
呑兵衛ご満悦。能登に伝わる幻の“べか鍋”を作ってみたら想像以上に旨かった
私たちが暮らす石川県では、まつやの「とり野菜みそ」や、魚醤いしるを使った「いしる鍋」など、豊かな食材を活かした“ご当地鍋”が食されています。そんな中、BONNO編集部の食いしん坊スタッフが「能登地方に“べか鍋”という幻の鍋が存在するらしい」との情報をキャッチ。さっそく調査をしてみることにしました。
こんかいわしと酒粕を使った冬の味覚
(C)石川県羽咋市商工観光課
農林水産省のホームページによると、べか鍋とは「能登地方(おもに羽咋市)に伝わる、コンカイワシを塩漬けした白菜やきのこなどと一緒に酒粕で煮る鍋料理。庶民の間で“今日も食べっか”という会話がよく交わされたのが名前の由来になったといわれている」とのこと。秋から冬にかけて食べるのが一般的ですが、塩分を多く含んでいることから、その昔は食が進まない夏の時期に食べる家庭も多かったそうです。
それと諸説ありますが、酒造りを終えて帰った能登の杜氏たちが手土産に持って帰った酒粕とこんかいわしで一杯やる。そんな風習がルーツになっているなんて話も。兎にも角にも、呑兵衛との相性抜群な鍋であることは間違いなさそうです。
塩漬けのイワシを、糠(ぬか)や麹(こうじ)、赤唐辛子で漬け込んだ、能登地方に伝わる保存食。春先に漬け込み、夏の高温多湿な気候を生かして発酵させたもので、塩辛さと独特の旨みがあることで知られている。
べか鍋を作るためには“こんかいわし”をゲットしなければ!ということで訪れたのが、金沢市の金石地区にある「油与商店」。創業300年の歴史を誇る、糠漬けと粕漬けの専門店です。
その昔は、能登で暮らす人々にとってイワシは大切な冬のタンパク源。塩と米糠につけて保存するのが一般的で、大所帯の家では四斗樽(72L相当)に漬けていたと言います。油与商店では、このこんかいわしを作るために、代々受け継がれている“木桶”を使用。長年にわたって染み込んだ味と、そこにいる無数の微生物が発酵の手助けをしています。
もうひとつスープに使う酒粕は「福光屋」の福正宗純米吟醸酒粕を使用。味の決め手になりそうなので、良いものを使ってみました。
そんでもってこちらが今回使用する材料。作り方は油与商店がクックパッドで公開しているレシピを参考に、多少アレンジを加えました。
【材料(2人分)】
ダイコン…1/2本
ニンジン…1/2本
こんかいわし…1本
だし汁…3カップ
酒粕…30g
味噌…大さじ2
家庭によっては白菜の漬物やキノコ、生のイワシなども入れるそうですが、今回は初挑戦ということでシンプルに!それでは実際に作ってみましょう。
ポイントは“焼き”の工程にあり!
まずはダイコンとニンジンを食べやすいサイズに刻みます。この時期の根菜は本当に美味しいですよね〜。
刻んだ野菜を、酒粕を溶かしただし汁で具材に火が通るまで煮込みます。
煮込んでいる間にこんかいわしを焼きます。これが一番のポイントで、焼くことで糠とイワシが香ばしく、甘みが出て、生臭さも感じにくくなるのだそうです。ただし、匂いが強烈なので換気扇を回すか脱臭機能付きのオーブンを使うことをおすすめします。
こんかいわしが焼き上がったら、少しずつほぐしながら骨を取り除いて鍋に入れていきます。このときスープに入れるのではなく具材の上に乗せて、蓋をしてから少しだけ蒸し焼きにすると良いとのこと。味を整えるための味噌もこのタイミングで投入します。
ついに完成!お味の方はいかに?
あっという間に完成したのがこちら。こんかいわしの芳醇な匂いが食欲をそそります。
今回のお供は珠洲市「宗玄」のワンカップ。きっとこの鍋には辛口の酒が合うと思い、セレクトしてみました。
肝心の味の方はというと…想像以上に美味!
こんかいわしのコクと香ばしさに酒粕がまろやかさが加わって、なんともいえない濃厚なコクと芳醇な香りの鍋となりました。ダイコンとニンジンにも味がしみしみ。こんかいわしの塩味が効いて、まさに呑兵衛の鍋といった具合です。まさかこんなに美味しく仕上がるとは!
個人的にはリピ確定。年末年始に友人らを家に招いた際にはぜひ披露してみたいと思います!
撮影:林 賢一郎