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【HAND】⑥独学で作り始めて30年。ギター職人の近信濃さん

指で弾かれたナイロン弦とボディが共鳴し、包み込むような優しい音色を奏でるクラシックギター。今回はギター職人の近信濃さんに会いに、石川県小松市にある工房を訪れた。

 

近 信濃(こん・しなの)
1968年東京都生まれ。学生時代から独学でギターの修理や製作を始め、会社員として働きながら創作活動を続ける。2008年に独立。2011年に石川県小松市に移住し、クラシックギターやウクレレを製作する工房『近撥弦楽器』を設立した。

 

小松市の工房『近撥弦楽』にて。

 

なにもわからないのが逆に面白かった。

近さんがギター製作に目覚めたのは大学時代。趣味でギターを弾いているうちに、何百万円もするクラシックギターが欲しくなった近さんは「買うのは無理だから自分で作ってみよう」と、独学で作り始めた。

 

「今のようにインターネットが盛んではない時代。独学で始めるには情報が少なすぎるので、まずは家にあったギターを分解して、どんな構造になっているのかを徹底的に調べました。それから見よう見まねで作ってみたんですが、形は似ていても音の鳴りが全く違う。これじゃマズイと思って、神田の古書店で弦楽器関連の洋書を買って、辞書を引きながら少しずつ知識を深めていきました。そこには海外の弦楽器協会の電話番号も載っていて、分からないことをファックスで聞いたりもしました。これが意外と親切に送り返してくれる人が多くて。そういうやり取りを重ねて、少しずつ感触をつかんでいきました」

 

手前のギターは学生時代に作った初作品。これまでに130本以上は製作しているそう。

 

ギター職人になるためには師匠のもとに弟子入りするのが一般的。それでも近さんは大学卒業後も弟子入りせず、会社員として働きながら独学で作り続けることを選択した。

 

「当時はまだ、すべてを投げ打つほどの覚悟はなくて、あくまで趣味の延長という感覚でした。その分、技術が身につくまでだいぶ遠回りしたけど、自分であれこれ考えながら作り出すという過程がとにかく面白かった。結果的にはそれが良かったのかもしれません」

 

板の厚さや補強材の調整など細部までこだわり。一本のギターが完成するまで3〜4ヶ月かかるそう。

 

ワシントン条約の関係で使える木が減る中、新しい材料を研究するのも仕事のひとつ。

 

しばらくは作っては分解しての繰り返し。それから少しずつ完成したギターを友人らに贈り始め、商品として売れるまでには約10年の月日が経っていた。

 

「同じような材料で、同じように作っても、同じ音が出るとは限らないのがギターの不思議なところ。数値では表れない、作り手の感覚に委ねられる部分に、仕事としての魅力を感じました」

 

材料を叩いて鳴る音を確かめながらギターを作り上げていく。

 

北陸の風を感じるようなギターを作りたい

勤めていた会社を退職して、ギター製作一本に切り替えたのは2008年。収入が激減する不安は感じていたが「あなたの好きなことをやって欲しい」という奥さんの後押しもあって、独立を決意した。そんな近さんが目指すギター作りとは。

 

「お客さんが求める音を作るのが僕の仕事。なので、お客さんとは何度もディスカッションして、理想の音に近づける作業を繰り返します。その一方で、自分が暮らす北陸の風土に根付いたギターを作りたいという気持ちもあります。たとえば乾燥したスペインではカラッとした音のギターが作られるように、北陸らしい叙情的で潤いのあるギターがあっても良いと思うんです。ギターにはバイオリンのような完成形がありません。言い換えれば自分の音を追求できるいうこと。伝統的なクラシックギターの良い部分は残しつつ、新しいものを生み出したいと考えています」

 

「自分らしい音を作りたい」と近さん。

 

2011年には奥さんの実家がある小松市に移住。昨年4月には工房も新しくなった。

 

「こっちに来るまでは気候や湿度の面が心配だったけど、思ったよりも作りやすくて安心しました。クレモナやパリやロンドンなど、海外でも有名な楽器の制作拠点はわりと湿度が高い場所に集中していて。湿気によって材料が呼吸することでエイジングもされるし、素材の成長といった意味でも結果的に正解でした」

 

楽器は材料からスケールなど完全オーダーメイド。価格は500,000円(税抜)

 

端材で作ったアクセサリー。金沢百番街の「アーバンリサーチ」にも置いている。

 

日本独自の音を求めて、近年は桐などの新たな素材にも挑戦している近さん。これからどんなギターが作られていくのか楽しみだ。

 

◯手にはその人の生き方が現れる。【HAND】バックナンバーはこちら

 

(取材・文/吉岡大輔、撮影/林 賢一郎)

 

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