夏から秋にかけて数回にわたって行う「かがが」のイベント「ウィキペディアタウン」を開催中。日本語版ウィキペディアの管理者や、ウィキペディアに詳しい専門家をゲストに迎え、実際に「かがが」と「ウィキペディア」の記事を書いてみるワークショップです。途中参加もOKとのことなので、ウィキペディアンになりたい方は参加してみては。

 

 

市民自らが、自分の暮らす地域や、関係するコミュニティにおいて生じた出来事を記録し、それをアーカイブとして継承しようとする活動「コミュニティ・アーカイブ」についてのトークイベント。

川端さんは最近このチームの一員になったとのことですが、どんなところに魅力を感じたんですか?

川端さん

僕は趣味で写真を撮るんですが、地域の昔の写真に興味があったんです。偶然ここの8ミリフィルムの映像を見る上映会のことを知って、そのイベントには当日は行けなかったんですが「コミュニティアーカイブ」のオンライントークイベント(上記動画)を見てみました。それがとても面白くて感想を送ったんですよ。

明貫さん

せっかく興味がある方から連絡が来たので、じゃあ遊びに来てくださいって言ってみたら本当に来てくれて。今は作業を手伝ってもらっている感じですが、今後は何か企画もしていきたいねと話しているんです。

『EXOTIC FUTURE』もそうですが、若者と関わっていくことで、今の活動や記録を次世代につなげていく意識が大変強いように感じます。

明貫さん

若い人たちには、田舎でもクリエイティブなことを通して色んなことに挑戦できるということを知ってもらいたいという気持ちはありますね。日本は政治も文化も中央集権的で、都会で発信したものを地方に広げるような仕組みがあるじゃないですか。例えば地方で開催されるような大きなアートフェスティバルも東京の会社や専門家がやることが多いですよね。

そうですね。同じアーティストの作品をあちこちの芸術祭で見かけるなとは思っていました。

明貫さん

私たちがいたドイツではそうじゃなかったんです。州や地域ごとで独立していて、自分たちならではの、その場所に根差したことをやろうという風潮があったんです。その町の重要なアーティストのことを継承していたり、伝統的な文化を掘り下げていたり、どの町でも同じようなことをやっているなんてことは決してありませんでした。

そうなんですね。

木村さん

僕たちは今の日本の現状は脱却しないと、アートシーンがとても単一になってしまうと思っているんです。活躍できる人の幅もとても少なくなるし。

明貫さん

若者たちにそこで諦めてほしくないじゃないですか。ちなみに『EXOTIC FUTURE』はコンピュータクラブハウス加賀という施設と共同で行っているプロジェクトなのですが、開催した当時高校生だった子が今この施設のメンターをしていたりもするんですよ。

それは嬉しい話ですね!なかなか類を見ないワークショップですし、子どもたちにはすごい刺激になったでしょうね。

木村さん

ドイツではこういうハチャメチャな企画みたいなものがあっちこっちで行われていましたよ。それが我々にとってすごく心地よい環境でした。東京でもそういう感覚はなかったんです。もっと洗練されたイベントはたくさんあったんですけど。

明貫さん

土着的な、この場所だからこそできる企画を考えることで、自分たちが加賀で文化的刺激を作る環境になっていければなと思っています。

メンバー全員加賀市出身ではない「Eizo Workshop」の皆さん。しかし、加賀の文化や歴史について物凄く多くの知識があり、オフィスには洋書やアートブックに紛れながら数えきれないほどの加賀や石川についての文献が置いてありました。

 

アーティストとしての自由な感覚を持ちながら、研究者としての目線を携えて、ユニークな、そして加賀でしかできないプロジェクトが、これからもこの古ビルのオフィスから生み出されていきます。

 

 


 

Eizo Workshop(映像ワークショップ)

HP:https://www.eizo.ws/

 

撮影:林 賢一郎

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