つながれ友達の輪!私のマスターピース⑬|演出家・梅田亜希子の場合
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自分的最高傑作、ありすぎる!
その時々によって変わってくるのですが、中でもきっと私の根底にいるんだろうという、忘れられない作品を紹介します。
私はジャンルでいうと『演出すること』を仕事にしています。ランウェイの一瞬を輝かせるような、どこか刹那的な魅力に惹かれてこの世界に入り十数年。今は、演出仕事の幅も増え、ショーやイベント、映像作品などを手がけています。
そんな私のマスターピースは、 エロール・ル・カインの『いばらひめ』という絵本です。
これは、私が2歳のころ母が買ってくれたお気に入りの絵本です。年季入っていて薄汚れていますが今も大事に手元にとってあります。
お話はグリム童話の「いばらひめ」そのものなのですが、先述のとおり30年以上たった今でもなぜか心がざわつくように惹きつけられる作品です。
イメージの魔術師と謳われた エロール・ル・カインの挿絵を見ると、中に吸い込まれそうになるくらい華麗。どのページも色彩豊かで何といっても装飾が細かい!絵だけで物語が伝わってきます。
テキストページの縁どりにも絵が盛り込まれていて、それが内容とリンクする芸の細かさ、登場人物の躍動感、表情の移り変わり(すみません盛り上がってしまいましたが)というように、この絵本の最大の魅力はなんといっても圧巻の絵の美しさ!しかしそれは美しいだけではなく、妙に胸を締め付けるような、何ともいえない気持ちにさせるのです。
中でも今だにずっと頭から離れない1ページがあります。
こちら、塔へ登る姫の絵です。
気になったので大人になってから母に聞くと、まだ文字も読めない幼かった頃「いばらひめ」は私のお気に入りの絵本で、このページだけをずっと食い入るように毎日飽きずに見ていたようです。しかも結構な年数続いたみたいです。なにそれ?!怖い…
実はこの絵、お話の途中に挿絵として出てくるのではなく、ハードカバーの表紙を開くとタイトルの前にただ1ページだけこの絵が出てくるのです。この物語を象徴するような印象的な絵。
いばらひめのお話を知っていると、この絵が意味深であることがわかります。
長い螺旋階段の不安定さが、まさに扉をあけようとする無邪気な姫にこれから起こることを暗示しているかのような…
「あぶない!開けないで!」と言いたくなる絵です。
幼かった頃の自分は黄色い綺麗なドレスやうねうねしている階段の絵にひきこまれたのだと思うけど、何かしらの危うさを感じ取っていたのかもしれないですね。
そもそも、何でうちの母は2歳の娘にこんな大人っぽい絵本を与えたのか?もっと子供っぽいポップなものもあったのではないか?と。
はい。聞いてみました。本屋で見つけて綺麗だったからひとめぼれで買ったようです。単純な理由だけど、今思うことは母のセンスを賞賛します。80年代前半にこれをチョイスしたことに驚きです。
他のページにも全部いえることは、単なる綺麗な絵本というだけでなく、ル・カインの絵は全てにおいて憂いを含んでいるということです。幸せそうな場面にも毒がひそんでいたり、何か不安にさせる要素があると私は思っています。だからこそ、そこに惹かれるのだと。
まず、表紙にも使われている、仙女が王宮に招かれるシーン。左の魔女、めちゃくちゃ気になります。一人黒い。実は仙女なんですが。
この横のテキストページにはイラストがあるのですが、よく見ると12枚しか黄金の皿がないんです。行列には黒い仙女を含めて13人いるのに。もうこの時点で不穏なことが起こりそうです。
どんどんいきます。
いばら、強大だし人によっての変化がはげしい!
すごいいっぱい雑に寝てる!姫だけ手厚い。
わざと対になる表現をしているような気もします。
もっとありますがキリないので…。私は全ページにそういった仕掛けがあると感じています。
この絵本が私の根底に残っていると思ったのは、写真は妙に遠近法を使った写真が好きだし、狭い隠し通路がありそうな古城にも興味あるんですが、何より『物語』好きだということ。その背景を考えるのも。
面と裏が確実に存在するけど、裏の事情が気になります。暗に意味するみたいなことだったり、フォーカスされていない物語のこと。何ともいえない気持ちっていうのは、そこにずっと惹かれてるからなのかなと。
実際、1人だけ招かれなかった仙女かわいそうだし。皿がなかったから呼ばないって何?!って感じですよね。
大人になってから絵本を見返すと新しい発見がたくさんあることに気づいて、絵本マニアになりました。もちろんル・カインはほぼ揃えました!
「キューピットとプシケー」「ハーメルンの笛吹き」「1993年のクリスマス」「美女と野獣」も見応えあります。
みなさんもぜひ手にとって見てください。大人も子供も気づきがたくさんあるはず!
私は仕事でも『物語』を大事にしています。
全てのことに物語はあるので、自分で見る側になりきって、没入して、妄想して、感情移入して、楽しみながらいいプランを出して演出することが私の仕事だと思っています。
企画書から何でもストーリー仕立てにしてしまいます。
要するに『わくわくすること』を考えていたいし、していたいんです。
その思考を潜在的にあたえてくれたのが、この1冊の絵本の力だったような気もします。母に感謝!
私の次は、ラジオDJ、MCをしているChigusaさんにバトンタッチします。「話す」を生業とする声のスペシャリストの彼女が文章を書いて伝えるということが面白いな、見てみたいなと思いました。
話術巧みでぐいぐい聞き手を巻き込んでいく姿はには圧倒されます。私は以前、現場で共演タレントではなくMCである彼女に「とても面白かったです」と感想を述べにくる観客をはじめて見ました。
そんな彼女のマスターピースが楽しみです。
今回の寄稿者
梅田亜希子
演出家/KuRoKo inc. 所属。ファッションショーをはじめ、多数アパレルブランドや雑誌のイベント、映像作品等の演出、プロデュースを手掛けている。
オフィシャルサイト:KuRoKo inc