東京オリンピックの味が受け継がれるビーフカレー|煩悩を断ぜずして咖喱を得るなり #05
いまでこそカレーライス=日本の国民食となっていますが、もとはといえばインド発祥の食べもの。
なんでも明治時代にイギリス(※)で発明されたカレー粉が日本に上陸してから、じわじわと家庭に普及していき、1964年に開催された東京オリンピックあたりから国民食として定着するようになったそうです。
今回は、その東京オリンピックの選手村で生まれた『PINE DINER』の1964カレーをご紹介します。
※ 当時のインドはイギリスの植民地だった。
片山津温泉総湯から歩いて10分。
世界のアスリートも納得の味。
やってきたのは片山津温泉にある『PINE DINER』。店主の愛車と思わしき年代物のハーレーが、アメリカンな雰囲気をグッと引き立てています。
お店の中は洗練された大人の隠れ家といった印象。実際にバイカーやキャンパーなど、いろんな遊びを経験してきた常連さんがよく訪れるそうです。
古き良きアメリカのレストランを彷彿とさせるレトロな店内。
日当たりの良い個室は、コロナ禍でも安心して食事ができるようにと改装中。
地元・加賀でステーキハウスを経営していた父のもと、料理の基本を学んだ店主の横山修さん。
洋食一筋の父から受け継いだメニューは、ハンバーグやパスタに日替わり定食など、種類も豊富。自家製デミグラスソースをはじめ、オリジナルの味にもこだわっています。
店主の横山修さん。なんと1964年生まれ(実際の営業中はマスクを着用しています)
「1964年の東京オリンピック開催中、父は選手村の料理人として世界中のアスリートに食事をふるまっていました。1964カレーはその当時のレシピを父自身が再現したものなんです」と横山さん。
まだ洋食が一般的ではなかった時代、フランス料理界の巨匠・村上信夫シェフを中心に、試行錯誤を重ねてようやく完成したカレーライス。あえて辛さを抑えたフルーティーな味わいで、世界中のアスリートから好評を博したといいます。
それでは実際にいただいてみましょう!
1964カレー
1964カレー 968円(ランチタイムはミニサラダとスープ付き1,078円)。
カレーソースが完成するまでにざっと1日半。独自に配合した秘伝のスパイスと小麦粉、玉ねぎを炒めてルウが完成したら、それをブイヨンで溶いて、さらに玉ねぎと牛肉を加えてじっくり煮込みます。
とろみがついたら仕上げにリンゴなどのフルーツを加えて、最後に塩をひとつかみ。これで味がギュッと引き締まるそうです。
玉ねぎやフルーツが跡形もなく溶け込んだビーフカレー。辛さは控えめでマイルドな味わい。
ポイントは隠し味のショウガ。
「ショウガはスパイスの風味を引き立てるだけでなく、消化器官の働きを助けてくれます。選手村の食事は、アスリートの健康面も意識して作られていたそうですね」と横山さん。
たしかによ〜く味わってみると、フルーツの酸味とチャツネの甘味の奥に、ショウガの香りを感じるような。胃もたれしにくいので、酒席の〆にも人気なんだそうです。
選手村の料理人として1964年大会に貢献した父の保さん。その経験を足がかりに地元加賀で「グリルパイン」を開業した。
フルーティーな味わいのカレーには、ライトな飲み口のコロナビールがあう。
レトルトパックも販売している。540円。
皇太子時代の明仁陛下が片山津を訪れたときに、おかわりをして帰ったという伝説もある『PINE DINER』の1964カレー。
1964から2021へと、半世紀にわたって受け継がれたその味は、日本のカレー史にしっかりと刻み込まれています。
カクテル、ブランデー、ワインに焼酎、なんでもござれ。
PINE DINER
パインダイナー
石川県加賀市片山津温泉桜ヶ丘62-1
TEL.0761-74-1984
営業時間/10:30~14:30、17:30〜22:00(L.O.21:30)
定休日/第2・3日曜日(不定休あり)
席数/カウンター8席、テーブル22席
駐車場/10台
※こちらの情報は取材時点のものです。
(取材・文/ヨシヲカダイスケ、撮影/林 賢一郎)